圧倒的な熱量を持つ楽曲を原案とした短編映像プロジェクト『#あの日の春の歌』。今回選ばれたのは、ハンブレッダーズ「銀河高速 – From THE FIRST TAKE」、jo0ji「不屈に花」、離婚伝説「ファーストキス」の3曲である。
夢や理想を抱えながらも立ち止まってしまうさまを夏目透羽が、思うように人と関われないでいるさまを遠藤さくら(乃木坂46)が、かつての情熱を見失いかけるさまを祷キララがそれぞれに好演。
自己と向き合い、不器用ながらも今を生きる自分を肯定する──そんな新しい“日常”が始まる瞬間を丁寧に描いた3つの物語に触れていこう。
■夏目透羽×ハンブレッダーズ「銀河高速 – From THE FIRST TAKE」
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』で松野家の女中・クマ役を演じたことで、注目を浴びる夏目透羽。
夏目が演じるのは、音楽系の専門学校を卒業後、居酒屋でアルバイトをしながら日々をやり過ごす、23歳の凪だ。今回の役柄はセリフがほとんどなく、「表情での芝居」 を特に意識したという。無邪気で透明感のある繊細な演技が、物語の印象的な瞬間を作り上げている。
凪は、音楽が好きで「音楽に関わって生きたい!」というまっすぐな想いから進学を決めたものの、学ぶほどに理想が現実として想像でき、いざ現実と対峙すると“「好き」を仕事にすることへの不安”に襲われ、もう一歩を踏み出せずにいた。
夢を追いかけたい、だけど…音楽が好きだからこそ、「好きなだけの自分にできるのか?」「大好きな音楽を嫌いになってしまわないか?」と、不安を払拭できずにいる。同世代が夢や目標に向かって進む姿も今の凪には眩しすぎて、いっそう不安と息苦しさを感じてしまう。
そう思い悩む彼女は、ひとりレコードショップへ。あらたな音楽との出会いに心をときめかせながらレコードを探す姿からも、いかに彼女が音楽好きなのかが伝わってくる。
この描写により、悩みの種・そして救いも音楽であることがわかり、凪にとって何よりも代えがたい存在=音楽であることがうかがえる。
そんな凪だからこそ、孤独を肯定する「銀河高速 – From THE FIRST TAKE」の熱量に心動かされたのかもしれない。
ハンブレッダーズが岐路に立ったときに誕生した「銀河高速」。ぶち当たる様々な現実・障壁を理解したうえで、それでも夢を追いかけるのだと、たとえ満身創痍であっても突き進む力強さに感化されるリスナーも多いことだろう。
強大なエネルギーに触れ、停滞していた凪の景色が少しずつ変わっていく。どこか覇気のなかった表情から一転、すっきりした表情を浮かべるラストが印象的だ。
なお、レコードショップのシーンは『#あの日の春の歌』を担当した林 希監督(博報堂ケトル所属の映像ディレクター/クリエイティブ・ディレクター)がレコードをテンポよくめくれるようにとレクチャー。最初はめくる進行方向が逆になったり、テンポがずれてしまうなど悪戦苦闘する夏目だったが、目を輝かせながら何度もトライし、自然な手つきでめくれるようになった。
【夏目透羽 コメント】
《続けてみることにしたよ》という歌詞がありながら、《理想と現実は二律背反》という歌詞もあり、迷いや葛藤がリアルに伝わってきます。音楽活動をやりたいという友人から相談を受けたことがあって、その時のことを思い出しました。
私は、散歩が好きなのですが、気づいたらこの曲のサビの部分を鼻歌でよく歌っています。アップテンポで気分が上がるんです!
