感情を描写する比喩表現に用いられることが多い空模様。「雨」も様々なアーティストにインスピレーションを与えてきた。悲しみはもちろん、それ以外の要素とも結びつきながら独自の世界を作り上げている20曲をお届けする。
■雨の日に聴きたい歌20曲
1.「雨燦々」King Gnu
2.「雨とカプチーノ」ヨルシカ
3.「Ref:rain」Aimer
4.「恋音と雨空」AAA
5.「ENDLESS RAIN」X JAPAN
6.「雨のち晴レルヤ」ゆず
7.「真夏の通り雨」宇多田ヒカル
8.「umbrella」SEKAI NO OWARI
9.「TSUNAMI」サザンオールスターズ
10.「五月雨」&TEAM
11.「群青日和」東京事変
12.「泥中に咲く」ウォルピスカータ
13.「Cry Baby」Official髭男dism
14.「ランデヴー」シャイトープ
15.「Imitation Rain」SixTONES
16.「umbrella」Mrs. GREEN APPLE
17.「恋をしたのは」aiko
18.「一輪花」tuki.
19.「フォニイ」ツミキ
20.「陽はまた昇るから」緑黄色社会
「雨燦々」King Gnu(キングヌー)
テレビドラマ『オールドルーキー』主題歌。一般的に“雨”はネガティブなイメージと結びつけられることが多いのだろうが、この曲の聴き心地はとてもすがすがしい。身体に降り注ぐ雨をじっくりと感じた末に訪れる心情の変化を、歌詞はもちろん、サウンドでも描写している。
雨上がりの日差しをイメージさせる終盤の展開が心地よい。憂鬱な雨も、この曲を聴くと愛しく思えてくる。
「雨とカプチーノ」ヨルシカ
雨音のようなギターのカッティング、躍動するビートを体感させてくれる「雨とカプチーノ」。主要なモチーフの“雨”と“カプチーノ”を通じて、今はもういない“君”への想いが綴られていく。聴き心地は柔らかだが、強い寂寥感が伝わってくる。
ヨルシカの音楽は、ブックレットやアートワークと共に味わうと解釈がより深まる。アルバム『エルマ』を手にして聴くと、この曲がさらに好きになれるはず。一人、雨の日にカフェの窓際に座って聴きたい。
「Ref:rain」Aimer(エメ)
テレビアニメ『恋は雨上がりのように』エンディングテーマ。
冴えない年上の男性に対する女子高生の姿を描いたアニメの世界が美しく刻まれている。
同作の中でも重要な場面を彩る雨が描写されているが、フレーズの繰り返しを意味する“リフレイン”と“雨=レイン”を掛けているのが味わい深い。Aimerの独特な声質は、募り続ける恋心の切なさを鮮やかに伝える。アニメと曲を併せて鑑賞するのをおすすめしたい。
「恋音と雨空」AAA(トリプルエー)
2013年にリリースされて以来、AAAのファンに深く愛されている「恋音と雨空」。
CMソングに起用されていたので、耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。気持ちのすれ違いで離ればなれになった大切な人への想いが、みずみずしいメロディにのせて歌われている。
試練を経るからこそ愛と絆は強まるのだと伝えるこの曲は、たくさんの恋人たちを励ましてきたはずだ。雨が降る街の風景の描写が美しいからこそ、しとしとと降り続ける雨の中、ひとりで歩く街角で聴きたい。
「ENDLESS RAIN」X JAPAN(エックス ジャパン)
1989年のアルバム『BLUE BLOOD』に収録されたあと、シングルとしてもリリース。
ハードロック/ヘヴィメタルにクラシック音楽の要素も取り入れているX JAPANならではの曲だ。ピアノを基調とした序盤を経て、激しいサウンドが合流していく展開がドラマチック。X JAPANは、バラードの名曲もたくさん生み出している。
「ENDLESS RAIN」は、彼らの音楽の奥深さに触れるための入口として最適だ。
「雨のち晴レルヤ」ゆず
NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の主題歌。思いどおりにはならず、予想外のことも起こる人生を空模様に喩えて表現している。
