Mrs. GREEN APPLEが2019年にリリースした「僕のこと」は、卒業ソングの新定番として愛され続けている。この記事では楽曲の魅力や歌詞から感じ取れるメッセージを紐解くとともに、Mrs. GREEN APPLEが紡いできた卒業ソング/エールソングを紹介する。
■ミセス「僕のこと」が卒業ソングの新定番に
◎2019年に8thシングルとして発表された「僕のこと」
「僕のこと」
・収録作品:8thシングル「僕のこと」(2019年1月9日発売)
・作詞・作曲:大森元貴
・編曲:伊藤賢・大森元貴
2019年1月9日にリリースされた「僕のこと」は、Mrs. GREEN APPLEの8thシングル表題曲であり、第97回全国高等学校サッカー選手権大会の応援歌として書き下ろされた。サッカーの試合に勝ち負けがあるように、人生にもまた光と影がある。そんななか、影の冷たさに震える人の心に光と温もりをもたらすMrs. GREEN APPLEのサウンドと、安易に「頑張れ」とは言わず、そっと背中をさすってくれるような大森元貴の歌詞は、多くの人の共感を呼んだ。
◎MVは1.5億回再生を突破
「僕のこと」のMVは公開以来着実に再生数を伸ばし続け、1.5億回再生を突破(2025年11月12日時点)。ストリーミングでの累計再生数は6億回を記録している。SNSやMVのコメント欄には「この曲に励まされた」といった声やリスナー自身のエピソードが数多く寄せられており、リリースから7年もの歳月が経った今も、様々な人の心に寄り添い続けている。
Thank you!!🤣 ‘僕のこと’ MV hits 150,000,000 views on YouTube❣️
https://t.co/0bdsgXEmPF
#僕のこと #withMGA #MrsGREENAPPLE pic.twitter.com/W0mKoOO5jU— Mrs. GREEN APPLE (@AORINGOHUZIN) November 12, 2025
◎オーケストラバージョン&受験生応援CMソングにも起用
2022年11月には、カロリーメイト受験生応援シリーズ第9弾CM『狭い広い世界で』篇にて「僕のこと」のオーケストラバージョンが起用された。本CMに、ミセスのメンバーがカメオ出演したことで当時話題を呼び、楽曲の認知度をさらに押し上げた。
その後、2023年1月9日には「僕のこと(Orchestra ver.)」としてフルサイズの音源を配信。オーケストラの豊かな響きと大森のやわらかな歌声が融合したアレンジは、原曲とはまた違った感動を生み出している。
受験生応援という文脈で楽曲が起用されたことで、「僕のこと」は高校サッカーの応援歌から、より広い意味での“門出を祝う歌”としても愛されるようになり、合唱曲として学校で歌われるケースも増え、卒業ソングとしての地位を確立していった。
注目すべきは、Mrs. GREEN APPLEが、「僕のこと」を収録した4thアルバム『Attitude』をリリースした2019年10月に、合唱バージョンの映像を公式YouTubeチャンネルで公開していることだ。この楽曲が時代や世代を超えて歌い継がれる力を持つことを、早くから見据えていたことがうかがえる。
▼Mrs. GREEN APPLE – 僕のこと(合唱Version) by 神奈川県立湘南高等学校合唱部
■【歌詞全文】《ああ なんて素敵な日だ》と歌う、その意味とは?
「僕のこと」
僕と君とでは何が違う?
おんなじ生き物さ 分かってる
でもね、僕は何かに怯えている
みんなもそうならいいながむしゃらに生きて誰が笑う?
悲しみきるには早すぎる
いつも僕は自分に言い聞かせる
明日もあるしね。ああ なんて素敵な日だ
幸せと思える今日も
夢敗れ挫ける今日も
ああ 諦めず足宛いている
狭い広い世界で
奇跡を唄う僕らは知っている
空への飛び方も
大人になるにつれ忘れる
限りある永遠も
治りきらない傷も
全て僕のこと
今日という僕のこと得ては失う日々 意味はある?
