春に行われる『選抜高等学校野球大会』と夏の『全国高等学校野球選手権大会』。両大会とも毎年熱戦が繰り広げられている。その風景をたくさんの名曲が彩ってきた。夢や目標に向かって頑張るあらゆる人々の心を鼓舞する歌詞、メロディとぜひ出会ってほしい。
■春の選抜高校野球大会歴代行進曲
■春の選抜高校野球 2015〜2025年の行進曲を解説
「幾億光年」Omoinotake(オモイノタケ)
第97回(2025年開催)行進曲
吹奏楽団が演奏するインストゥルメンタルの行進曲でも輝くメロディを持っている「幾億光年」。行進曲にふさわしいテンポとリズムでアレンジされたサウンドに耳を傾けても、ハイトーンとミックスボイスを駆使した歌が聞こえてくるかのよう。原曲のあの歌声は、躍動感と透明感を兼ね備えている。球児たちが全力を尽くす熱い舞台であり、爽やかな感動も生む高校野球にとてもふさわしい曲だ。
「愛の花」あいみょん
第96回(2024年開催)行進曲
青い空、白い雲、柔らかな日差し、穏やかな風、美しい自然をイメージさせる言葉とサウンドで満ち溢れている「愛の花」。春の屋外で各校の試合が繰り広げられる風景にまさしくぴったり。NHK 2023年前期 連続テレビ小説『らんまん』主題歌としてもおなじみのはず。無意識に口ずさみたくなる親しみやすいメロディが郷愁を誘う。この曲で行進しながら緊張がほぐれた球児もいたのでは?
「アイラブユー」back number(バック ナンバー)
第95回(2023年開催)行進曲
NHK 2022年後期 連続テレビ小説『舞いあがれ!』主題歌。ふと口にし始めた独り言のような穏やかなトーンで響き渡るこの曲は、back numberのラブソングならではの魅力を再確認させてくれる。ストレートに愛を伝えるのではなく、どこか戸惑い気味に言葉を選んでいる歌声が味わい深い。情熱を燃え盛らせつつ迷いにも向き合う青春の日々と地続きの風景もイメージすることができる。
「群青」YOASOBI(ヨアソビ)
第94回(2022年開催)行進曲
ブルボン『アルフォートミニチョコレート』CMソング。人気マンガ『ブルーピリオド』(作・山口つばさ)にインスパイアされて生まれた。夢追い人が向き合う葛藤をじっくり描いているのが印象的。“好きなことを続けること それは「楽しい」だけじゃない”という歌詞は、野球に青春を捧げている高校球児が抱く感情にも当てはまるはず。迷いながらも自分らしい生き方を追い求めている人にぜひ聴いてもらいたい。
「パプリカ」Foorin(フーリン)
第92/93回(2021年開催)行進曲
2020年に開催予定だった第92回は、コロナ禍の影響で中止。第93回の行進曲「パプリカ」の原曲は、“未来に向けて頑張っているすべての人を応援する歌”がテーマのNHKによるプロジェクトで誕生した。米津玄師が作詞・作曲・プロデュースを手掛けて、オーディションによって選ばれた5人の小学生(結成当時)・Foorinが歌唱。どこか和的な情緒を醸し出すメロディを聴くと、未曽有の事態が続いたあの頃の記憶もよみがえる。
「どんなときも。」槇原敬之(マキハラ ノリユキ)
第91回(2019年開催)行進曲
1991年にリリースされた大ヒット曲が、春の選抜高校野球の行進曲となった2019年。同じく槇原敬之が手掛けたSMAP「世界に一つだけの花」が行進曲だったことも思い出される。自分らしい人生を懸命に探し求めるのは、普遍的な若者の姿だ。力強い決意をみずみずしく表現している「どんなときも。」は、夢と希望を抱く若者の心をこれからも鼓舞し続けるに違いない。
「今ありて」大会歌
第90回(2018年開催)行進曲
