■過去最大規模の単独公演
ちゃんみなが2025年7月7日、大阪・大阪城ホールにて、全国ツアー『AREA OF DIAMOND 3』のファイナル公演を行った。本ツアーは5月2日の静岡・アクトシティ浜松からスタートし、2ヵ月かけて全国12都市14公演を回ってきたものであり、ちゃんみなにとって過去最大規模の単独公演である。本稿では、セミファイナルとなった東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された2daysライブ2日目公演の様子をレポートする。
客電が落ちると、ステージ中央に設置された幕には宙に浮かぶさまざまな小石の映像が映される。石は宝石のようにファセットカットされきらきらと光を反射させている。その中のひとつがクローズアップされると、石の中に人の姿があった。ちゃんみなだ。スクリーンに「Welcome to AREA OF DIAMOND 3」という文字が表示され、バンドによる演奏が始まると、幕が落ち、ステージ上方に巨大なルビーが出現した。その中には、まばゆいばかりのラインストーンをほどこした衣装に身を包んだちゃんみながいる。会場が大きな声援に包まれる中、ちゃんみながルビーを内側から蹴破り、粉々になった破片が飛び散ると同時に1曲目「^_^」がスタート、ド派手な演出で『AREA OF DIAMOND 3』は幕を開けた。
続いてシームレスに「ハレンチ」へ繋がれる。どことなく『No No Girls THE FINAL』を思い起こさせるライブの始まりに、オーディエンスは一気に感情を鷲掴みにされる。「楽しむ準備はできてますか?みんな一緒に遊ぶよ!」と煽られて始まった3曲目の「FORGIVE ME」が終わる頃には、すっかり日常を忘れて彼女の世界に没入していた。
■勝利の象徴、ルビーをテーマにした今回のツアー
ちゃんみなによると、本ツアーのテーマは「ルビー」だという。この赤く美しい宝石には石言葉がいくつかあり、そのひとつは「勝利」である。ルビーの赤い輝きは、困難に打ち勝ち、勝利へと導く力を象徴しているわけだ。
このテーマは実にちゃんみならしいと言える。デビュー以来、休む間もなく彼女がさまざまなものと戦い続けてきたことは周知の事実だろうが、社会現象になったオーディションプロジェクトを終え、プロデュースするグループが順調な滑り出しを見せ、プライベートでは出産も経験、公私ともに数々の夢を叶えたこのタイミングで一休みするのではなく、さらなるファイティングポーズを提示しようというわけだ。
「このツアーを走りきる頃、私と手をつないで勝利の道へ突き進む、そんな体勢が一緒に取れたらいいなと思います。みんな一緒に勝とうね」
■昨年から今年にかけての成功は単なる通過点のひとつ
ちゃんみなのようなアーティストにとって、楽曲が売れたり自身が有名になったりすることは、ひとつの反響でしかない。それはただのリアクションであり目標ではない。彼女はもっと大きな、たとえばルッキズムやミソジニーといった概念と戦っているのであって、昨年から今年にかけての成功は単なる通過点のひとつなのだ。だからこれらの成功に一喜一憂することはなく、あるいはその道中で飛んでくるさまざまな小石に心を乱されることもなく、淡々と自分の仕事を続けているわけだ。
MCでツアーのテーマが語られた直後に披露された楽曲が「KING」であったことは、偶然ではあるだろうが、タイミング的には下世話な邪推をしたくもなった。椅子取りゲームに勝利し玉座に鎮座するさまを表現したコレオグラフに、「席替えは終わった」と歌われる歌詞。もはや「席替え」に彼女が何の興味も持っていないことを、実力と事実で示しているシーンだと解釈することもできる。これもある種の「実力の暴力」ではないだろうか?