苦難に直面している人に優しく寄り添い、明るい未来がいつかやって来ることを伝える歌だ。篠笛奏者・佐藤和哉の曲「さくら色のワルツ」を土台としつつ、ドヴォルザークの「遠き山に日は落ちて」も引用しながら構築。郷愁を誘うメロディに耳を傾けるひと時は、大きな安らぎを届けてくれる。
どんよりとした曇り空から、少しずつ雨が強くなる午後に聴きたい。
「真夏の通り雨」宇多田ヒカル(うただ ヒカル)
日本テレビ『NEWS ZERO』テーマ曲。並んでいるふたつのフレーズ“ずっと止まない止まない雨に”“ずっと癒えない癒えない渇き”が印象的。描かれているのは、ひたすら悲しみと向き合っている姿だ。
どこか張りつめた空気感を醸し出しているストリングスの響きも含めて、心の痛みをあるがままに見つめた末にあるのかもしれない未来を探っているところに、この曲の生々しさと深い味わいがある。
「umbrella」SEKAI NO OWARI(セイカイノオワリ)
テレビドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』主題歌。“umbrella=傘”で喩えられているのは、悲しみや苦難から誰かを守る存在だ。
“傘”は役割を通じて“君”との繋がりを感じ、自身の存在意義を確かめることができている。しかし、雨が止んでしまったら、そんな関係性には終止符が打たれてしまう。“愛”や“優しさ”と呼ばれているもののエゴイスティックな側面について問いかけてくる曲だ。
「TSUNAMI」サザンオールスターズ
リリースされたのは2000年。名曲が数多いサザンだが、「TSUNAMI」も燦然と輝き続けている。
終わった恋を表現した曲としてストレートに受け止めることもできるが、人生のなかで起こり得る様々な出来事と重なる普遍性も帯びている。
印象的なフレーズを一つ挙げるならば、やはり“思い出はいつの日も雨”だろうか。時が過ぎても色あせない感情をリスナー各々の胸の内に浮かび上がらせる絶大な力がある。しっとりと降る雨の中をドライブしながら聴きたい。
「五月雨」&TEAM(エンティーム)
2024年5月にリリース。焦燥と苛立ちが描かれている序盤を経て晴れやかな響きを一気に帯びる展開は、臆せずに本音を伝えることで深まる強固な絆をイメージさせる。
ご存知のとおり、&TEAMは多国籍グループ。異なる環境で各々の個性や価値観を育んできた9人の実像と重なるものを「五月雨」から感じ取るリスナーが少なからずいるはず。多彩な表情や息の合ったダンスパフォーマンスを捉えているMVも必見!
「群青日和」東京事変(とうきょうじへん)
椎名林檎が結成したバンド・東京事変が2004年にリリースしたデビューシングルのタイトル曲。作曲したのはメンバーのH是都M(Key)。
疾走感にあふれたストレートなロックサウンドが気持ちいい。歌い出しの“新宿は豪雨”を耳にした瞬間にイメージできるのは、雨模様の街の風景。
“突き刺す十二月と伊勢丹の息が合わさる衝突地点”など、固有名詞も交えた歌詞は、解釈を自由に広げる楽しさに満ちている。
泥中に咲く」ウォルピスカーター
2018年にリリースされた3rdアルバム『これからもウォルピス社の提供でお送りします。』に収録。
ウォルピスカーターのハイトーンボイスが圧倒的に心地よい。非情な現実と直面しながら感じる閉塞感を雨や泥などをモチーフとしながら描写している。
希望を見出すための視点を随所で示す歌詞は、心に響く表現の連続。終盤で歌声が放つ熱量もリスナーを鼓舞する大きな力を帯びている。
「Cry Baby」Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)
テレビアニメ『東京リベンジャーズ』主題歌なので同作の設定、世界観、物語を踏まえている歌詞だが、“予想通りの雨にお前はにやけて”“土砂降りの夜に 誓ったリベンジ”というフレーズが出てくるので、“雨の歌”と解釈することもできるだろう。
最大の魅力は、やはり大胆な転調の連続。タイムリープを繰り返しながら運命を変えようとする物語が、スリリングな展開を遂げるサウンドを通じてもイメージできる。
