THE F1RST TIMES

COLUMN

2021.09.03

遥海の奥底からの“声”が、まだ見えぬ一筋の光を感じさせてくれる

TEXT BY 藤井美保

豊かな表現力を武器に歌う、遥海

凍てつくようなベルとピアノに導かれて厳かにはじまるメロディ。微かな悲劇性を帯びたそのたおやかな流れを慈しむような歌声。身を任せていると、“名も無き声に傷つく”人々のドラマが見えてくる気がした。

遥海の新曲「声」が、主題歌をつとめる映画『科捜研の女-劇場版-』公開日と同じ9月3日に配信された。

昨年5月、TVアニメ『波よ聞いてくれ』のエンディング曲「Pride」でメジャーデビューした遥海。

その歌声を、ゴスペラーズ・黒沢 薫は「この年代ではいちばん歌が上手い」と評し、ヤクルトスワローズ・山田哲人選手も「Pride」を登場曲のひとつに使うなど、各方面から高い注目を集めてきた。

パワー系シンガーと思われがちだが、昨年12月に配信された「WEAK」では胸がつまるような繊細な表情も披露。

さらに今年2月に発表したEP『INSPIRED EP』では、遥海を育ててくれたR&Bの数々を独自のアプローチでカバーし、無限大の底力を見せてもくれた。

今夏は、バレアリックなダンスチューン「ずっと、、、」と、ほぼアコギ1本でシンプルに奏でた「スナビキソウ」(「NHK「みんなのうた」でオンエア中)を、相次いでリリース。

スキルの豊かさが聴き手に伝わり、期待感が増したところで、遥海自身のバックグラウンドや人柄、世代感や時代感を含めて、シンガーとして何を伝えていくべきかに、いよいよ本格的に舵を切ったと感じられる流れでもある。結果的に3ヵ月連続リリースとなったその最終走者を「声」が担う。

母なる大地を思わせる、遥海の歌の包容力、生命力

作曲・編曲は、平井堅、JUJU、絢香をはじめ、数多くのアーティストを手がける松浦晃久。前述の『INSPIRED EP』では歌のディレクションもつとめ、遥海とともにとことん歌と向き合ったという。

おそらく、松浦は遥海の声がどのレンジでどう響くかといった特長やフレージングのクセ、さらにその心の奥底に息づく精神性など、遥海が持つすべてをテーブルの上に並べて、それらが最大限に生き、かつ、今の遥海にとってチャレンジともなる強い曲を目指したのではないだろうか。

冒頭で言及した“厳かさ”は、筆者がこれまで遥海の作品を聴き、ライブで歌う姿を観て、まず思い浮かんだ言葉でもある。3歳からクワイアに参加していたというから、音楽と対峙するとき、自ずと神への感謝や畏敬の念が湧き、それがシンガーとしての品に繋がっている気がするのだ。

「声」のAメロで伝わってくるのは、そういった祈りにも似た厳かさだ。感情を先読みするように駆け上がり絡みつくストリングスが、主人公の迷いや苛立ちをクローズアップしていく場面にもなっている。

その頂点に達したところでパーンと視界が開け、まさに“新しい今日がはじまる”がごとくスケールの大きなサビに。聴いていると、向かい風を受けて崖の上に立ち、未来に向かって笑顔で歌う遥海が目に浮かぶ。細かい譜割で激しく上下するクラシカルなメロディは、おそらく松浦が遥海に、かかってこいと仕かけたハードルだろう。それをものともせずに、遥海は心を解き放ち、ダイナミックな歌で超えてくる。

日本人の父とフィリピン人の母を持ち、13歳で日本語がわからないままフィリピンを離れて日本に移住した彼女は、愛する人たちとの別れや、言葉と文化の違いに喘ぎながら、それでも大好きな歌で生きていくことを諦めなかった。

その経験と、幾重にも複雑に重なる喜怒哀楽の層とが、母なる大地を思わせる遥海の歌の包容力、生命力となっているのではないだろうか。

奥底からの声が、まだ見えぬ一筋の光を感じさせる

「声」で歌われているように、今、我々は声が出せない世界に直面している。

音楽を含めたエンターテインメント界にとっては特に切実な問題でもある。実際、遥海も大きな意欲で臨んだミュージカル『RENT』で、他の出演者とともに新型コロナにかかり、公演が2週間で打ち切りとなるという現実に遭った。

それでも、声で何かを伝えずにはいられずに、遥海は今、「声」を歌う。

鬱憤を晴らすがごとく発せられる匿名の声。それに傷つき、声も出せずに怯える人。遥海はただひたすらに“聞こえているよ あなたの声”と手を差し伸べる。

大切なのは、自分の心の声を見失わないこと。

そこに耳を傾けて、言いたければ堂々と自分の名前で言うこと。そして、“超えていく先に 光があること”を忘れないこと。“ちゃんと進んでいくよ 響かせていくよ 私の声”と、遥海はこの時代を生き抜く不屈の覚悟を語り、覚悟はある? と我々に問いかけてくる。

解決しないピアノの響きで終わるのは、その先のドラマを聴き手一人ひとりに委ねているからだろう。

優しいだけのバラードじゃない。力強いだけの応援歌でもない。でも、遥海の奥底からの声が、まだ見えぬ一筋の光を感じさせてくれる。そんな“声”なのである。


リリース情報

2021.09.03 ON SALE
DIGITAL SINGLE「声」

2021.11.10 ON SALE
SINGLE「声」


遥海 OFFICIAL SITE
https://www.harumiofficial.com/