伝わることのない想いもある
だから僕は時々寂しくなる
みんなもそうなら
少しは楽かな
僕だけじゃないと
思えるかなああ なんて素敵な日だ
誰かを好きでいる今日も
頬濡らし眠れる今日も
ああ 嘆くにはほど遠い
狭い広い世界で
僕らは唄う冬に咲く花に
命が芽吹くよ
駆けるは 雪の大地
青すぎた春を
忘れずに居たいと
語るは 友との地図
駆けるは 人の旅路僕らは知っている
奇跡は死んでいる
努力も孤独も
報われないことがある
だけどね
それでもね
今日まで歩いてきた
日々を人は呼ぶ
それがね、軌跡だとああ なんて素敵な日だ
幸せに悩める今日も
ボロボロになれている今日も
ああ 息をして足宛いている
全て僕のことあの日の僕らのこと
僕と君とでは何が違う?
それぞれ見てきた景色がある
僕は僕として、いまを生きてゆく
とても愛しい事だ作詞:大森元貴
作曲:大森元貴
編曲:伊藤賢・大森元貴
先述の通り、「僕のこと」はもともとスポーツの応援歌として制作された。しかし冒頭、大森はアコースティックギターを弾きながら《僕と君とでは何が違う?》と歌う。まるでひとりごとのように。彼が書き下ろしたのは、選手を鼓舞するアッパーチューンではない。身体的にも精神的にも絶好調で、輝いている人を賛美する曲でもない。むしろその光が落とす影の中で、ひとり思い悩む人の心の内を歌ったバラードだった。
《僕は何かに怯えている》と、主人公は自らの弱さを隠さない。そして《みんなもそうならいいな》と続ける。2番ではメロディを連ねながら、《だから僕は時々寂しくなる/みんなもそうなら/少しは楽かな/僕だけじゃないと/思えるかな》とさらに踏み込む。不安を抱えているのは、自分だけではないかもしれない。その“かもしれない”に縋ることで、なんとか日々をやり過ごしている人の歌なのだ。
そんな主人公は《自分に言い聞かせる》ことで、目の前の悩みから離れ、目線を上げ、人生という大きな流れの俯瞰を試みる。そして辿り着くのが、サビ冒頭の《ああ なんて素敵な日だ》という言葉だ。
このフレーズには1番では《幸せと思える今日も/ 夢敗れ挫ける今日も》、2番では《誰かを好きでいる今日も/頬濡らし眠れる今日も》と、対照的な《今日》が並列される。つまり良い日も悪い日も、すべて《素敵な日》だと。この視点の転換が、聴き手の心を揺さぶる。
卒業という日は、必ずしも全員が希望に満ちているわけではない。部活で結果を残せなかったことが心の奥に残っている人や、友達とケンカしたまま仲直りの機会を失ってしまった人。あるいは進路や受験をめぐって、思い描いていた未来と違う場所に立っている人もいるだろう。しかし、その全員に向けてこの曲は、《今日》という日を生きていること自体が素敵なのだと語りかけている。
とはいえ、主人公自身もいつでも、心の底からそう思えるわけではない。1番サビで《ああ なんて素敵な日だ》と歌っても、2番Aメロに入ればまた《寂しくなる》。そして2番サビではまた《ああ なんて素敵な日だ》と俯瞰的な視点から人生は美しいのだと謳う。一度自分を肯定できたら万事解決とはいかず、何度も悩み、そのたびに自分を励ましながら日々を乗り切っていく。この往復運動こそが、人の心のリアルではないだろうか。
クライマックスでは《僕らは知っている/奇跡は死んでいる/努力も孤独も/報われないことがある》と、厳しい現実を突きつけるような言葉が綴られている。安易な励ましも一切ない。しかし、だからこそ、多感な10代の心に響いたのではないだろうか。そして10代だけではない。“大人”と一括りにされながらも孤独から解放されることはなく、日々あらたな悩みに苦心する20代以上の人たちの心にも、強く響いたのではないだろうか。
その後、《だけどね/それでもね/今日まで歩いてきた/日々を人は呼ぶ/それがね、軌跡だと》と歌う。自分の将来が見えないなかで、あるいは先行きが不安定なこの時代に「夢は叶う」「努力は報われる」「奇跡は起こる」といった言葉が信じられない人は少なくないだろう。それでも、これまでの経験が軌跡となり、将来の自分をかたち作るという事実は信じてもよいのではないだろうか。ミセスが歌うのは、上辺だけの希望ではない。現実に立脚した言葉だからこそ、リスナーの信頼を得ているのだろう。
そして、《僕は僕として、いまを生きてゆく/とても愛しい事だ》という結びの言葉に宿るのは、人生のあらゆる瞬間への肯定だ。
人生とは選択の連続である。この曲が卒業ソングとして、また人生の節目を迎えた人々に愛され続けるのは、限定的なシチュエーションを歌っているのではなく、普遍的なメッセージが描かれているからであろう。他人と比べなくていい。自分として生きればいい。歩んできた道のりには価値がある──。