「ランデヴー」シャイトープ
2023年4月にリリースされたあと、徐々にリスナー層を広げていき、同年末にストリーミングでの累計再生回数が1億を突破。
失恋した際の心情を鮮やかに表現した歌詞、みずみずしいメロディがたくさんの人々の心を震わせた。“透明な雨の中 あの街でランデヴー”が鮮烈な印象を残してくれる。終わってしまった恋を否定するのではなく、大切にし続けているからこそ募る悲しみを描写しているのが切ない。
「Imitation Rain」SixTONES(ストーンズ)
2020年1月にリリースされたSixTONESとSnow Manのデビューシングル『Imitation Rain / D.D.』。両A面の内、「Imitation Rain」がSixTONESの曲。作詞作曲をX JAPANのYOSHIKIが手掛けている。
激しい雨に打たれながら未来を見つめる描写の数々が、SixTONESのデビューを飾るのにとてもふさわしかった。美しいハーモニーを満載していることも含めて、6人の歌の実力を存分に味わえる曲だ。
窓に強い雨が打ちつけ、雷が遠くで鳴っているような日に聴きたい。
「umbrella」Mrs. GREEN APPLE(ミセス グリーン アップル)
2016年にリリースされたシングル『サママ・フェスティバル!』のカップリング。
アルバム『Mrs. GREEN APPLE』にもAlbum Versionが収録された。癒えることのない悲しみ、埋まることのない心の空白、募り続ける喪失感を雨の描写を交えながら表現。
“僕が傘になる 音になって 会いに行くから”が“もう傘はいいね 僕はただ 会いに行くから”に変化するエンディング間際が胸に深く沁みる。
「恋をしたのは」aiko(アイコ)
京都アニメーションが手掛けた映画『聲の形』の主題歌。
原作の大ファンだったaikoは情報が解禁された際、「この映画のそばにずっといられる歌をうたいたい!と強く思いました」というコメントを寄せた。
かけがえのない相手との恋が生む無上の幸福が、“迷わぬよう歩いていけるたったひとつの道標”に集約されている。映画もアニメファンから高く評価されている名作なので、まだ観ていない人はぜひ!
「一輪花」tuki.(ツキ)
何らかの理由によって大切な人ともう会えなくなった時に押し寄せる悲しみを“雨”に喩えている「一輪花」。
恋人との別れの曲として受け止められるだけでなく、家族、友人、仲間など、様々な関係性に当てはめて聴くこともできる。喪失感を噛み締めた時期を経て力強く前に進む姿を“一輪花”に託した表現が鮮烈。
tuki.の凛とした歌声自体も強いメッセージを携えながら迫ってくる。
「フォニイ」ツミキ
ボカロPのツミキが2021年に発表。バーチャルシンガーの花譜が音源を提供したCeVIO AI・音楽的同位体 可不(KAFU)を使用している。
“フォニイ=phony”とは“偽物、まがい物”という意味。“絶望の雨はあたしの傘を突いて 湿らす前髪とこころの裏面 煩わしいわ”など、冷めたトーンの感情表現が重ねられているが、その裏側に隠されている本当の気持ちが徐々に滲み出てくるのを感じる曲だ。
「陽はまた昇るから」緑黄色社会(りょくおうしょくしゃかい)
映画『クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』の主題歌。
この曲について緑黄色社会は「しんちゃんにもきっと寂しい時だったり、悲しいことがある。そんな気持ちに寄り添える楽曲にしたいと思って書きました」とコメントしている。
“晴れのち雨のち腫れのち七色 びしょ濡れでも笑えるさ”など、あらゆる経験が宝物となっていくことを伝えるメッセージソング。落ち込んだ時に励まされる表現がたくさんある。雨が降る朝、目を覚ましながら聴きたい。
■多彩な表現を再認識できる雨の歌
“雨”を題材にして多彩な表現を生むアーティストの才能も再確認させられる20曲。雨天だと抱きがちな憂鬱な気持ちを切り替えられる名曲の数々を、ぜひじっくりと噛み締めてほしい。
TEXT BY 田中大