ソロ活動をスタートして今年で25周年を迎えるHYDEが、1月より行ってきたコンサートツアー『HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL』の国内ファイナル公演を3月31日、4月1日の2日間にわたって神奈川・ぴあアリーナMMにて開催した。
最終日となった4月1日はあいにくの雨に見舞われたものの、年度初めの平日にもかかわらず、チケットはソールドアウト。カーテンコールでは駆けつけた約1万人の観客がサプライズで灯したサイリウムの光が場内を埋め尽くし、幻想的な光景をHYDEにプレゼントするという感動のシーンでフィナーレを飾った。
■JEKYLLと名づけられた“もうひとりのHYDE”
総勢22名のオーケストラを率い、ヴォーカリストとしての天賦の才とこれまでに培ってきたスキルを存分に注ぎ込みながら全国12都市15公演をかけてHYDEが紡ぎ上げてきた極上のステージがいよいよ国内でのラストを迎えた。
激しいライヴパフォーマンスを身上とし、自他ともに認めるロックアーティストであるHYDEが、2026年はそうしたアグレッシヴモードの一時的な充電期間にすると宣言、“動”から“静”へと活動スタイルをドラスティックにシフトして臨んだのが今回の『HYDE Orchestra Tour 2026 JEKYLL』だ。
25年前にリリースした記念すべき1stソロアルバム『ROENTGEN』。一世を風靡するラルク アン シエルのヴォーカリストというイメージで捉えれば意外すぎるほど静謐でパーソナルな世界観をパッケージした、その後の彼のキャリアから俯瞰しても異色なこの傑作は、おそらくHYDE自身にとっても特別な作品であり続けたのだろう。
四半世紀越しの続編としてニューアルバム『JEKYLL』をついに完成させ、3月11日の配信リリースを待たずにスタートを切った今ツアーで彼が体現してみせたのは、JEKYLLと名づけられた“もうひとりのHYDE”に他ならなかった。
開演時刻が近づくにつれ、場内に期待の熱が高まってきた。訪れた観客全員が心ゆくまで音楽を味わい尽くせるようにとアリーナ席もスタンド席も今ツアーではすべてが着席指定となっているが、当然ながら座っていても昂揚感は募る。
ツアーとしてはまだ5月にHYDEが観光大使を務めるオーストリア公演が控えてはいるものの、そちらは日本からのバンドと現地の楽団による混成オーケストラとなるため、これまでの布陣によるアンサンブルを堪能できるのはこの日が最後。名残惜しさがなおいっそう客席の静かなヴォルテージをブーストさせる。
予定を10分ほど回ってゆっくりと緞帳が上がった。三段構えのひな壇に鎮座するJEKYLLオーケストラ、ステージの中央にHYDEが姿を現すや、ぴあアリーナMMが喝采に沸く。ちなみにHYDEがこの会場に立つのは2020年から2021年にかけて行われた『HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE』以来、約5年半ぶりだ。
「『JEKYLL』へようこそ。25年前の1stアルバム『ROENTGEN』、その第2弾になる『JEKYLL』というアルバムをようやくリリースすることができました。ふだんは激しい音楽をやっているのですが、まさに“ジキルとハイド”という二面性のアルバムになっています」
アルバムでも1曲目を飾る「DIE HAPPILY」の深く柔らかなサウンドと歌声でたちまちオーディエンスを包み込んだHYDEは、続けざまに韓国のボーイズグループ・TOMORROW X TOGETHERへの楽曲提供でも話題を呼んだ「SSS(Sending Secret Signals)」、アニメ『黒執事 -緑の魔女編-』オープニングテーマとしても熱狂的支持を集めた「MAISIE -Co shu Nie feat. HYDE」(Coの「o」は、ウムラウトありが正式表記)をそれぞれ自身バージョンへと大胆にリアレンジした「SSS -HYDE Ver.-」「MAISIE -HYDE Ver.-」を立て続けに披露して1万人のハートをすっかり掌握すると、そう挨拶。
自身がレストランのオーナーシェフになり、年に一度訪れるお客様をおもてなしするイメージで作ったという「SO DREAMY」や、たっぷりと響かせた口笛も聴きどころの「TATTOO」など『JEKYLL』に収録の全10曲を主軸にしながら、ボサノバ風に変身させたラルク アン シエルの代表曲「HONEY」や、中島美嘉に曲提供した「GLAMOROUS SKY」をグッとテンポを落として妖艶に歌い上げたりとオーケストラとの息もぴったりに、鍛え抜かれたその喉をフル稼働させた多彩な表現力でオーディエンスを釘づけにする。
■恒例のご当地グルメをステージで食す場面も
中盤の「DEFEAT」を前に、すっかり恒例となった即興ご当地ソングパートでは会場名の“MM”を「♪言いにくい~」といじりつつ「♪“みなとみらい”です」と親切にもその由来を明かしたかと思えば、「♪ようこそ~、でもあと1曲で終わりです~」と衝撃発言。しかし、すぐに「♪エイプリルフ~ル、yeah!」とソウルフルな熱唱で爆笑を呼ぶなどやりたい放題。
ご当地グルメをステージで食すというこれまた恒例の場面では、葉山(神奈川)で人気のプリン専門店・マーロウのプリンを頬張る様子がスクリーンにドアップで映し出され、場内が嬌声のるつぼとなるひと幕も。途轍もない集中力で迫力の歌声を轟かせる演奏&歌唱パートとは打って変わった、チャーミングでサービス精神旺盛なHYDEの人柄にたっぷりと触れられるこのひとときも今ツアーの醍醐味だったと今さらながらに思う。