■遠藤さくら(乃木坂46)×jo0ji「不屈に花」
乃木坂46のメンバーであり、数々の映像作品に出演し、俳優としても才能を開花させた遠藤さくらは、jo0jiの「不屈に花」を原案としたショートストーリーに登場。
撮影期間中、本番以外は終始天真爛漫な笑顔をのぞかせた遠藤さくらだが、今回彼女が演じたのは、人と関わることが苦手で、雀荘でのアルバイトを淡々とこなす23歳の奈々である。
雨が降る憂鬱な帰り道すら友人との語らいの場として楽しむ、青春まっさかりな女子学生グループと下向き加減でぽつぽつと歩く学生時代の奈々という対比の効いた冒頭シーン。
会話に夢中で奈々とぶつかっても気づかないグループとぶつかられてじろっと相手を見つめるものの、何を言い返すわけでもなくまた下向き加減になる奈々の姿からもわかるように学生時代から対人関係が苦手であることがうかがえる。
もしかしたら…こういった場面は奈々にとってはよくあることで、「言い返してもなあ」「そもそもなんて言えばいいかわからないしなあ」と人と積極的に関わることやうまく人の輪に溶け込めない不器用な自分自身に対し、諦めているのかもしれない。ただ、フリーターとなった今もこうやって思い出すほどに心の棘として刺さっているわけだが…。
アルバイトの面接でも「接客業とか好き?」と問われるも、視線は合わさず「頑張りたいとは…思ってます」とどうにか言葉を絞り出した奈々。わざとじゃない、頑張りたい気持ちはあるが、どうしても言葉が続かない…そんな彼女の不器用ぶりが垣間見える。
決して不真面目ではない。業務は淡々とこなす。ただ、不器用ゆえに己に期待しなくなり、諦め、そして冷めてしまった…それが奈々なのだ。
しかし、感情がないわけではない。
蓄積された鬱屈とした感情を吐き出したい衝動に駆られることもあれば(印象的なシーンのひとつである、ハイスピードカメラを用いたスローモーション撮影。劇的な映像表現と遠藤の表情のコントラストが際立つ見せ場となった)、実家の母からペットの犬の赤ちゃんが生まれたことに対し、少し顔を綻ばせたりもする──そんなときにふと目に留まった桜の花びら。
jo0jiの「不屈に花」の一節にある《アスファルトで咲いた/遠巻きながら春に触れる》とリンクするシーンだが、下を向いて歩いても平等に春はやってくるのだと痛感。
世界が一変するような芽生えではないものの…jo0jiの歌声と重なり合うとき、アスファルトに咲いた春ではなく、ほんの少し顔を上げた先に広がる満開の春を前に、- 言葉にならない小さな感情が奈々の中に宿り始める。その瞳に光が灯る姿は実に美しい。
【遠藤さくら コメント】
この曲は、jo0jiさんが落ち込んでいる友達に何かしてあげたい、と思って書いた曲とお聞きしてすごく寄り添ってくれる歌詞が心に刺さりました。友達が落ち込んでる時の言葉のかけ方って難しいと思います。そんな簡単に言葉をかけられないし、私の場合はただ傍にいてあげることしかできない。だからこういう曲を自分のために書いてくれたんだなって思うとすごく嬉しいですよね。
■祷キララ×離婚伝説「ファーストキス」
話題作に出演し、その演技力が高く評価されている、祷キララ。『#あの日の春の歌』において、唯一の社会人・奈緒を演じている。
アパレル会社に就職した、24歳の奈緒。
目の前の仕事に一生懸命に取り組み、明るい笑顔を携え、周囲の期待に応えるべく、トレンドを追いかける日々。一見、充実した日々を過ごしているようにも感じるが、彼女の笑顔にどんどん陰りが見えるようになる。
本当にこれでいいのか? 今までの努力は、今の自分になるためのものだったのか?
就職前はアクセサリーづくりを学び、情熱を尽くしてきた奈緒。“ものづくり”に対し、並々ならぬ想いがあるからこそ…夢を膨らませて入社したアパレル会社なのに、社会人として周囲の期待どおりの成果を出そうと奮闘してしまう現実と、トレンドを追いかけるだけではなく、作り手の体温が残る“オンリーワン”を作りたいという理想との狭間で揺れ動く。
社会人として、仕事に向き合うことは悪ではない。理想を叶えようと情熱を燃やすのも悪でもない。ただ、自分自身のなかでどう折り合いをつけるのか──奈緒という人間のまっすぐな性格ゆえの自問自答が続くのだ。
今の自分を表す、オフィスでの打ち合わせシーンについて、祷自身も「過去の自分に語りかけているつもりが、今の自分に向けて話しているような感覚だった」と語っていることから、似たような経験を持つ人は少なくないだろう。
そんな葛藤する様子を仕事に追われる奈緒の前に“かつての自分”を対峙させることにより表現。
今の自分と、かつての夢、ふたつの存在が夕暮れの屋上で対峙する最後のシーンでは「あんた、たいしたことないよ」「知ってる」「でも、ギリあきらめてない」「…知ってる!」とにこやかにやりとりしている。
ものづくりへの想いはひとしおだが、その道1本で食べていけるだけの才はない(=たいしたことはない)。ただ、そのことを悲観するのではなく、受け入れることで新しい一歩が見えてくることもある。さらに、「でも、ギリあきらめてない」という言葉からもわかるように情熱は消えていない。かつての自分と対峙したことで、あの頃の情熱を再確認し、あらたな一歩をまさに今踏み出そうとする瞬間が、離婚伝説の甘美なメロディとあわさって最高のラストを演出している。
【祷キララ コメント】
この曲を最初に聴いた時、なんて“まっすぐな”歌なんだって思いました。諦められないという気持ちというか、君が一番大切だからと愛に向かっていく強い気持ちを、こんなにストレートに歌ってるのって、めっちゃかっこいいなと思いました。離婚伝説さんの『愛が一層メロウ』も好きなんですが、疾走感があってエネルギーと勢いを感じるこの曲も大好きです。
■感情揺さぶる“春”を楽しむ『#あの日の春の歌』プレイリストも
春にちなんだ、三者三様の“芽吹き”を感じさせるショートストーリー。原案となったハンブレッダーズ「銀河高速 – From THE FIRST TAKE」、jo0ji「不屈に花」、離婚伝説「ファーストキス」への理解が深まるとともに、またあらたな解釈にも繋がったのではないだろうか。








