■「RIP」(切り裂く、葬る)をキーワードにしたライブ
LiSAが日本武道館公演『LiSA LiVE is Smile Always~RiP SERViCE~』を開催した。
2026年にソロデビュー15周年イヤーを迎えるLiSA。今回のライブはデビュー14周年イヤーのタイミングで開催されたもので、「RIP」(切り裂く、葬る)をキーワードに、音楽により特化したステージを展開。おなじみのメンバーに弦楽カルテットを加えた編成のバンドとともに、計20曲のうち多くの楽曲に大胆なリアレンジを施した。原曲通り演奏された曲はほとんどなかったのではないだろうか。
■弦楽器の音色をバックに、歌を軸としたドラマティックなアレンジに仕上げた「明け星」からスタート
ライブのオープニングからハッとさせられた。弦楽器の音色をバックに、しっとりと歌い始めたLiSA。1曲目に選ばれたのは「明け星」で、ハードロックをベースにオリエンタルな雰囲気を纏った原曲から、シリアスな要素を抽出&フィーチャーし、歌を軸としたドラマティックなアレンジに仕上げていた。LiSAの歌声は悲しく情念を纏っていて、繊細なファルセット、艶やかな地声、牙を剥くようながなり…どれも聴き逃せない。観客は息を呑んでステージに集中している。
■スキルとフィジカルを兼ね備えたLiSAのボーカルは、ライブという局面において、その実力を遺憾なく発揮
ライブの序盤は、LiSAが白いドレスを纏っていて、照明演出もシンプルだった。ネイキッドなステージによって浮き彫りになるのは、演者の肉体性。LiSAはこれまで様々なクリエイターやアーティストから楽曲提供を受けてきたが、特に近年は新しいタッグが多く、相手の求めるLiSA像に応えながら、楽曲をLiSA色に染め上げている。その経験が還元された歌は「ひとつの体から何種類の歌声が?」と驚かざるを得ないほど多彩、かつ正確で、シンガーとしての凄みに圧倒された。スキルとフィジカルを兼ね備えたLiSAのボーカルは、ライブという局面において、その実力を遺憾なく発揮している。また、観客のマンパワーもLiSAのライブに欠かせない要素。2曲目にライブアンセム「一斉ノ喝采」が披露されると、観客が力強く歌い、LiSAと掛け合いを繰り広げた。LiSAは「素晴らしい!」と笑顔。そこから「一気に行くよー!」と楽曲が連投され、ステージと客席の相乗効果で、右肩上がりの盛り上がりが生まれた。
7曲目「永遠」を終えると、LiSAは、メイドの手を借りながら黒いドレスにチェンジ。見事な早着替えのあと、「ASH」はヒリヒリとした疾走感とともに、「うぃっちくらふと」は甘やかで危険な香りとともに届けられた。ライブ中盤のハイライトは、チェリストのソロのあとに披露された「炎」だろう。ピアノや弦楽器を中心とした厳かなアレンジで、“夢が一つ叶うたび 僕は君を想うだろう”といった歌詞は14周年を迎えたLiSAのファンに対する想いとも重なるのか、心のこもった歌が届けられた。歌唱後にLiSAがお辞儀をすると、この日いちばん長い拍手が彼女に送られた。
■「鬱憤とかライブの前の不安な気持ちを、いつもみんなが切り裂いて、最高な日として新しく作り変えてくれる」とファンに感謝
胸に手を当てながら客席を見渡し、ファンに「ありがとう」と伝えたLiSAは、MCで「14年間、いつもみんなを驚かせたくて。どんな気持ちで、どれだけ前からこの日を一緒に楽しみにしてくれてるんだろうと思ったら、期待を超えたくて、デート(ライブ)をねりねりしてきました」と心境を吐露。続けて、「(15周年という)大きな節目を前にすると、ちょっとビクビクしちゃって。少しだけ不安になってました。でも、鬱憤とかライブの前の不安な気持ちを、いつもみんなが切り裂いて、最高な日として新しく作り変えてくれる。だったら今日はやりたいこといっぱいやって、みんなと一緒に(不安や鬱憤を)切り裂いちゃおうと思いました」と語り、ファンへの想いを歌った楽曲「サプライズ」へと繋げた。
■「REALiZE」のラストでは鋭いシャウトで会場を射貫いた。同じ熱量で食らいつく観客もまた素晴らしい
