国際コンクールでの実績を重ね、今やグローバルなアーティストとなったピアニストの藤田真央。どうして彼の音色に多くのマエストロが注目し、世界中のリスナーは魅了されるのか?藤田真央が秘める魅力を紐解きたい。
■世界を魅了するピアニスト
藤田真央(読み:ふじた まお)
・生年月日:1998年
・出身地:東京都
・デビュー:アルバム『モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集』
・OFFICIAL SITE https://maofujita.com/
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1998年に生まれ、3歳でピアノを始めたという藤田真央。国内におけるピアニストの登竜門である全日本学生音楽コンクール・小学生の部で優勝を飾るなど、少年時代より頭角を現していた。
そして、18歳にして『第27回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール』で優勝し、併せて青年批評家賞、聴衆賞、現代曲賞を獲得。さらには2019年、『チャイコフスキー国際コンクール』で第2位を受賞する。『チャイコフスキー国際コンクール』は、『エリザベート王妃国際音楽コンクール』、『ショパン国際ピアノコンクール』と並ぶ世界3大コンクールであり、過去にはピアニストのアシュケナージやプレトニョフなどの名だたるピアニストを輩出してきた大会である。そこに名を連ねることで、藤田真央は国際舞台へと躍り出ることになった。
▼ピアノで藤田真央さん2位 モスクワでの国際大会(19/06/28)
それ以降、『ルツェルン音楽祭』や『ヴェルビエ音楽祭』、『エディンバラ国際フェスティバル』、『ラ・ロック=ダンテロン国際ピアノフェスティバル』、『BBCプロムス』など、世界の主要な音楽祭に次々と出演。2023年には、世界の権威的ホールであり殿堂であるアメリカのカーネギー・ホールからも招かれてリサイタル・デビューしている。
また、クリストフ・エッシェンバッハ、リッカルド・シャイー、アンドリス・ネルソンス、セミヨン・ビシュコフなど数々のマエストロや、バイエルン放送響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、チェコ・フィル、フランス放送フィル、NHK交響楽団などのさまざまな国内外の名門オーケストラなど、数えきれないほどの共演を重ね、多方面で信頼を通わせていく。そのキャリアは20代半ばにして国内トップクラスだと言わざるを得ない。
▼Mao Fujita 藤田真央 with Riccardo Chailly perform Rachmaninov’s Piano Concerto No 2
活躍の舞台はステージだけではない。2019年には映画『蜜蜂と遠雷』(監督:石川慶)に登場する登場人物・風間塵のピアノの音の吹き替えも担当。キャラクターにぴったりの自由さと柔軟さ、そして繊細さを兼ね備えたサウンドを披露することで、物語に一層の華を添えた。
▼鈴鹿央士、ピアニスト藤田真央のピアノ演奏に酔いしれる/映画『蜜蜂と遠雷』「藤田真央 plays 風間塵」発売記念イベント
2021年にはソニークラシカル・インターナショナルと契約し、自身の代名詞であるモーツァルトのピアノ・ソナタを全曲録音し、『オーパス・クラシック賞2023』にてYoung Artist of the Yearを受賞した。最新アルバムである『72 Preludes ショパン/スクリャービン/矢代秋雄:24の前奏曲』では、本来の魅力を最大限に発揮し、同時に新たな一面もみせている。
▼藤田真央『72Preludes』
東京音楽大学を経て、2022年よりドイツ・ベルリンに居を移している。現在はハンス・アイスラー音楽大学ベルリンでさらに腕に磨きをかけている。
■世界中から注目される理由とは?