そう考えると、「B級」「君からの贈り物」と、彼女の楽曲の中でもっともファニーで楽しい楽曲がその後に続いたことは、ある種の挑発的な皮肉にさえ思える。この日集まった一万人以上のオーディエンスとこれらの楽曲を楽しむことによって「席替え」の対象だった者たちをはるか彼方に置き去りにしたように見えるからだ。
ダンサーとバンドメンバーの紹介パートでは、一人ひとりにスポットライトがあたり、スクリーンに映される映像を背景に本人のソロパフォーマンスが披露される。この演出は、ダンサーやバンドメンバーが脇役ではなく、主役のひとりであることを強く印象付ける。映像の中で、ダンサーやバンドメンバーはみなルビーを手にしていた。それぞれ紅玉の才能を集めた総合芸術としてライブを捉えているのだと伝わってくる。
■夫ASH ISLANDとともに、コラボ曲「20」と日本語ver.の「OST」を熱唱
それから「花火」、アコースティックver.の「Never Grow Up」と続いたあと、新曲の「I hate this love song」をライブ初披露。初恋をテーマにした楽曲をセンターステージでしっとりと歌って会場の雰囲気を一変させると、メインステージには彼女の夫であるASH ISLANDの姿が。フロアは割れんばかりの歓声に包まれる。ASH ISLANDはセンターステージで待ち構える妻の元へと駆け寄り、ふたりのコラボ楽曲である「20」と日本語ver.の「OST」を熱唱。互いに手を取り、身体を寄せ合い、見つめ合い微笑み合いながら歌うさまは美しく優しい。日本語でのふたりの会話もかわいらしく、フロアからは「あっくーん!」という声が飛び交った。
(なお「OST」では、本人たちが平成ギャル&ギャル男に扮したカラオケ映像がスクリーンに映された。これはDAMとのコラボで制作されたもので、今後カラオケDAMで配信される予定。思わずクスッとしてしまう本格的なカラオケ映像なので、機会があればぜひチェックしてほしい)
ASH ISLANDがステージを去ると、「みんなが泣いている限り、みんなが悲しんでいる限り、私は歌い続け踊り続けます。みんなの涙を私にください」と「Angel」を披露。続く「I’m Not OK」ではステージに火花が吹き上がり、特徴的なギターリフと地響きのようなドラムが鳴り響く中、ちゃんみなの魂の叫びが会場内に響き渡った。
■ツアーに帯同しているHANAの登場に会場は歓声に揺れた
間髪置かずステージのスクリーンに映像が映し出される。冒頭の映像に似た、数々の石が宙に舞っている映像である。その中のひとつがクローズアップされると、石の中に映るのは一輪の蓮の花。誰もがあの彼女たちの登場を察し、国立代々木競技場は爆発的な歓声に揺れた。HANAである。
「What’s up Yoyogi, 盛り上がる準備できてるか?Let’s go!!」というMOMOKAの煽りとともに7人のメンバーがステージに現れ、プレデビュー曲「Drop」を披露。周知の通り、この曲はオーディションで使用された楽曲であり、最終審査『No No Girls THE FINAL』でも披露されたわけだが、当然というべきか驚くことにというべきか、その頃とはまったく別人と言っても差し支えないほどの堂々たる安定したパフォーマンスで、すでにステージを掌握しているかのような振る舞いでライブを盛り上げる。短い自己紹介とMCも慣れたもの。7人がそれぞれの個性をオーディエンスに印象付け、笑いも生み、続くデビュー曲「ROSE」の圧倒的なパフォーマンスでこの短い出番を締めくくった。
ちゃんみなは、デビューしたばかりの彼女たちに経験を積ませるため、今回のツアーですべての公演にHANAを帯同させ、こうしてライブ中盤の重要な箇所を託したという。その試みは大成功と言っていいだろう。パフォーマンス、MC、ともに著しく成長しているうえ、フロアの盛り上がりはさらに高まることになり、「経験を積ませる」どころか、まるで長年ともに切磋琢磨し合ってきたアーティスト同士による対バンのような雰囲気で、一流のアーティスト同士がぶつかり合うときに生まれる特有の熱がそこにはあった。近い将来、HANAはHANAとして単独でツアーを回るようになるのだろうが、ちゃんみなのライブにもたまにはこうして顔を出してほしい、そう思わずにはいられない熱い数分間だった。
その熱さを引き継ぎ、上回るのがちゃんみなである。ある意味では高いハードルを自ら設けたようなものだが、ステージ2階に極道の事務所を模したセットが出現し、組員風のダンサーに囲まれて中央のソファに座る着物風ガウンを身に纏ったちゃんみなが現れると、そのような野暮な心配は吹き飛んでしまう。彼女が日本刀の鞘を抜いた瞬間、ちゃんみなはステージを完全に取り返し、「命日」「美人」「ダリア」の3連発によって多くのオーディエンスは完全に打ちのめされてしまった。
■ちゃんみなにとってステージは最高の遊び場
そうしてライブも終盤。『No No Girls』のテーマソングであり、今やアンセムになった「NG」でフロアから大合唱が起きると、本編ラストは「WORK HARD」。「WORK」と「HARD」の珍しいコール&レスポンスから楽曲が始まると、計9台のランニングマシーンに乗ってダンサーたちと走りながら歌い、ステージから上空には何百枚ものコピー用紙が吹き乱れる。さらには天井からワイヤーで吊るされ、逆さ吊りで上空を飛びながら歌い続けるなど、オーディエンスのド肝を抜く派手な演出で本編を締めくくった。
