■バンドが放つ音はビンテージだが、瑞々しさを湛え、この日のライブも素晴らしいものになると確信
『SHOGO HAMADA J.S.Foundation 人道支援プロジェクト サポートの為のチャリティーコンサート “Journey of a Songwriter” since 1975 “青の時間”」が、1月15、16日東京・NHKホールで行われた。
“旅するソングライター”浜田が、広野の一本道を走るピックアップトラックの荷台で、風に吹かれながらハーモニカを奏でる映像が流れる。旅の途中の目的地のひとつ、NHKホールはもうすぐだ──そんな期待感が高まる。オープニングナンバーは「MY OLD 50’S GUITAR」だ。町支寛二(Gt/Vo)のギターが切り込み、長田進(Gt)のバッキングも強力なリズムを作る。1990年に発表したアルバム『誰がために鐘は鳴る』に収録されている、30代後半になった浜田が、自分の原点であるロックンロールへの回帰を歌った重要な一曲。太く、豊かなボーカルを支える町支、長田のツインギター、そして美久月千晴(Ba)、小田原豊(Dr)、古村敏比古(Sax)、福田裕彦(Org/Syn)、河内肇(P)、佐々木史郎(Tp)というタレント揃いのバンドが放つ音は、まさにビンテージ。しかし瑞々しさを湛え、この日のライブも素晴らしいものになると1曲目から確信させてくれる。
中嶋ユキノ(BV)、竹内宏美(BV)が加わり「BASEBALL KID’S ROCK」へ。シリアスなテーマの歌詞を爽快なロックとして昇華させ、客席は早くも大合唱だ。「チャリティーコンサートに参加してくださりありがとうございます」と感謝を伝え、3階まで満員になった客席を見渡しそれぞれに声をかけると、大きな拍手がステージの浜田に“降り注ぐ”。太いベースの音がうなる「SAME OLD ROCK’N’ROLL」、そして「恋は賭け事」と、ここまでアルバム『誰がために鐘は鳴る』の収録曲が続く。「今夜は『ON THE ROAD』ツアーのセットリストからは、こぼれてしまうような曲をやります』と、レア曲満載であることを予告。そして「『J.BOY』も『家路』もやりません。今最も歌いたい曲、聴いてほしい曲を選びました」と伝える。『ON THE ROAD 2023』はデビューしてからアルバム『J.BOY』までの曲を中心にセットリストが組まれていたが、今回のコンサートは「30代半ばから40歳になる(1988年~1993年)までに書いた曲でセットリスト作った」と語っていた。
■浜田省吾は、人道支援に取り組んでいる人たちへのサポートを26年続けているJ.S.Foundationについても丁寧に説明
そしてこのチャリティーコンサート、J.S.Foundationについても改めて丁寧に説明してくれた。J.S.Foundationは1995年、浜田が故佐藤佐江子さんと出会い、1999年2月に、多くの紛争や自然災害、そして貧困に苦しむ発展途上国の子どもたちの環境が少しでも改善できればと立ち上げ、人道支援に取り組んでいる人たちへのサポートを26年続けている。浜田は、手を携え行動してきた佐藤さんを偲びながら「俺がいなくなっても活動は続くはず」と吐露していた。今はネットでも容易に募金できるが、ライブ会場での募金活動等を通じて長年地道に続けてきた結果、それがまさに“道”となって、浜田の思いに共感する人たちから寄せられた善意を世界中の被災者や難民、そのときいちばん困っている人たちに届ける架け橋的な存在になっている。
■アウトロのシンセの音と夕暮れを映し出した映像とが重なる
胸に迫ってくるミディアムバラード「少年の心」、アカペラで始まる「青の時間」は夕暮れの風景を描いた美しいナンバー。“バックミラー僅かに残る / 夕焼け雲 幾重もの色を/ 静かに見つめている / ひとり高速道路の上 / 青い高速道路の上”という最後のフレーズから、アウトロのシンセの音と夕暮れを映し出した映像とが重なる。続く「サイドシートの影」も、都会の夜景から海へと変わりゆく美しい映像が印象的で、そして波の音から「Theme of the Father’s Son~遥かなる我家」がインストバージョンで演奏され、このブロックの没入感はどこまでも美しかった。