◎唯一無二の音色
たった一音を放った瞬間、聴く者は思わず心を鷲づかみされてしまう――藤田真央の音色には、すさまじい吸引力がある。この上なく透明で無垢である音色に、聴く者は思わず心を洗われてしまう。いっぽうで、その音色を簡単に「きれいだ」と形容するのはもったいない。なぜなら時には激しい感情や、憂いを帯びた淡さも含むこともあるからだ。森羅万象、あらゆる感情や表情を知り尽くした上で得られた清らかさと美しさであるように思う。
そんな藤田真央の音色は、彼自身がもっとも大切にしている作曲家であるモーツァルトの作品で十分に堪能できるだろう。また、2024年にレコーディングされたスクリャービンの前奏曲では、まるで簡単に触れては壊れてしまうクリスタルであるかのように透き通っていて、その唯一無二の音色に磨きがかかっている。
▼24 Preludes: No. 1 in C Major – Allegro
◎表現力の幅
超絶技巧やダイナミックさをアピールポイントにするピアニストも多くいる中、藤田真央の強みはそこに止まらない。いっぽうで、藤田真央の音色に通底する清らかさや柔らかさによって、音楽が一辺倒になっているわけでもない。音の一つひとつ、音楽の流れ、そしてそれがゆき届く空気そのものまで、すべてが巧みにコントロールされ、それが多彩な表現力になっているのだ。
たとえばひとつのハーモニーを構成する音同士の強弱の設計や、フレーズにおける繊細な緩急のつけ方、それらによって浮かび上がる立体感。藤田真央は東京音楽大学に在学していた当時、師匠であった故・野島稔から徹底的に“響き”について学んだと話すが、その追究による成果でもあろう。そうして精緻に練られた演奏は、まるで神から託されたかのような神聖さすら漂わせている。
◎作品への理解力
こだわり抜かれた音色と表現力を裏打ちするのが、藤田真央が作曲家と作品に向き合う誠実な姿勢だ。常に作曲家ファーストであり、作品の書かれた時代とそのスタイルに沿って演奏するのが、彼の基本的な姿勢のひとつである。
2023年の自身の著作『指先から旅をする』や過去のインタビューで、藤田真央は作品に取り組む際、必ず数多ある研究資料や、作曲当時に書かれた作曲家の手紙にも目を通すなどして、作品の分析と解釈に十分な時間をかけているのだと語っている。
丹念に楽譜を読み込み、得られた情報をもとに演奏ビジョンを設計・構築し、作曲家の望んだ作品のあり方を探る――それが藤田真央のスタイルだといえる。彼の演奏に通底する説得力は、楽譜や資料を通して彼が重ねてきた作曲家との対話の賜物であろう。
■『THE FIRST TAKE』で披露した「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 へ短調 作品57「熱情」より第3楽章」
そんな中、藤田真央が『THE FIRST TAKE』に登場。『THE FIRST TAKE』といえば、アーティストの歌唱や演奏の一発撮りを想起させるが、コンサートホールの舞台で生演奏を繰り広げることが生業であるクラシック・ピアニストにとって、いつだって演奏は“一発勝負”である。そこに誤魔化しや修正はきかない。藤田真央が本領発揮するのにかっこうの場である。
▼藤田真央 – 「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番 へ短調 作品57「熱情」より第3楽章」/ THE FIRST TAKE
とはいえ、大勢の聴衆に囲まれスポットライトを浴びる通常のステージとは違うスタジオの中、緊張感ある面持ちで藤田真央は登場。椅子に座り、軽く肩を回してリラックスしたのも束の間、勢いよく弾き出したのはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番『熱情』のクライマックスを飾る第3楽章だ。冒頭から素早いパッセージが続くが、あくまで冷静さを欠くことはない。
中間部、ようやく幻想的な瞬間が訪れメリハリを感じるも、ピンと張り詰めた空気感は保たれたまま。激しい音楽は渦巻くように熱を帯び、終盤はその流れに乗るかのようにスピードアップ。冒頭の冷静さなど忘れたかのように、クライマックスは副題どおり、熱情にまとわれるかのごとく疾走感とともに演奏を締めくくっている。
■藤田真央をもっと知りたい!観るべき、聴くべき作品5選
◎情熱大陸
