■「誕生祭だけど、あなたこそ、生まれてくれてありがとうございます」(hyde)
1月18日・19日の2日間にわたり、L’Arc-en-Cielが東京ドーム公演を開催した。
1月29日に誕生日を迎えるhydeが、セットリストの考案をはじめ「ワガママに、好きなようにL’Arc-en-Cielをプロデュースします」と事前にコメントを発表。hydeが思うカッコいいL’Arc-en-Cielとはどんなものなのか? 自ら“誕生祭”をプロデュースするという初の試みに、国内のみならず世界中のファンが期待を胸に会場に足を運んだ。
場内には「Anemone」などL’Arc-en-Cielの楽曲のオーケストラバージョンが流れており、厳かなムード。L’Arc-en-Cielの公式キャラクター、ルシエルちゃんによる影アナはキュートだったが、衝撃音が鳴るとともに横長の巨大LEDスクリーンが赤一色に染まると、場内の空気が変わった。XXXIVという黒い文字がゆっくりと降りてきて、「hyde BIRTHDAY CELEBRATION」というタイトルも出現。L’Arc-en-Cielの初期ロゴが大写しになって大歓声が巻き起こったあと、全身純白の女性が映しだされる。
生命の誕生を神話的に表現したようなミステリアスな映像に織りまぜて、ken、tetsuya、yukihiroの肖像が順に出現。すると、前述の女性が手をさし伸べ、脱皮し始めたかと思うと、ガラスの向こうにいるhydeが激しく頭突きをし始める。ヒビが入り破片が飛びちると、上裸のhydeがこちらを見据え、蛇のように舌をチラつかせながら迫ってくる。近づいてきたロウソクの火をhydeがふき消すと、「Happy birthday, hyde」と祝福の言葉を囁くのは、まるでモンスターのような恐ろしい声。ホラー映画のようなスリルが高まったところで鳴り響いたのは、「DRINK IT DOWN」のイントロだった。
緑色のレーザーがさまようなか、アレンジされたイントロがループし、やがてメンバーの鳴らす音が加わっていく。客席でファンが持つL’ライトは無線制御で瞬き、緑から赤へと照明が切りかわり、ついに4人が登場、大歓声が響く。4分割でスクリーンに大写しになると圧倒的な存在感で、アグレッシブな歌と演奏、粘りけのあるグルーヴにのみ込まれていく。続いて「X X X」、間髪入れずに「CHASE」へと繋げ、「Are you ready, Tokyo?」とhydeはシャウト。スクリーンに映る近未来的ジェットコースターに目を奪われていると、kenとtetsuyaはそれぞれ花道へと歩みでていた。
ダークかつ疾走感のある曲の世界に入りこんでいると、間奏に差しかかったところでhydeが(歌いだしのタイミングを)「間違えた…(笑)」と自己申告。近い距離にいたtetsuyaが笑い、場内にもドッと笑いが起きた。hydeは気を取りなおして「Make some noise!」と煽ったあと、「誕生祭に来てくれてありがとう。東京、L’Arc-en-Ciel来たぜ! 楽しもうぜ東京!」と呼びかけ、yukihiroが合の手を入れるようにドラムを打ち鳴らした。改めてhydeが正しいタイミングで歌い直したことで、間奏を延長したアレンジだったことが判明。『UNDERGROUND』ツアーでは、ライヴで披露される機会がそれまで少なかった曲たちが選ばれており新鮮だったが、今回のセットリストは、そういったアレンジ面のユニークな工夫に驚かされる瞬間と出会う楽しさがあった。
汽車の連結された4つの車輪が大写しになり、煙を出しながら動きはじめると、kenが「fate」のイントロを奏ではじめた。4人の音が絡みあうバンドを象徴した映像でもあったのだろうか? 全体を通して、誕生祭というテーマからか、巡る命を円や丸のモチーフでくり返し表現していたように感じた。泉の水がこんこんと湧きでるようななめらかで透明なkenのギターに聴きほれ、4人の音の美しい重なりに息をのむほかなかった。
「花葬」では、暗い光のなかで赤く浮かびあがるメンバーの顔が、まさに歌詞の<闇に浮かぶ花>。yukihiroのドラムもtetsuyaのベースも、土台を築くというよりも情感豊かに“歌って”おり、4人の合唱を聴いているかのようだった。
鐘の音、刻む時計の音が聴こえてきて、「浸食 -lose control-」が始まると、狂気を感じさせるスリリングな変拍子に揺さぶりをかけられる。虚空を見つめ、さまようように両手を広げるhydeは、曲に深く没入しているように見えた。
