ザ・クロマニヨンズによる18枚目の最新アルバム『JAMBO JAPAN』リリースツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアーJAMBO JAPAN 2025-2026』が11月にスタート。全56公演にも及ぶツアーの序盤、4発目にあたる最初の関東公演は11月20日、神奈川・CLUB CITTA’にて行われた。
■『ザ・クロマニヨンズ ツアーJAMBO JAPAN 2025-2026』CLUB CITTA’公演レポート
今年もこの季節がやってきた。クロマニヨンズのライブは、自分がここに在るということを存分に感じられる、かけがえのない瞬間なのだ。
ザ・クロマニヨンズのリリースツアーは、いつも基本的にニューアルバムから全曲を収録順通りに披露するのが特徴だ。これだけ書くとなんだか普通のことのように聞こえるかもしれないが、単なるアルバム再現ツアーではない。アルバム前後半をレコードのA面とB面に分けて魅せる。徹底してアナログレコードのためのツアーなのだ。それをリリース毎にコンスタントに全国各地で続けてきたのだから、全くただ事ではない。
今夜ロックンロールに殺されたいと言わんばかりの熱気の入った観客の前に、真島昌利(Gu)、小林勝(Ba)、桐田勝治(Dr)に続いて甲本ヒロト(Vo)がステージに登場。甲本の「オーライロッケンロー!」のかけ声とともに「キャブレターにひとしずく」で会場のボルテージを徐々にではなくいきなり100まで持っていく。冒頭の真島のギターが会場の空気を瞬時に切り裂くと、客席からは一斉に拳が突き上げられ、歓声が爆発した。クロマニヨンズらしいパワフルでキレのある強靭な演奏は、音に全身で没頭する感覚を、会ってすぐ全部思い起こさせてくれるのだ。
そのまま「グルグル」「這う Part3」とA面3曲を畳みかけると、甲本は「(アルバムを)ご購入の方はお気づきかもしれませんが、次の曲はマーシーが歌います!」とアナウンス。会場はまたも爆発的な歓声に包まれた。もちろんこれまでのクロマニヨンズでもコーラス等で真島の声を聴くことはあったが、メインボーカルを取るのは結成来の大事件だ。世代的にこれまで真島の歌声を聴く機会に恵まれなかった筆者のように、生歌は初めてという観客も数多くいたはずだ。そのクールなしゃがれ声は、喜怒哀楽を全て飲み込んだ目で真っ直ぐに世界を見つめているような、唯一無二の歌声だった。曲が終わると甲本は「人が歌ってくれることほど楽なことはないなぁ」と笑う。会場は拍手と笑いに包まれた。
続く「どんちゃんの歌」は、「くじらなわ」を思い出させるような甲本らしいコミカルで子どもも楽しめそうな内容でありながら、深い人間愛に満ちた大名曲だ。みんなで「ほい!」と叫ぶごとに笑顔が広がる。それを支えているのは桐田と小林のリズム隊である。二人が作り出すグルーヴに揺るぎない説得力があるからこそ、一見すると冗談のような歌の中にキラリと光るメッセージが活きるのだ。ライブ会場で観客とともに身体を揺らして叫ぶとき、彼らの存在がクロマニヨンズに欠かせないのだと実感する。
A面最後を「フルスイング」で駆け抜けると、上裸になった甲本はB面に入る前に過去曲に針を落とす。「イノチノマーチ」など、生きることへの賛歌を抽象的ながらも真っ直ぐに歌い続けてきたことが、クロマニヨンズが長く愛されてきた理由の一つであることが改めて伝わってきた。
いよいよライブも後半へ。「B面に突入する前に心の準備を整えているところです」と言いながらじっくりと時間を置くのは、レコードをひっくり返すときの高揚感を思い起こさせる演出だ。再度アルバムモードにギアを入れるにふさわしい軽快なナンバー「ロックンロールエレキギター」でスタート。「シカト100万%」でヘヴィな世界へ引き摺り込んでから「空腹と俺」で会場の熱気を発散させる展開も鮮やかだった。
「顔ネズミ」は今回のライブで最も印象的な変貌を遂げた一曲かもしれない。ヘヴィなストーナー寄りのサウンドは、クロマニヨンズの演奏が今もなお進化を続けていることの証左だ。真島のギターの重厚な音圧に、客席の体が自然と揺れる。小林のベースが腹の底に響き、桐田のドラムが全身を貫く。続く「神様シクヨロ」は音数が削ぎ落とされたスリムでストイックな演奏に、本日2回目の真島ボーカルが乗るミドルテンポの一曲。録音でも無音の瞬間がある曲だが、ライブでは会場にいる約1300人の沈黙も相まって、その静寂がさらに重みを増す。力強い真島の言葉と言葉の隙間の無音が、どんな大音量よりも鳥肌が立つほど迫力満点だった。ここでは歌わずに特にすることがない時間も多い甲本が変な踊りをしていたのもチャーミングだった。この緊張と弛緩のバランスも実にクロマニヨンズらしい。
B面が終わる前に改めて過去曲を繰り出す。「暴動チャイル(BO CHILE)」では甲本の暴れるようなブルースハープに小林の唸るベースと真島のギターが入ってくることで、目の前でグルーヴが練り上げられていくさまが圧巻だったし、「あいのロックンロール」での桐田の狂気的なまでに正確な高速ドラミングには畏敬の念を抱かずにいられない。常に第一線で活躍してきたライブバンドとしての真髄がここにあった。
そして本編ラストを飾るのは「ひどい目にあいながら下北沢」だ。ペイル・ファウンテンズを思わせるようなアコースティックな色合いのサウンドに、かつて甲本が青春を過ごした街に寄せる叙情あふれる歌詞が重なる。郷愁を誘う真島のギターソロがしっとりと客席に沁み渡った。
アンコールもしっかり熱演し、最後は会場の川崎市にとっては川崎フロンターレの応援歌でもあり馴染み深い「ナンバーワン野郎!!」で約90分のステージを締め括った。はじめから全開で駆け抜けたクロマニヨンズの姿は、ロックンロールの火花を散らし続けていた。
CLUB CITTA’特有の天井の星形トラスを眺めながら甲本も振り返っていたが、リニューアルオープンしたCLUB CITTA’の柿落とし公演でTHE HIGH-LOWSとして甲本と真島は同じステージに立っていた。オーディエンスからの「マーシー!」コールに対して、甲本が「マーシーはずっとここにおるよ、ずーっとおるよ。40何年間ずっとおるよ」というMCのさりげなさに胸を打たれた観客も多いだろう。会場にいる人々の数だけ、あの2人に対する特別な思いがあるに違いない。そのひとつひとつの実存を確かめるようにクロマニヨンズはステージで燃えていた。
ちなみに「JAMBO」はスワヒリ語で「こんにちは」にあたる言葉らしい。例によって例の如くタイトルや歌詞に特別な意味はないと甲本は言うが、毎年のように日本全国のライブハウスやホールを駆け巡っている彼らにピッタリなタイトルだと思う。まだまだ『JAMBO JAPANツアー』は始まったばかり。1人でも多くの人に今のクロマニヨンズを目撃してほしいと改めて感じた一夜だった。
TEXT BY 最込舜一
PHOTO BY 柴田恵理
■【画像】ザ・クロマニヨンズ 11月20日CLUB CITTA’公演の模様
■リリース情報
2025.10.29 ON SALE
ALBUM『JAMBO JAPAN』
■関連リンク
ザ・クロマニヨンズ OFFICIAL SITE
https://www.cro-magnons.net/