▼衝撃的才能!ピアニスト藤田真央が自宅で奏でたスメタナ「ピアノ三重奏曲」が壮大すぎた。
2023年2月に、ドキュメンタリー番組『情熱大陸』に出演。未公開映像として配信されたこの動画では、藤田真央がスメタナ「ピアノ三重奏曲」を自宅で練習している様子が映し出されており、貴重な場面であるだけに2025年1月時点での再生回数は60万回を超えている。ピアノ以外のパートを自ら口ずさみながら練習に没入しており、ピアノパートのみからもスメタナのもつ哀愁と美しさが伝わってくる演奏だ。ステージでは見られないリラックスした様子の練習風景はもちろん、本人による作品の魅力の解説も必見。
◎報道ステーション
▼【生演奏】能登に響いたピアニスト・藤田真央の音楽【報道ステーション】(2024年12月20日)
2024年11月、藤田真央はバイオリニストの五嶋みどりと、能登半島地震の被災地を訪問し、各地でコンサートを開催した。動画は、その様子を『報道ステーション』で取材されたもの。彼はソロでモーツァルトの「きらきら星変奏曲」や「ピアノ・ソナタ第16番」などを、また五嶋みどりとはフランクのバイオリン・ソナタを演奏。癒しと安らぎを与えるような演奏で、現地の人々の喜びの声と表情も印象的だ。
後半は、番組スタジオに藤田真央が登場。圧倒的な集中力のなかで披露されたショパンと矢代秋雄、スクリャービンの各作曲家によるプレリュードは圧巻。
◎ルツェルン音楽祭
▼Lucerne Festival Orchestra | Riccardo Chailly | Mao Fujita
2022年、スイスで行われる世界有数のフェスティバル『ルツェルン音楽祭』のデビューを飾った藤田真央。イタリア屈指の指揮者であるリッカルド・シャイーと、世界の名手が揃うルツェルン祝祭管弦楽団とで、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏した。動画はクライマックスを飾る最終楽章の様子。ほとばしるような激しさでオーケストラと流麗に協奏し合い、同時に前のめりで渦巻くようなグルーブを成している。ライブだからこそ漂う高揚感と、藤田真央ならではのヴィルトゥオージティを堪能するにはぴったりの動画だ。
◎ヴェルビエ音楽祭
▼Mao Fujita performs Mozart’s Piano Sonata in C Major No. 16, K. 545 – Verbier Festival 2021
藤田真央にとって何度も出演を重ね、今や常連となっているスイスのヴェルビエ音楽祭。動画は2021年に登場し、モーツァルトの「ピアノ・ソナタ第16番」を披露した様子を映したものだ。静寂の中、じっと耳を澄ませたくなるようなソフトなタッチが続き、美しく音楽が展開していく。ただし、静かといえど決して大人しい演奏であるわけではなく、モーツァルトらしいユーモアさやウィットに溢れており、藤田真央自身の遊び心も感じられ、戯れているようにすら聴こえる。玉手箱のような目眩く音遊びに心が躍る動画だ。
◎2024年日本リサイタル
2024年12月12月、ショパン、スクリャービン、矢代秋雄、それぞれ24のプレリュードを一挙に演奏するというスペシャルなリサイタルの様子だ。ゆったりと歌うスクリャービンの第1曲や、柔軟性と落ち着きを保ちながら独特の風味を醸す矢代秋雄の第2曲、詩情に溢れたショパンの第1番と最後の低音が堂々と締めくくる第24番など、ダイジェストで映し出されている。舞台裏の様子、サントリーホールへの特別な思い、“自我を出しすぎない”という演奏への独自のスタンスの意図、そしてリサイタルのコンセプトなど、藤田真央自身のリアルな声も貴重。
■藤田真央最新情報をチェック!
まもなくサカリ・オラモ指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団やチョン・ミョンフン指揮ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管の来日ツアーでソリストを務めるなど、今年もさまざまなステージに登場予定の藤田真央。これからどんな音楽を繰り出し、進化/深化していくのか、ますます目が離せない。
TEXT BY 桒田萌
▼藤田真央最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/11674/