アンジェラ・アキが、 オリジナル・ニューアルバム『SHADOW WORK』を2月11日にリリース。インタビューを含めた制作過程が明かされた。
■「私はこの5年で何度も生まれ変わりました」(アンジェラ・アキ)
ミュージカル音楽作家としてのワークに続いて、2025年からシンガー・ソングライターとしての動きを活発化させたアンジェラ・アキ。まず2025年5月21日にシングル「Pledge」を配信リリースし、7月から8月にかけては11年ぶりのツアー『アンジェラ・アキ Tour2025-Eleven-』を全国10都市で開催。11月26日にはシングル「Floating Planets」を配信リリースし、MVにも自らのアイデアを反映させた。そして2026年2月11日に、2012年作品『BLUE』以来、約14年ぶりとなるオリジナル・ニューアルバム『SHADOW WORK』をリリース。先行で配信された「Pledge」「Floating Planets」を含め全15曲を収録した大作となった。また、このアルバムを携え、5月15日の千葉公演を皮切りにツアー『Angela Aki Tour 2026 SHADOW WORK』を全国30都市(31公演)で開催することも発表されている。
アンジェラ・アキ「Pledge」Recording Documentary Movie
アンジェラ・アキ「Floating Planets」Official Music Video
ニューアルバム『SHADOW WORK』は、約3年かけて制作された。3年前といえばまだ東宝オリジナルミュージカル作品『この世界の片隅に』の音楽制作/音楽監督に取り組んでいた時期で、つまりそのプロジェクトが終わってから明確に切り換えて新作に取り掛かったわけではなく、ある部分は同時に進行させていたことになる。いや、3年という年月は具体的に曲制作~録音にかけた時間であって、「元を辿ると、このアルバムは2020年、世界に“コロナ”と言う急ブレーキがかかった年、真剣に自分と向き合う決心をした瞬間からスタートしていたのかもしれません」とアンジェラは2025年10月、Instagramに綴っている。つまり2020年からの約5年の思考や経験がこのアルバムに反映されているわけだ。
「実際、私は5年前から自分自身と向き合って、人生に対する向き合い方、人間としてのあり方みたいなことをすごく変えていったんです」とアンジェラは言う。「大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、私はこの5年で何度も生まれ変わりました」とも。
5年前、「真剣に自分と向き合う決心をした」アンジェラは、シャドウ・ワークという心理カウンセリングを受けるようになった。シャドウ・ワークがどういうもので、何を目的としたものであるかはオフィシャルサイトのインタビュー記事(アンジェラ・アキ OFFICIAL SITE)に詳しく書いたので、そちらを読んでいただきたいのだが、その過程を音楽表現として残したい、アルバムという形にして残したいという決意・思いで取り組んで完成させたのが『SHADOW WORK』だ。よって綺麗事も飾りもひとつもない、どこまでもリアルなアルバムになっている。
「これは普遍性だとかヒットの方程式みたいなものをまったく考えないで作ったアルバム。私が私のために作ったアルバムなんです」「昔は“応援ソングを作ってください”と言われて、そういう曲を作ったりもしましたけど、このアルバムにそういう曲はひとつもない。届く人に届けばいいと思って作ったアルバムだから。濃い曲が好きな人じゃないと受け止めきれないかもしれないですね。でも、それが今のアンジェラ・アキのアルバムなんです」。彼女はそう話す。
■アメリカ移住で広がったメロディの幅
主だった曲の着想や歌詞内容に関してもオフィシャルサイトのインタビュー記事に書いたので、ここからはこのアルバムの音楽面について書いていくとしよう。まず、メロディについて。そもそもアンジェラが2014年に日本での活動を無期限で休止し、アメリカに移住したのは、作曲を集中的に学ぶためだった。
「私は幼少の頃からクラシック・ピアノを弾いていたけど、専門的な音楽教育を受けたことが一度もなかった。自分の直感を頼りに曲を作っていたんです。それでやれることはやりきったという思いがあった。自分の持っている限られた絵の具の色の混ぜ合わせは、もう全部やりつくしたなと。もっと豊かな絵を描くには、新しい絵の具の色をパレットに乗せる必要があった。そうしないことには満足のいく曲が書けないというところまで来ていたんです。だから新しい色を獲得するために、向こうの学校に通ってちゃんと作曲の勉強をしたかった」。
その考えを行動に移した。日本を離れ、初めの2年間は南カリフォルニアのUSCソーントン音楽学校に通って作曲をみっちり学び、その後はナッシュビルに引っ越してバークリー音楽大学のオンライン授業を2年間受けた。14年ぶりのオリジナル新作『SHADOW WORK』には、その成果がはっきりと表れている。新しく得た絵の具の色を自由に混ぜ合わせ、以前よりも明らかに豊かなメロディを生み出している。収録曲の多くのメロディには大胆な動きがある。一方で静かな動きによってじわりと沁み入ってくる曲もある。端的に言ってメロディの幅がグッと広がっているのだ。しかもメロディの動きにアンジェラ特有の個性がはっきりと見える。他の日本のポップ・ミュージシャンならやらないであろうメロディの動きのユニークさが今作で際立っている。
