THE F1RST TIMES

COLUMN

2021.08.18

Official髭男dismが豊潤さを磨き上げながら、今の社会に寄り添う価値観を提示する『Editorial』

TEXT BY レジー

リスナーの心のより深い部分を揺さぶる『Editorial』

Official髭男dism(以下ヒゲダン)の約1年10ヵ月ぶりにリリースされるフルアルバム『Editorial』の1曲目を飾るのは、デジタルクワイア的な意匠の施されたアカペラナンバー「Editorial」。

“伝えたい だけど語れない ずっとこの気持ちの正体を 僕は探してる だけどよそ見ばっかしている そっちの方が幸せだから”

そんな言葉とともに幕を開ける今作は、“加工された生身の声”という矛盾した要素が同居する「Editorial」の楽曲構成と合わせて、リスナーの心のより深い部分を揺さぶろうとします。

「曖昧なものを曖昧なまま、明確な白黒をつけなくても伝えていいんだ」とでも言うべきステイトメントは、コロナ禍の中で単純化された言説間の争いが加速している昨今の世の中だからこそ切実さをもって響いてきます。

『Editorial』のオープニングで示されるスタンスはより内省的なもの

前作『Traveler』の1曲目「イエスタデイ」が“バンドがブレイクする瞬間のきらめき”を正確にキャプチャーした華やかなサウンドだったことを思うと、『Editorial』のオープニングで示されるスタンスはより内省的なものです。

ただ、この“内省的”というのは、“地味”“とっつきにくい”といった意味ではもちろんありません。

メジャーシーンのど真ん中で戦っていく決意表明としても機能した『Traveler』を経てバンドが辿り着いた境地は、「自分たちが良いと思うものと丁寧に向き合ってそれをアウトプットする」ということなのではないかと思います。

言葉にすれば当たり前ですが、実践するのは難しい、そんな取り組みを着実にやってのけたのが『Editorial』というアルバムです。そういった考え方は特に今回のアルバム向けの新曲に表れていて、バンドとしての様々な側面が作品内のブロックごとに表現されています。

“曖昧さの許容”とも言うべきメッセージが説得力を持って迫る

例えば「Shower」から「みどりの雨除け」へと続く流れは、リリカルな情景描写がフィーチャーされた美しい組み合わせ。槇原敬之からMr.Childrenやaiko、最近ではあいみょんなどにも受け継がれている日本的な歌謡性がヒゲダンにも根づいていることがよくわかります。

また、80’sテイストのファンキーなトラックに開放的なメロディが乗る「ペンディングマシーン」とmabanuaとの共作による絶妙によれたビートが特徴的な「Bedroom Talk」を介して見せてくれるのは、時代を横断してダンスミュージックを咀嚼するヒゲダンの姿です。

そして、そんな多様な音楽的アプローチをまとめ上げるラストナンバーの「Lost In My Room」で歌われるのは、“何も決まらない 大傑作の背中ばかりを見つめ その主人公に似せた僕になれど 何をしよう? 何を描こう? 自分らしさなどどこにもない”という言葉たち。

それぞれの楽曲がバンドとしての力強い成長を映し出しているにもかかわらずどこか煮え切らないこのメッセージでアルバムが終わりを告げることで、1曲目の「Editorial」で綴っていた“曖昧さの許容”とも言うべき考え方、いつだって悩みながら進んでいけばいいというメッセージがより説得力を持って迫ってきます。

メインストリームど真ん中からこういった作品が生まれる2021年

その考え方を貫くのは“ひとつの答えを出して突き進もう”という発想よりも実はハードで、いつでも虚心坦懐に自分を見つめるための精神的な逞しさが求められます。しかし、そういったスタンスこそ、正解を出すのが難しい(だからこそ安易な“正解”に誰もが走りがちな)今の時代に真の意味で必要なものなのではないかと思います。

音楽としての豊潤さをますます磨き上げながら、今の社会に寄り添う価値観を押しつけがましくない形で提示する『Editorial』。メインストリームど真ん中からこういった作品が生まれる2021年という時代は、いろいろしんどいことも多いですがあながち悪くないなと感じる次第です。


リリース情報

2021.08.18 ON SALE
ALBUM『Editorial』


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