「僕のこと」は、勝者だけでなく敗者にも寄り添う稀有な応援歌であり、すべての人の営みを肯定する人間讃歌だ。
▼僕のこと 【LIVE from M-ON!】
■「僕のこと」が愛される3つのポイント
◎内省と俯瞰を行き来する独特の展開
大森の書く曲には、日々悩んだり悲しい気持ちになったりする生活者としての視点と、より高い場所から自分や人間全体の営みを見渡す視点の両方が反映されているように思う。それは「僕のこと」も同様だ。
静かなAメロでは内省的な歌詞が歌われているのに対し、壮大なサビでは大きな視点からの肯定が歌われている。サビ冒頭の《ああ》はボーカルのメロディがG→Dと5度跳躍しており、歌詞における“思考の跳躍”と見事にシンクロ。そしてサビのあとに“もうひとつのサビ”というべきセクション《僕らは知っている~》を設ける構成により、どこまでも高く羽ばたいていく感覚、主人公が獲得していく開放感が体現されている。ここでの華やかな展開があるからこそ、再び内省に戻る2番Aメロや、1オクターブ下で歌われる2度目の《僕らは知っている》の静けさが際立つ。
この曲は、Aメロで始まりAメロで終わる循環構成。《僕と君とでは何が違う?》という問いも変わらないが、《今日という僕のこと》から《あの日の僕らのこと》への変化が、思考が少し進んだことを物語る。この循環構造を辿ることで、リスナーは自らの歩みを振り返り、前へ進む勇気を得る。
◎静と動を行き来するダイナミクス
サウンドは、楽曲構成に準じた緻密なダイナミクスで構築されている。
アコースティックギターの弾き語りから始まり、やがて歩調に寄り添うようなビートとバンドの音が合流し、サビではストリングスや金管楽器が入り、ドラムがマーチング風のリズムを刻むことで壮大さが増す。若井滉斗の歪んだギターは、主人公の揺れ動く心模様を体現しているかのよう。
対して、歌詞が内面へと降りていく場面では、藤澤涼架のピアノと歌のみというミニマルな編成に戻る。この静と動の往復によって、感情の揺れが音楽で描き出されている。
◎感情の機微を描く大森元貴の表現力
大森のボーカルは、繊細さと力強さを併せ持つ。Aメロでは囁くように内省を歌い、サビでは高音域で感情を解放する。《ああ》と跳躍する瞬間の伸びやかなロングトーンや、サビでの美しいファルセットは、聴く人の心を掴んで離さないだろう。《奇跡は死んでいる》と悲しげに歌う声にも、《それがね、軌跡だと》と穏やかに歌う声にも、要所で用いられるエッジボイスや、回を重ねるごとに力強くなる《ああ なんて素敵な日だ》のフレーズにも、感情表現の振れ幅が表れている。この歌声があるからこそ、「僕のこと」は一人ひとりの心に届く歌になった。
■名曲は他にも!門出を祝う、ミセスの卒業&エールソング5曲
Mrs. GREEN APPLEには「僕のこと」以外にも、卒業や人生の節目に寄り添う楽曲が数多く存在する。ここでは特におすすめしたい5曲を紹介する。
「春愁」
2018年にリリースされた6thシングル『Love me, Love you』のカップリング曲。大森が高校を卒業した翌日に制作された。《大嫌いだ》と3回繰り返したのち《大好きだ》と歌うサビには、音楽に没頭していたため、青春を謳歌した自覚がなかった大森のリアルな実感が込められている。人は青春を過ぎてから初めて「あれが青春だった」と気づくもの。教室に通う日々が煩わしく思えても、卒業すれば当たり前ではなくなる、だから大事なんだ――と周囲の大人に言われたところで、「分かってる」と反発したくなったり、それでも大切なことを忘れてしまったりするのが人という生き物なのではないだろうか。そんなほろ苦い心情を「春愁」(春の季節に、なんとなくわびしく気持ちがふさぐこと)という言葉に重ねて表現した卒業ソング。
「橙」
2023年リリースのアルバム『ANTENNA』の収録曲。橙色の夕焼けが目に浮かぶミドルナンバー。大森が10代の頃に書いた「春愁」とは異なり、大人になってから青春の日々を回想した際に浮かぶような言葉が並んでいる。自分が「帰りたい」と思った時、帰れる場所とはどこにあるのか。あれから歳を重ねたが、自分は本当に“大人”になれているのか。思考の根底にはそんな問いがあり、思い出を語り合える友達の存在や、思い出それ自体が、現在の自分の心を温めてくれる瞬間もあるのだということが歌われている。リスナーそれぞれの“帰りたい場所”を思い起こさせるこの曲は、10代の頃からともにバンドを組んでいるミセスのメンバーの関係性とも重なるようでグッとくる。
