THE F1RST TIMES

COLUMN

2021.12.24

yamaの歌声と弦楽器とピアノによる、緊張と緩和。『With ensemble』に見た、儚くも力強い“弱さ”

TEXT BY 原 典子

■心象風景を映し出す鏡のような歌声と音程の跳躍

yamaというシンガーについて、プロフィールから知り得る情報は多くない。

2018年よりYouTubeをベースにカバー曲を公開、2020年4月に自身初のオリジナル楽曲としてリリースした「春を告げる」がSNSをきっかけに大ブレイク。

同年10月にはメジャーデビューシングル「真っ白」をリリースし、2021年という“今”を象徴する新世代アーティストとして、ますます活躍の場を広げている。

まず、誰もが一聴して惹かれるのは、透明感のある声だろう。

ヘッドフォンで聴きながら歩いていると、yamaの歌声が街の喧噪や公園の景色と溶け合い、その時々の色を帯びて聴こえてくる。歌い手の強烈な個性で圧倒するのではなく、聴き手の心象風景を映し出す鏡のような歌声は、芯がありながらも壊れそうな繊細さも含んでいる。

テクニカルな面では、yamaの歌唱が人を惹きつける理由のひとつに、音程の跳躍があると思う。リズミカルな曲で大胆な跳躍を繰り返しながら転調していくフレーズは、いやがうえにも快感中枢を刺激する。しかも、その跳躍にベタつきがないのが良い。

yamaは中学生の頃からボーカロイドの曲をカバーし、インディーズ時代の楽曲はすべてボカロPのくじらが作詞作曲を担当。跳躍時に見せる、ある意味人間離れした表現は、そういった経験からくるものかもしれない。

■内面の弱さは隠さない。つねに弱さと向き合おうとする、yama

また、MVをご覧いただければわかるとおり、yamaは顔を見せずに歌うシンガーである。

余計な情報と結びつけず、音楽作品として純粋に聴いてほしいという理由から、性別や出身地などパーソナルな情報は非公開。素性は一切わからないyamaだが、誰よりも聴衆である“私”の近くにいる。

それは、yamaがつねに“弱さ”をテーマにした作品を歌ってきたから。

シングル「麻痺」では“痺れちゃうくらいに怖くてさ 足が竦んで竦んでいた”と歌う、yama。顔を隠しても内面の弱さは隠さない、そんなアーティストなのだ。

2021年11月に発表された「Oz.」は、フジテレビ“ノイタミナ”TVアニメ『王様ランキング』のエンディングテーマとして起用。

同アニメは、生まれつき耳が聞こえず、言葉を話すこともできず、まともに剣も振れない非力なボッジ王子が、カゲというはじめての友だちと人生の冒険へと漕ぎ出す物語であり、ここでも“弱さ”は重要なテーマとなっている。

弱い王子が持つ真の強さ、悪巧みをする家臣が抱える優しさという弱さ…多面的なキャラクターが抱える弱さは人間らしさそのものだと言える。

そして“あなたが弱いのなら ボクの弱さを見せるから”と歌う「Oz.」は、そんな王子たちの物語の応援歌として響くのだ。

■『With ensemble』で新鮮に響く、「Oz.」のあらたな魅力

しかし、このたび『With ensemble』にて披露された「Oz.」は、『王様ランキング』のアニメーションで構成され、歌とバンドが一体となってエモーショナルに高揚していくMVとはまったく異なる世界を私たちに提示する。

たとえば冒頭の“ひとりぼっちにはさせないでよ”に付けられたピアノは、歌のメロディとは少し違う音を響かせる。続くピアノの断片的なリズムや控えめなストリングスからも、歌とアンサンブルがそれぞれ別の動きをしていることがおわかりになるだろう。

そう、弦楽器とピアノで構成されたアンサンブルは、yamaとは異なる世界に生きるものであり、両者の距離はこの時点ではまだ遠いのである。主役であるシンガーの伴奏として調和的なフレーズで華を添えるストリングスとは、そもそもの役割が違うとも言える。

それにしても、この緊張感をはらんだ響きのなかで微塵も揺らがずに歌うyamaの歌唱力の確かさたるや、やはりただ者ではない。

そんな両者の関係に変化が訪れるのが、最初のサビが終わってからの間奏。

繊細なピアノのフレーズに息の長いストリングスが重なっていくさまは、さーっと風が吹いて桜吹雪が舞い散り、川面に落ちた花びらが流れていくような光景が思い浮かんだ。“触れては壊してまた傷ついて”と歌うyamaの声が熱を帯び、それに呼応するようにアンサンブルが次のフレーズへと力強くリズムを刻み始める。

原曲のエレキギターにも負けない熱量でソロを奏でるヴァイオリン。2番目のサビからドラマチックに転調する部分では、yamaとアンサンブルとの距離はなくなり、一体となってフィナーレへと向かっていく。

それでも、あくまでアンサンブルはシンガーの付属ではなく独立した存在。

上昇する歌の音型に対して下降するストリングスの音型を重ねたり、歌のメロディとは異なるフレーズを唐草模様のように織り込んだりする緻密なアレンジに、ピアニスト兼アレンジャーを務める兼松 衆(数々のTVドラマの音楽を手がける作曲家)の手腕が光る。

弱さを抱えた孤独な者同士が、心を寄せ合い、ひとつになる──同じ物語の“B面”のような、もうひとつの表情を『With ensemble』では見せてくれている。

プロデューサーの常田俊太郎、音楽監督の徳澤青弦ら、ポップスとクラシックを繋ぐキーパーソンが手がける『With ensemble』からは今後も目が離せない。


yama OFFICIAL SITE
https://yamaofficial.jp/

『With ensemble』
https://www.youtube.com/channel/UCQ_mSPgtaXmpsi7iBZ6322Q

『THE FIRST TIMES』OFFICIAL YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCmm95wqa5BDKdpiXHUL1W6Q