黒を基調にしたドレッシーな衣装から一転、ボウタイ付きの真っ白なブラウスシャツに着替えて後半へと空気を刷新させたHYDE。
ハンドパンの神秘的な音色とファルセットを多用したヴォーカリゼーションが聴き手を現実から浮遊させ、内省の深みへと誘った「FADING OUT」、愛する人に自分から別れを告げた主人公の切々とした悲しみが美しくも儚い雪となって胸にふりしきる「SMILING」と、『JEKYLL』のなかでもことさら色濃く『ROENTGEN』の遺伝子を受け継ぐ2曲が披露された直後、「次の曲は25年前にリリースされた曲です。この曲はとてもいろんな人に愛されて育ちました」の言葉とともに届けられた「EVERGREEN」には息を呑まずにいられなかった。
『ROENTGEN』に先駆けてHYDEがソロとして初めて世に送り出した楽曲でありながら、タイトルが表しているとおり、まるで色褪せないその美しさにはただ陶然と聴き入るのみだ。
■「Red Swan」「BREAKING DAWN(Japanese Ver.) Produced by HYDE」「夢幻」のセルフカバーも
YOSHIKI feat.HYDE名義による「Red Swan」や、HYDEが楽曲提供しプロデュースも手掛けたジェジュンの「BREAKING DAWN(Japanese Ver.) Produced by HYDE」、MY FIRST STORY × HYDEとしてテレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編 オープニング主題歌を務めた「夢幻」と彼が手がけた名曲のセルフカヴァーでは、アレンジによってガラリと表情が変わる音楽という芸術の面白さを具現。
特に「夢幻」のビッグバンド風アレンジは「こうきたか!」と唸るほど実に秀逸で、その豪華な音像にも心躍らされたが、やはり圧倒的なのはHYDEから放たれる歌そのものだった。アグレッシヴモードのHYDEは充電期間中とはいえ、やはりHYDEはHYDE、JEKYLLであってもHYDEなのだ。その歌に宿る躍動感は“動”であれ“静”であれ他の追随を許すものではない。
■アンコールでは、ファン&オーケストラからのサプライズも
そうして訪れた最後の一曲「LAST SONG」のすさまじさはもはや圧巻というワードでは到底言い表せないインパクトと感動をオーディエンスの脳裏に刻んだ。『JEKYLL』の双璧とも位置付けられる前アルバム『HYDE [INSIDE]』のラストナンバーにして、ハードロック全開の当作において唯一のバラード「LAST SONG」。
2025年の『HYDE [INSIDE] LIVE 2025 WORLD TOUR』でも血糊を頭からかぶって身をよじる壮絶なパフォーマンスが大きな反響を呼んだが、このツアーでの「LAST SONG」はオーケストラのドラマティックな演奏に映像演出を掛け合わせた新しいアプローチで楽曲に横溢する絶望をひときわ救いのないものにし、HYDEに憑依させた。
慟哭、絶唱、歌詞の主人公を苛む孤独がこちらにも容赦なく流れ込んでくる。オーケストラコンサートと聞いて、これほどにも鬼気迫るステージを誰が想像するだろう。まさしく唯一無二、HYDEでなければ成立させ得ない至高の音楽体験がこの瞬間にはあった。
閉ざされた緞帳がカーテンコールで再び上がると、客席いっぱいに瞬く光の海がHYDEとオーケストラを出迎えた。国内ツアーを駆け抜けた彼らを労い、その完走をサプライズで祝福しようと入場時にサイリウムが配られていたのだ。
「おお…ずっと隠してたの?」とみるみる相好を崩したHYDE、振り向けばオーケストラもサイリウムを手にしている。「マジか、そういうことか」とようやく事態を把握すると「この素晴らしいミュージシャンと回れて幸せなツアーでした。ありがとうございました」と最高のステージをともに作り上げてくれた仲間たちへの賛辞を改めて口にした。
「すごくいい経験になりました。歌と向き合えたツアーだったと思います。僕がここまで好き勝手にやってこられたのは、雨の平日にこんなに集まってくれる良き理解者のおかげです。今後も自分の楽しいと思うことを追求して逃げ切りたいと思います」
オーケストラを送り出し、客席を愛しそうに見つめながら彼らしい独自の言い回しで感謝を告げたHYDE。その目が潤んで見えたのはおそらく気のせいではないだろう。彼にとって今ツアーはヴォーカリストとしての新たな可能性、この先の未来の道筋を自ら拓き、オーディエンスに提示しようというひとつの試みでもあったのではないか。
この日のMCでは「将来、小さなクラブでしっとりと歌いたいなと思って『JEKYLL』を作りました」と語る場面もあった。“動”と“静”、ふたつの武器を確立させたHYDEはこれからいっそう自由に伸びやかにその歌を、音楽を追求していくに違いない。そう確信してやまないフィナーレの夜だった。
TEXT BY 本間夕子
PHOTO BY 石川浩章 ※メイン写真
■リリース情報
2026.03.11 ON SALE
DIGITAL ALBUM『JEKYLL』
2026.05.13 ON SALE
ALBUM『JEKYLL』
2026.06.06 ON SALE
ANALOG『JEKYLL』
■関連リンク
HYDE OFFICIAL SITE
https://www.hyde.com/