「BFF」
同じくアルバム『ANTENNA』に収録。大森、若井、藤澤が鳴らす音のみで構成されたバラードであり、3人の絆を表す言葉として「BFF」(=best friend forever)というタイトルが掲げられた。初のドームライブ『Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”』で3人が輪になってこの曲を演奏した場面は、多くのファンの記憶に刻まれている。他の誰でもなく大森が若井と藤澤に向けて綴ったこの曲では、《僕には君が居る》《君には僕が居る》と互いに支え合える関係性の尊さが歌われている。卒業後、新たな道を行く中で心挫けたり、孤独を感じることがあっても、あなたの存在を肯定してくれる友がきっといるはずと教えてくれる曲だ。
「ライラック」
2024年にリリースされた、TVアニメ『忘却バッテリー』のオープニングテーマ。2024年の『第75回NHK紅白歌合戦』でも披露された、令和を代表するロックナンバーだ。難解なギターリフが印象的なこの曲は、様々な音楽ジャンルが混ざり合っていたり、変拍子があったりと複雑な構成をしている。その曲調は、歪な現実や思い通りにいかない人生を突き進む感覚と重なるが、孤独や不安も隠さず歌う主人公は、最後には《僕は僕自身を/ 愛してる》と自己肯定に辿り着く。《あの頃の青を/覚えていようぜ》という呼びかけは、どんなに苦味が重なっても青春の日々は色褪せないと教えてくれるようだ。複雑な時代を生き抜く全ての人へのエールソング。
「ダーリン」
2024年末に放送された『Mrs. GREEN APPLE 18祭』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲。番組では、1000人の18歳世代とMrs. GREEN APPLEがともにステージを作り上げた。「ダーリン」(Darling)は「最愛の人」という意味を持ち、夫婦間や恋人同士の呼びかけで使われる言葉だ。語り掛ける相手がいるからこそ浮かび上がる、埋められない距離や孤独。多感な10代が抱える他者との比較や劣等感を正面から扱いながら、〈あの子にはなれないし/なる必要も無いから〉という気づきへと至る過程を丁寧に描写したこの曲からは、大森のソングライターとしての誠実さが感じられた。2025年1月に配信リリースされ、年末に『第67回 日本レコード大賞』を受賞。これによってMrs. GREEN APPLEは、バンドとして史上初となる3年連続大賞受賞の快挙を達成した。
■ミセスがフェーズ3へ突入
2025年にデビュー10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEは、“MGA MAGICAL 10 YEARS”と題してアニバーサリーイヤーを駆け抜けてきた。同年末には、約55万人を動員した5大ドームツアー『DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”』を完走。『日本レコード大賞』で大賞を獲得し、『第76回NHK紅白歌合戦』の白組トリとして「GOOD DAY」を披露し、「国民的バンド」と呼びたくなるような活躍ぶりを見せた。
そんな彼らは、2026年1月1日より“フェーズ3”に突入した。
1月12日にはフェーズ3初の楽曲「lulu.」を配信リリース。さらに4月からは東京・MUFGスタジアム(国立競技場)4DAYS、および大阪・ヤンマースタジアム長居2DAYSでのスタジアムツアー『ゼンジン未到とイ/ミュータブル~間奏編~』を開催すること、夏には『Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”』を映画化することが発表されている。
彼らは次にどのような景色を見せてくれるのだろうか。Mrs. GREEN APPLEが紡ぐ楽曲たちは、これからも多くの人の人生の節目に寄り添い続けるだろう。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
▼Mrs. GREEN APPLE 最新情報はこちら
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/481/
▼楽曲リンク:Mrs. GREEN APPLE
https://tftimes.lnk.to/MGAT1