一転して激しいロックナンバー「BLOOD LINE – フェンスの向こうの星条旗」から「WHAT’S THE MATTER, BABY?」へ。ライトが激しく交錯し浜田はステージの左右へ動き、シャウトする。第1部のラストは「詩人の鐘」だ。映像も相まって、折しも2023年から戦闘状態のイスラエルとハマスの停戦が発表されたタイミングで聴くこの曲に込められたメッセージが、一人ひとりの胸に熱く響いてくる。ギターを高々と掲げステージをあとにする浜田の“強い”佇まいが印象的だ。
約20分のインターミッション中もライブは“続く”。スクリーンには2017年ファンクラブイベント『The Moonlight Cats Radio Show』で披露した「Mercy, Mercy, Mercy」「You’ve Really Got a Hold on Me」「What’s Going on」が、続いて昨年のさいたまスーパーアリーナ公演前に浜田と小田原、美久月、長田、町支、福田で収録した「Mr. Moonlight」「I Call Your Name」が映し出された。楽しそうに歌い、演奏する姿が印象的だ。
■「YouTubeのコメント、意外と読んでいます」と語るなど、浜田も客席もリラックスした時間を過ごしていた
第2部は「A LONG GOODBYE – 長い別れ」から。強靭なバンドアンサンブルと歌がまっすぐ飛び込んでくる。「10代の頃『あばずれセブンティーン』でしたが、今や“あばずれセブンティ”です(笑)」と笑わせ、重ねた年月をバンドメンバーとともにしみじみと振り返り、若いときに「想像できなかった未来がまさに今日」と語ると大きな拍手が起こった。そして親の影響などで浜田の音楽を聴くようになったファンが多いことにも触れ、「YouTubeのコメント、意外と読んでいます」と語るなど、浜田も客席もリラックスした時間を過ごしていた。浜田のライブは三世代で楽しむファンも多く、あらゆる世代を魅了する浜田の歌の強さと優しさ、普遍性に改めて感動した夜だった。
「A LONG GOODBYE – 長い別れ」に続いて、アルバム『FATHER’S SON』(1988年)から「BREATHLESS LOVE」を披露。強いメロディと歌詞、そして東京の夜景の映像が溶け合い、世界観が深く伝わってくる。「Theme of “Midnight Cab”」では美久月のウッドベース、福田のキーボードと佐々木のトランペットの音というジャジーな音の中で、浜田本人が書いた脚本の台詞(セリフ)を語るという珍しいスタイルだった。
■後半はアグレッシブに。浜田はストラトを手にし、長田と町支のトリプルギターで沸かせた
後半はアグレッシブに攻めアルバム『SAVE OUR SHIP』から「…to be“Kissin’you”」を投下し、「境界線上のアリア」へ。アブストラクトな映像の中で英語の歌詞が飛び交う。デジタルとロックンロールの融合に客席もノリノリでコール&レスポンスを楽しむ。アウトロで浜田はストラトを手にし、長田と町支のトリプルギターで沸かせた。
この日序盤で「今日は『J.BOY』も『家路』もやりません』」と語っていた浜田だが「ちょっとやってみようかな」というと大歓声が起こり、“WOW WOW”と歌い始めると手拍子と大合唱で会場が揺れる。浜田のボーカル部分まで客席が一緒に歌うと、そのあまりの声の大きさに浜田が「ちょっと待って。君たちが歌っていいのは“WOW WOW”のところだけだから」と笑顔で“指導”すると、大爆笑が起こる。そして「ツアーでピアノの河内君が『家路』をずっと弾いていたから、やっぱり弾けないのは寂しいな」と語ると、再び大きな拍手が沸き、河内がおなじみのフレーズを弾き始める。演奏だけだったが客席は満足げだった。