「それは私がJ-POP特有の転調の仕方をしないから。したい気持ちはあるんですよ。だけど自分の細胞にそれがないんです。私はヒールを履かずにフラットシューズを履いて生きてきた人間だから、ヒールを履くとなんだか別人みたいになって、“何やってんの?”ってつっこみたくなる。それと同じ感覚。なので無理に媚びるようなことはしないでおこうと思って」
そんなふうに話すアンジェラは徳島で生まれ、岡山で中学時代を過ごしたあと、ハワイで青春を謳歌し、その後ワシントンD.C.の大学時代に音楽家として生きる決意をした。徳島での幼少期には日本の童謡に馴染んでいたが、物心ついてからのアメリカではオルタナティブミュージック、シンガー・ソングライターのポップス、R&Bやヒップホップなどに親しんでいた。そうした背景もあって、以前からアンジェラの作る曲は洋楽特有のスケール感やダイナミズムを有しているのと同時に、日本人の琴線に触れる情緒的な旋律があったりもし、それが高次元でひとつに結ばれているところがユニークなのだと筆者は過去にも書いた。『SHADOW WORK』のいくつかの曲にもそれがあるのだが、和風のメロディであってもJ-POP的なるものからはますます離れていった感覚があって、それが面白い。例えば「Narcissist」や「Dance with Darkness」にはミュージカルの曲のような動き、それも欧米のそれではなく日本のミュージカル曲のような動きがあるのがユニークなのだが、そこには『この世界の片隅に』の音楽を担当したことが経験として活かされている、あるいは本人も無意識のうちにその影響が出ているということなのかもしれない。そういう意味で、歌詞の視点はまったく異なれど、2024年作品『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に」』に連なるところもあると言えるだろう。
アンジェラ・アキ「Dance with Darkness」Lyric Video
■「今のほうが肩の力を抜いて歌えている」(アンジェラ・アキ)
次にサウンドについて。今作の制作はアメリカと日本のセッションに分けて進められた。アメリカではアンジェラがナッシュビルで出会ったDim Starが7曲のプロデュースを担当。日本では、あいみょん、玉置浩二をはじめ数多くのアーティストの編曲とプロデュースを手掛けているトオミヨウが4曲、2025年の『アンジェラ・アキ Tour2025 -Eleven-』に参加したギタリストの田中義人がアンジェラと共同で3曲のプロデュースを担当。ミュージカル『この世界の片隅に』でがっぷり組んだ作・編曲家の河内肇も1曲アレンジを担当している。15曲のなかで「Narcissist」「Sat-Chit-Ananda」「House of Cards」といった曲には現代R&B的なグルーブがあり、それは14年前までの楽曲にはなかったもの。これぞ新しいアンジェラ・アキのサウンドと言えるものだ。
「今回は縦ノリではなく、しっとりしたバラードでもなく、横ノリできる感じのものを作りたいと思っていたんです。だからグルーブからスタートして作っていった曲がわりと多いんですよ。私は90年代のヒップホップやR&Bも好きでたくさん聴いてきたから、そういうものが今の自分のなかから出てきているみたいですね。特にDim Starはそういった音楽への理解が深くて頼りになりました」
「Floating Planets」もDim Starが手掛けた曲だ。ソウル・バラードだが、スペーシーなムードの音が入っていたりもして、モダンに聴こえる。
「Dim Starは半分生ドラム、半分打ち込みみたいな面白い音楽をやっている兄弟なので、よくあるポップスの音作りとは視点が違うんです。私はそこがすごく好きで。キックの一音にもすごくこだわって時間をかけて録る人たちなので、低音のバイブレーションが日本の音楽とは全然違うんですよ。それと彼らは、空間作りにこだわっていた。音で埋めずに、空間を作る。そこがいいし、だからこういうソウル・バラードでも古臭く聴こえないんだと思います」
ボーカルもまた、以前よりもグッとエモーショナルになり、節回しにも個性と自由度が濃く表れている。
「昔は必死に歌っていたから。今のほうが肩の力を抜いて歌えているし、そうすることで本当の強さが歌に出るようになったんだと思います」
約20年前、メジャー・デビュー曲「HOME」でアンジェラは《野心と愛の調和がとれず 誰もが彷徨っている》と歌った。それから長い間、彼女自身が野心と愛の調和をとれずに彷徨っていたところがあったのかもしれない。だが、5年前にシャドウ・ワークを始め、今はこう思っている。
「怒りや野心を原動力にして活動していた時期があった。でも今はこう思うんです。怒りで突破できなかったことも愛でなら突破できるんじゃないかって」
「Forgiveness」で《解けない結び目はそのままでいい 答えのない問いかけは手放していい》と歌い、「Echo」で《帰れない場所と 帰っていく場所が 一つになるとき 愛を知る》と歌い、「Pledge」では《少しづつ ありのままの自分を受け入れる 嵐に打たれても 道を踏み外しても 二度と手放さない 私であることを 私に誓って》と歌う。今、アンジェラはこの境地にいる。その思い、今度はツアーでどう表現されるのか、それも楽しみだ。
TEXT BY 内本順一
■【動画】アンジェラ・アキ『SHADOW WORK』アルバム視聴トレーラー
■【画像】アンジェラ・アキ『SHADOW WORK』ジャケット写真
■リリース情報
2026.02.11 ON SALE
ALBUM『Shadow Work』
■関連リンク
アンジェラ・アキ OFFICIAL SITE
https://www.angela-aki.online/