春の選抜高校野球の大会歌として1993年の第65回から大切に歌い継がれている「今ありて」。作詞を阿久悠、作曲を谷村新司が手掛けた。“今ありて 未来も扉を開く”“今ありて 時代も連なり始める”など、未来の世界の主人公となっていく若者に対する力強いエールが伝わってくる。高校球児のために書き下ろされた曲だが、夢と希望を抱いているあらゆる学生に聴いてもらいたい。
「恋」星野源(ホシノ ゲン)
第89回(2017年開催)行進曲
2016年に放送されたテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』主題歌。この曲に合わせてユニークな振り付けを踊る“恋ダンス”も大ブームを巻き起こし、たくさんの動画がSNSに連日投稿された。軽快なリズムと温かなメロディは、行進曲として鳴り響いても魅力を存分にきらめかせる。老若男女を明るく踊らせたこの曲は、近年稀に見る国民的ヒットソングと称しても過言ではないだろう。
「もしも運命の人がいるのなら」西野カナ(ニシノ カナ)
第88回(2016年開催)行進曲
2015年にリリースされたシングルの表題曲。結ばれる運命の人を待ちわびながら“あなたはいったい どこで寄り道しているのかしら?”と想像を膨らませている。リアルな心情を映し出す数々のラブソングを歌ってきた西野カナの中でも、特にキュートなテイストが発揮されている曲だ。春の選抜高校野球行進曲としての起用は、当時の音楽シーンでの彼女の存在感の大きさを思い出させてくれる。
「Let It Go 〜ありのままで〜」
第87回(2015年開催)行進曲
2013年に公開されて世界的な大ヒット作となったディズニー映画『アナと雪の女王』の劇中歌。刻々と移り変わる情景、希望へと辿り着く心をイメージさせるメロディ展開がドラマチック極まりない。何も恐れずに自身の魔法の力を解放するエルサの姿が、この曲を聴くと自ずと思い出される。あのシーンでの喜びに溢れた彼女は、厳しい練習を経て試合に臨む球児とも重なるものがあるのかもしれない。
【THE FIRST TIMES PLAYLIST】
■夏の甲子園・『熱闘甲子園』歴代テーマソング
■夏の甲子園(熱闘甲子園)2015〜2024年のテーマソングを解説
「ずっと好きだから」ねぐせ。
第106回(2024年)テーマソング
高校野球と重なると同時に、恋愛の機微を捉えたラブソングとしても捉えることができる「ずっと好きだから」。“好き”は、その持ち主に試練も与える感情だ。理想と現実との間にあるギャップに直面したら“好き”は“嫌い”にも転じるし、何かを大切にすると苦しみも常につきまとう。そんな現実をこの曲は鮮やかに描いている。仕事、学業、スポーツ、趣味、恋愛など、あらゆる“好き”を育みたい人にぜひ聴いてほしい。
「フォトグラフ」ATSUSHI×東京スカパラダイスオーケストラ(アツシ×トウキョウスカパラダイスオーケストラ)
第105回(2023年)テーマソング
EXILEのATSUSHIが書き下ろした歌詞に東京スカパラダイスオーケストラのホーンセクションが渾身の演奏を注ぎ込んで完成させた「フォトグラフ」。たとえ努力が報われなかったとしても、流した汗と涙は尊いのだと歌声が伝えてくれる。バックコーラスを務めたダンス&ボーカルグループLIL LEAGUEが100人の高校生らと甲子園球場で手話ダンスを繰り広げるMVも必見。
「栄光の扉」平井大(ヒライ ダイ)
第104回(2022年)テーマソング
スポーツには必ず勝敗がある。そして、努力を積み重ねた末に勝者となるに値する実力を身につけていたとしても、なんらかの理由で敗れることもあるのが高校野球だ。本当に大切なのは結果ではなく、誰に何と言われようが信じた道を突き進んだ過程であり、費やしたエネルギーは未来に繋がるのだとこの曲は教えてくれる。歌声が帯びている穏やかな野趣に触れると、球児たちの熱闘の様子もイメージできる。