先に公開されたMVではスカイダイビングをしていたが、あのコンセプトのままステージをやるなど誰が予想しただろうか。人は本当に驚いたときにはうまくリアクションが取れないものだが、本編終了後のフロアではそこかしこからどよめきが起こっていて、俗な言い方をすれば「食らった」人が多かったようだ。まったく、ワークハードにもほどがある。
しかし、思い返してみれば、ちゃんみなはその活動初期からライブ演出にエアリアルを取り入れ、ステージに高さを出し、空間を拡張することにこだわっていた。それが進化し続け、ついには逆さ吊りで上空を移動するまでに至ったわけだが、彼女にしてみれば、いつもの努力を続けた結果でしかないのかもしれない。いや、努力とすら思っていない可能性もある。彼女にとってステージは、冒頭での「みんな一緒に遊ぶよ!」という言葉に表れていた通り、最高の遊び場なのだから。
アンコールでは何の前触れもなくビッグネームが登場する。青山テルマとTAKUYA∞(UVERworld)である。3人で青山テルマの「ONIGIRI(feat. UVERworld & CHANMINA)REMIX」を披露。
その後は、この会場でやるにふさわしい楽曲である「TOKYO 4AM」を披露し、ラストは「SAD SONG」。『No No Girls THE FINAL』と『THE FIRST TAKE』で新たに意味付けされた名曲には喜びと寂しさの両方のニュアンスが含まれ、これで終わってしまうのかと後ろ髪引かれる思いを抱かされる。23もの楽曲が披露されたにもかかわらず、ちゃんみなのライブはあっという間だ。それだけ濃密な時間だったからだろう。すべての楽曲が終わると、ステージに登場した、全員でオーディエンスに挨拶。会場はハッピーなムードで満たされていた。こうして『AREA OF DIAMOND 3』東京公演は幕を閉じた。
■過去すべての単独ライブの中でもっともハッピーな公演だったように思う
さて、今回のツアーがちゃんみなにとって自身最大規模の単独公演であることは本稿の冒頭で述べたが、同時に、過去すべての単独ライブの中でもっともハッピーな公演だったように思える。それは夫であるASH ISLANDとの素晴らしい共演があったからかもしれないし、「私にとっての光」とまでちゃんみなに言わしめるほど重要な存在になったHANAと一緒にツアーを回ることができたせいかもしれない。あるいは一年にわたるオーディションを経て久々にファンのみんなと会えることがうれしかったのかもしれないし、もしくは、育児という孤独で過酷な日常の山場を経験したからだったからかもしれない。いずれにしろ、本公演のちゃんみなはかつてと少し違っていたように見えた。
かつての彼女のライブは、命を削るような切実さと迫力に満ちていた。前回の『AOD 2』は「お前のこと絶対に許さないからな!」という怒りに駆られたものだったし、横浜アリーナで開催された『AOD』では「ありのままの美しさ」を示すべく、YouTubeにも映像がアップされ話題になったメイクオフパフォーマンスが披露されたライブであった。もちろん今回だって過去のライブに負けない迫力はあったが、というより、演出としては過去最高に派手だったが、それよりも目立ったのは、外に開かれた明るさと、程よい力の抜け感である。
たとえばそれは、客席にいるゲストへの声掛けといった何気ないシーンにも表れていたように思える。東京以外の地方公演では、客席のオーディエンスを数名ステージに上げて一緒に踊ったりした。またある公演では、芸人顔負けの変顔七変化をステージで披露したりもした。そしてこうしたシーンをオーディエンスにスマホで撮影させることを許可していた。
こうした姿勢が何によって生まれたのかを探ることは本稿の目的ではないのでいったん措くが、彼女が今、アーティストとして何度目かの脱皮をしかけていることは間違いないようだ。今回のライブの彼女の最後の言葉は「皆さんまたすぐに会いましょう」だった。その機会が次に訪れる際にどんなちゃんみなになっているのか、今から楽しみになってしまうのは、きっと筆者だけではないだろう。
なお、本公演の見逃し配信はU-NEXTで7月22日23:59まで視聴可能。こちらもあわせてチェックしたい。
TEXT BY山田宗太朗
PHOTO BY 田中聖太郎
CHANMINA『AREA OF DIAMOND 3』
2025年6月29日 国立代々木競技場 第一体育館
セットリスト
1. ^_^
2. ハレンチ
3. FORGIVE ME
4. KING
5. B級
6. 君からの贈り物
7. 花火
8. Never Grow Up
9. I hate this love song
10. 20(ft. ASH ISLAND)
11. OST(ASH ISLAND feat. ちゃんみな)
12. Angel
13. I’m Not OK
14. Drop(HANA)
15. ROSE(HANA)
16. 命日
17. 美人
18. ダリア
19. NG
20. WORK HARD
En1. ONIGIRI REMIX(青山テルマ feat. UVERworld & CHANMINA)
En2. TOKYO 4AM
En3. SAD SONG
CHANMINA OFFICIAL SITE
https://chanmina.com/




