福山雅治が9月27・28日に、福岡・みずほPayPayドーム福岡で『NISSAY PRESENTS FUKUYAMA MASAHARU 35TH ANNIVERSARY DOME LIVE 2025 // SOUL』福岡公演を開催した。本稿では、デビュー35周年ツアーの大千穐楽となった28日公演の模様をレポートする。
■自らの魂(SOUL)の所在を問うかのような圧巻の熱唱
開演定刻を迎えると、レスポール・カスタムのギターを抱えた福山がステージに登場。3万人のオーディエンスに向けてまず披露したのは、「クスノキ」のフックにあたる“我が魂は~”のメロディのリードプレイだ。ツアータイトルの“SOUL”を象徴するかのような朗々としたギターフレーズが、Neil Young & Crazy Horseのライブアルバム『Weld』(1991年)の「Blowin’ in the Wind」を想起させる抜けの良い歪みとうねりの利いたトーンで奏でられていく。
やがてギターは力強いリフを刻み、デビュー曲「追憶の雨の中」へ。福山のボーカルにオーディエンスが手拍子で応える。35年前と今がリンクする、アニバーサリーツアーにふさわしいオープニングだ。
かくして盛大な火柱を合図に、「ステージの魔物」で本編がスタート。キャプテン・井上 鑑(Key)を筆頭に、山木秀夫(Dr)、高水健司(Ba /「高」は、はしごだかが正式表記)、今 剛(Gu)小倉博和(Gu)、三沢またろう(Per)、山本拓夫(Sax/Flute)、西村浩二(Trumpet)、村田陽一(Trombone)、金原千恵子(1st Violin)、栄田嘉彦(2nd Violin)、榎戸崇浩(Viola)、笠原あやの(Cello)という日本屈指のミュージシャンたちとのフレーズの応酬は、「vs.2022 ~知覚と快楽の螺旋~」でよりいっそうヒートアップ。福山の音楽的ルーツであるビートロックからの影響を色濃く打ち出しながら、ライブ冒頭からハードなサウンドで畳み掛けてくる。
「HELLO」では、巨大ビジョンに映し出された特大サイズの“FUKUOKA”“35TH ANNIVERSARY”の文字をバックに、パーカッシブなリズムと福山の伸びやかなボーカルがドームにこだました。
「逢いたかったです、福岡!」「最終日です、福岡!」と笑顔で呼びかけると、ここで最初のMCタイム。同会場での公演は実に11年ぶり。「優勝の勢いに乗っからせていただきます」と御当地・福岡ソフトバンクホークスのリーグ優勝を祝うと、9月25日にデジタルリリースされた最新シングル「万有引力」のオリコンデイリーランキング1位獲得への感謝の思いを語った。
そして演奏はガットギターによるスパニッシュな音色から「零 -ZERO-」へ。続く「Popstar」では、「娯楽・大衆・道化・数奇・生贄…」などの抽象的なタイポグラフィーが次々とビジョンに投影される演出から始まり、福山がギターをかき鳴らしながらセンターステージに向かって花道を駆けていく。文字どおり、現代の“Popstar”を体現するその姿にオーディエンスが湧き上がる。
ここで再びMCタイム。福山の「今日はわがままを言います! 皆さまの大歓声を浴びさせてください!!」というひと言にオーディエンスが手を振り歓声で応えると、さらに福山が「生き返ります!!」と返す。かつて200人規模のライブハウスからスタートしたキャリアを振り返りながら、「35年を迎えても道半ばの未熟者。これからもよろしくお願いします」と客席に一礼する。
「昔はラブソングを書くのが照れくさかったけど、最初のトップ10入りシングルとなりました」と、「Good night」から「Squall」「想望」を経て、トリプルギターによる「Walking with you」をイントロに「道標 2022」「家族になろうよ」と新旧のラブソングを力強く歌い上げると、自身の幼少期の秘蔵カットによる映像を挟んで、今ツアーで初披露となる未リリース曲の「未来絵」へ。
どんなことがあってもより良い未来を描こうというリリックが、いまだ「道半ば」と語った福山自身の未来を信じる姿と重なる。本公演はアーティストとしての35周年であり、自身の誕生56周年の人生録でもあることがライブの中盤で明かされていく。
「後半戦、みんなのSOULと私のSOULでひとつになっていきますよ!」と客席を煽ると、まさにオーディエンスと一体となっての“KI・SS・し・て~”の大合唱から「KISSして」へ。さらに、近年のライブにおいてアトラクション的なナンバーとなっている、「無礼者たちへ」では、ディズニー映画『ウィッシュ』で演じたヴィラン・マグニフィコ王を憑依させ、ミュージカル調の痛快なパフォーマンスで客席を盛り上げる。
止まぬ喝采のなか、それまで着ていた白のロングコートを脱ぎ捨てると、ノースリーブの“黒”の装いに。そう、大ヒット上映中の映画『ブラック・ショーマン』インストゥルメンタル・テーマソング「幻界」だ。さらに間髪入れず弦楽のイントロが鳴り響くと、「虹-With 30,000 souls-」では、総勢46名のコーラス隊「長崎クスノキクワイア」が登場。
そのまま最新デジタルシングル「万有引力」を歌い上げ、さらに荘厳なブラスセクションのメロディから、今年8月9日(長崎原爆の日)放送のNHK特番での歌唱も話題を呼んだ「クスノキ-500年の風に吹かれて-」へと繋ぐ。長崎の被爆樹木をテーマに、「生きとし生ける全ての生命が等しく生きられる世界への願い」が込められたこの曲は、言うまでもなく福山にとって大切な一曲。デビュー35周年、改めて自らの魂(SOUL)の所在を問うかのような圧巻の熱唱で本編は幕を閉じた。
アンコールは、「明日の☆SHOW」「桜坂 2024」の2曲をプレイ。バンドの面々をステージ袖に見送ると、何と、上京当時に乗っていた同車種をこのツアーのために購入し直したという赤のホンダ・シティ・カブリオレを自ら運転してアリーナを一周。デビュー当時に乗っていたオープンカーを自身で運転し、よりオーディエンスの至近距離に赴きたいという福山のサービス精神から実現した、粋で微笑ましいひと幕だった。
ラストはひとりステージに立ち、ダブルアンコールとして、弾き語りで「最愛」を届けると、全6公演、観客動員20万人のツアーが、無事、完走を迎えた。最後の挨拶では、初めて福岡のライブハウスに出演したとき今は亡き祖母が観に来てくれたという思い出を語りつつ、近い日の再会をオーディエンスに誓った。すべての歌が、ギターが、物語を、メッセージを強く明確に訴えかける力に溢れていた。その説得力こそが、今の福山雅治の“SOUL”なのかもしれない。そんな思いが巡った充実のステージだった。
TEXT BY 内田正樹
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