「夢わたし」なにわ男子(ナニワダンシ)
第103回(2021年)テーマソング
複数の歌声を響かせるグループによる音楽は、仲間が協力し合う姿の美しさをストレートに表現できる。「夢わたし」も高校野球が人々に深い感動を与える理由のひとつである“チームワークの尊さ”を伝える曲だ。柔らかなピアノの旋律を基調としたトラックと共に壮大に高鳴る歌声が圧倒的に心地よい。夏の青空、白い入道雲、緑の木々などを想像させる爽やかなエネルギーにも満ち溢れている。
第102回 ※2020年は放送なし
「宿命」Official髭男dism(オフィシャルヒゲダンディズム)
第101回(2019年)テーマソング
美しいメロディとハーモニーを様々な形で届けるヒゲダンだが、実は熱いエネルギーを歌声と楽器の音に託す達人でもあることを、おそらくファンはよく知っているはず。「宿命」も耳を傾けていると胸の奥で大きなエネルギーがメラメラと燃え盛るような感覚となる。自分自身が進むべきだと信じた道を“宿命”として捉えて全力を尽くすあらゆる人々にとって、この曲は最高の応援歌となるに違いない。
「夏疾風」嵐(アラシ)
第100回(2018年)テーマソング
未来への夢と希望に溢れていると同時に不安や迷いもたくさん抱くことになる青春時代をイメージさせてくれる「夏疾風」。学生時代の真っ只中で聴いたら自分のことを歌ってくれているかのように感じるのだろう。社会の中で奮闘している人は、不器用ながらも何かに一生懸命だったかつての自分を思い出すに違いない。夏のドライブや散歩が一際楽しくなる爽快なBGMとしてもおすすめしたい。
「虹」高橋優(タカハシ ユウ)
第99回(2017年)テーマソング
包み隠さず、飾ることなくダイレクトに想いを響かせる生々しさが高橋優の歌にはある。「虹」も、そういうかけがえのない魅力を伝えてくれる曲だ。諦める理由となり得る出来事に流されるのではなく、挫折や失敗を明るい未来に辿り着くためのエネルギーへと転じようとする不屈の闘志が伝わってくる。努力が容易には報われない現実のなかで芽生えがちなニヒリズムを打ち砕く応援歌。
「光と影の日々」AKB48(エーケービーフォーティエイト)
第98回(2016年)テーマソング
45thシングル「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」のカップリング曲。メンバーたちが切磋琢磨し、グループ外の活動でも努力を重ねるAKB48や姉妹グループは、全国大会を経て辿り着いた甲子園で球児たちが頂点を目指す高校野球と重なるものがあるのかもしれない。挫折によって影に覆われたとしても光は消えることなく存在し続けているのだと描く歌詞は、あらゆる夢追い人の心に深く染み入るはずだ。
「On Your Side」Superfly(スーパーフライ)
第97回(2015年)テーマソング
野球はチームプレイだが、選手それぞれの孤独な戦いの集合体でもある。試練を乗り越えてきた球児たちの膨大な熱量が渦巻くからこそ、高校野球は長年にわたって人々の胸を打ち続けているのだと思う。「On Your Side」は目標に向かって努力を重ねる人々の心に温かく寄り添う。ソウルフルな熱を時折滲ませながら響き渡る歌声は、雄々しいと同時に優しい。ボーカル越智志帆の豊かな表現力を再確認させられる。
【THE FIRST TIMES PLAYLIST】
■高校野球歴代テーマソング聴いて感動を再び!
努力を重ねて全力を尽くすことの尊さを教えてくれる高校野球。球児たちの姿は、これからも人々に大きな感動を届け続けるのだろう。紹介した行進曲、テーマソングに耳を傾けるのは、心の活力を取り戻すひと時にもなるはずだ。
TEXT BY 田中大
PHOTO BY Mark Duffel