“大丈夫だと 扉を開く/キミとまだ みたいミライ”という「サプライズ」の歌詞の通り、LiSAは観客一人ひとりの存在を感じながら、ライブのラストスパートをかけていく。打楽器2台体制のエネルギッシュなサウンドによる「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」のあと、LiSAは赤いドレスにチェンジ。ここからは怒涛の展開で、強烈なビートを繰り出すドラマーとバトルするように「RED ZONE」を歌い上げたLiSAは、歪むツインギターを従えながら「L.Miranic」へ乗り出した。「QUEEN」で歌われる“私に限界はない”というフレーズに、ステージに立つLiSAの姿を重ねながら、心の中で頷いたファンも多かっただろう。ライブ終盤でもLiSAのボーカルは疲れを見せないどころか、むしろ絶好調。「REALiZE」のラストでは鋭いシャウトで会場を射貫いた。同じ熱量で食らいつく観客もまた素晴らしい。LiSAが「武道館、ぶっ飛ばしてくよ!歌ってー!」と言いながらタムを叩き始めれば、観客は次の曲は「ADAMAS」だとすぐに理解し、シンガロングで応える。
■今さっきのLiSAを現在のLiSAが超越していく
今さっきのLiSAを現在のLiSAが超越していく展開はこのあとも続き、「いったいLiSAはどこまで行くのだ?」と驚き興奮する観客の熱狂とともに、ライブはエンディングを迎えた。今回のライブのタイトルは『RiP SERViCE』という言葉が冠されている。考えてみれば、「切り裂く」「葬る」という意味を持つ「RIP」は、自分との闘いに挑む勇猛果敢なアーティストでありながら、ライブの前は未だに不安になってしまうような、臆病な心を持ち合わせた彼女の両面性が表れたワードだ。LiSAは無敵のスーパーヒロインではない。その上で「こんなすごい日を作ってくれたあなたはすごい!」と客席を埋めるファンへのリスペクトを語り、愛と感謝を伝えるため、歌やステージに精魂を注いでいる。そんな彼女にとって、目の前の人に対して誠意を尽くすことと、余裕を見てライブのゴールラインを設定することは相容れない。この日最後に披露された楽曲「Little Braver」の歌詞を借りるならば、“君は僕でいつでも一緒だから 自分らしさを信じて”いるのが現在のLiSAであり、LiSAという生き方を全うして突き抜けたい、限界突破のサプライズでもって自分もみんなもワクワクさせたいという気持ちが、大きなモチベーションになっているのだろう。
■6月に北米ツアー、9月から全国ホールツアーを経て、15周年イヤーへ突入する
全曲を歌い終えたLiSAは、ステージ上で仰向きになりながら「LiSAやるの、しんどいわー!LiSAッ子(LiSAファンの呼称)やるのも、めっちゃ大変そうだわー!」と笑った。大変だけど、やりきったからこそ辿り着ける境地がある。これまでの14年で得たその実感を胸に、LiSAは今、新たな旅を始めようとしているのだ。このあとLiSAは、6月の北米ツアー『ANOTHER GREAT DAY North America Headline Shows 2025』、9月から始まる全国ホールツアー『LiVE is Smile Always〜PATCH WALK〜』を経て、15周年のメモリアルイヤーに突入する。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
PHOTO BY Viola Kam[V’z Twinkle]
『LiSA LiVE is Smile Always~RiP SERViCE~』
2025年5月14日 日本武道館
セットリスト
1.明け星
2.一斉ノ喝采
3.WiLD CANDY
4.ViVA LA MiDALA
5.FRAGILE VAMPIRE
6.罪人
7.永遠
8.ASH
9.うぃっちくらふと
10.炎
11.サプライズ
12.ReawakeR(feat. Felix of Stray Kids)
13.RED ZONE
14.L.Miranic
15.QUEEN
16.REALiZE
17.ADAMAS
18.crossing field
19.ハウル
20.Little Braver
LiSA OFFICIAL SITE
https://www.lxixsxa.com/