浜田の音楽の根底に流れているのは、人間の根源的な弱さや情けなさだ。そこを汲み取って歌っている曲が多く、だから世代関係なく愛されている。表現者としていつも心に置いていることをこの日もメッセージとして届けていた。「好きな人に愛されたいと努力し、やがてふたりは付き合うようになったとする。そしてもし自分が先に逝くことになったら、遺される人の悲しみや喪失感までわかったうえで、愛されたいと思うのだろうか」と。そして「そんなことを思いながら、ソングライターの旅の途上です、今夜はどうもありがとう」と本編ラストの「初秋」を歌った。雪の中をひたすら歩くMVが流される。永遠の別れを歌い、悲しみやつらさと向き合いながらそれでも一瞬一瞬を大切にしながら生きなければいけないと、哀愁を帯びたメロディと言葉で伝える。
■めったにライブでは歌わない「RIVER OF TEARS」を歌うと、サビのコーラスを客席全員が手を挙げながら大合唱
アンコールは「DARKNESS IN THE HEART – 少年の夏」から。ヒストリーをたどるような写真がモノクロになって映像として流れ、エモーショナル歌詞が飛び込んでくる。客席を驚かせたのは「RIVER OF TEARS」だ。めったにライブでは歌わないこの曲を歌うと、サビのコーラスを客席全員が手を挙げながら大合唱だ。コーラス隊も前方に出てきて客席を煽ると会場が一体になり、すさまじいエネルギーの放熱に温度が上がる。浜田とファンの深い愛が交差する瞬間だ。
ステージを後にした浜田とバンドメンバーが再び登場すると、全員で深々と頭を下げ、この日集まってくれたファンに改めて感謝する。ダブルアンコールはメロウなイントロから「最後のキス」を披露した。ミラーボールに光があたり無数の光が客席に注がれ、サックス×トランペットの情感豊かな音が響きウッドベース、長田のアコースティックギターのソロとバンドの芳醇な音に浜田の歌が映える。ラストを彩る極上のバラードを聴きながら、オーディエンスは改めてこの日このライブに参加できた幸せをかみしめていたはずだ。
■浜田とファンの間に存在する“無限の愛”。それが、長年続いているチャリティーコンサートにつながっていることを教えてくれた一夜だった
ロックンロールをとことん楽しみながら、誠実に音楽と向き合ったそのキャリアを感じることができるライブだった。そして浜田とファンの間に存在する“無限の愛”を感じさせてくれた時間だった。その無限の愛が、長年続いているチャリティーコンサートにつながっていることを教えてくれた一夜だった。
TEXT BY 田中久勝
PHOTO BY 内藤順司
SHOGO HAMADA J.S.Foundation 人道支援プロジェクト サポートの為のチャリティーコンサート“Journey of a Songwriter”since 1975“青の時間”
2025年1月16日 NHKホール
セットリスト
1.MY OLD 50’S GUITAR
2.BASEBALL KID’S ROCK
3.SAME OLD ROCK’N’ROLL
4.恋は賭け事
5.少年の心
6.青の時間
7.サイドシートの影
8.Theme of Father’s Son~遥かなる我家(Instrumental Short Ver.)
9.BLOOD LINE -フェンスの向こうの星条旗
10.WHAT’S THE MATTER, BABY?
11.詩人の鐘
12.A LONG GOODBYE – 長い別れ
13.LONELY – 愛という約束事
14.BREATHLESS LOVE
15.Theme of “Midnight Cab”(Instrumental+日本語ナレーション)
16.…to be“Kissin’ you”
17.境界線上のアリア
18.傷だらけの欲望
19.初秋
ENCORE-1
20.DARKNESS IN THE HEART – 少年の夏
21.RIVER OF TEARS
ENCORE-2
22.最後のキス
浜田省吾 OFFICIAL WEB SITE
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