横長に連結された巨大スクリーンに空が映しだされ、雨が降ってきた。滴が伝う窓ガラスのような情景を背に、kenの近年のダークナンバーの白眉「EVERLASTING」が始まった。天を見あげ、両手を広げて目を閉じているhyde。もの悲しい旋律が鳴りはじめ、諦めた叶わぬ恋を歌う歌詞がスクリーンに投影された。tetsuyaがステージでZEMAITISの12弦ギターを奏でているのを初めて観て驚いていると、すぐに次曲「forbidden lover」のドラムイントロをyukihiroが鳴らしはじめる。hydeは慈しみ深い穏やかな声で歌いはじめ、開いたり閉じたりする瞼すら美しい演出となっていた。やがて歌唱が昂っていき<神の名を>のところで炎が噴出、真っ暗になったスクリーンに業火のような炎が燃えさかった。hydeの頬には涙の筋がにじんでいた。
すぐに「接吻」のギターリフが鳴りはじめ、粘りけのあるグルーヴを生みながら4人は重厚なロックサウンドをくり出していく。ギターソロを弾きながらkenは花道を歩いてセンターステージへ。<接吻を交わそう>のフレーズをくり返し弾き、ファンと溶けあおうとする。シンセ音がやがて重なりはじめて、kenがみだれ弾く自由でダイナミックなギターソロタイムへ。kenの魅力を存分に味わわせる時間を、hydeは自身の誕生祝いの一環として設けていたのだ。曲に戻ってロックバンドらしいカッコよさを4人は存分に味わわせたあと、kenはファンに手を振りつつ花道を戻っていった。その姿は、ランウェイを歩くファッションモデルのようにクールだった。
続いては、tetsuyaが歪ませた音色で激しくベースを弾きはじめ、センターステージへ。スピーカーにベースを近づけてフィードバックノイズを鳴らし、もっともっと! とファンを煽るように手を上げ下げした。やがて聴きおぼえのある和音へとフレーズが発展していき、「In the Air」のイントロが生まれていく。一連の様子は、まるでフレーズが誕生した瞬間を再現しているかのようにも見えた。曲がスタートし、歌いだしたhydeの姿が大写しになると、煌めく帽子にノースリーブの白シャツ、黒ネクタイに衣装替えしており、フラッグを結んだマイクスタンドを肩に乗せている。スクリーンに現れた空と雲は天界を思わせる幻想的な美しさ。センターステージにhydeが合流してtetsuyaとふたりになると、互いに近づいたり遠ざかったりして、曲の心地よい空気感のなかでさまよっているかのようだった。
「L’Arc-en-Cielです。hyde誕生祭へようこそ!」とhydeが挨拶すると、yukihiroがキックを鳴らす。「誕生祭を仕切っております、自分で(笑)。どうですか? ずっと暗い曲が続いてたけど、楽しいですか? これからちょっとだけ明るくなりますからね。でも歌詞は変わらず暗い」などとhydeは語り、客席を見わたして「すごい。たくさん来てくれてうれしい。ありがとう!」と感慨深そうだった。
クラッカーを5万人で鳴らそう、というhyde発案の企画はあとになるそうで、「鞄の底のほうに入れておいてくだい。間違えて鳴らさないように」などとアナウンス。そこから「CHASE」に話を戻して「今日、間違えて」と正直にミスを語りはじめるhyde。言わなかったらよかったのに、と慰めるコメントをしたkenに、hydeは「言ってしまって、悔しい。ちょっと立ち直れなかった。“東京!”とか言いながら、まいったぜ、トホホ」とチャーミングな人間らしさを覗かせた。
L’ライトが無線制御されていることを話題に、様々なパターンの切りかえを試して盛りあがると、「ここからちょっとアッパーな感じになります。お待たせしました、体力使ってもらうよ? 大丈夫か?」と煽って、「楽しもうぜ、東京! 祝ってくれよ!」の言葉から「the Fourth Avenue Cafe」(「Cafe」の「e」はアキュートアクセント付きが正式表記)へ。<あと…どれくらいだろう? そばに居てくれるのは>という歌詞がピックアップされてスクリーンに映しだされ、ジャンプも交えて盛りあがりながらも、選曲の意図に想いを馳せてしまうのだった。
しゃがみ込んで歌い、大きなため息をつくラストのあと、スクリーンには赤い同心円が出現し、だるい大人のファジーさが心地よい「metropolis」へ。こういった曲の表現の深さ、匂いたつ色気、プレイの巧みさに、バンドの刻んできた年輪を感じる。最後にキーボードを演奏する秦野猛行の手もとが、かつてなく長い時間映しだされたことは、hydeのリスペクトによる撮影ディレクションだったのだろうか。曲が終わると大きな拍手が客席から送られた。
3Dスキャンのように回転する頭蓋骨画像を、筋肉や半透明の細胞のような球体が覆っていき、皮膚が被さってhydeの頭部に変化したり、また戻ったりをくり返していく、シュールな映像。「get out from the shell」の不穏なイントロが鳴りはじめ、ギターリフとシンセのビートがループ。白煙が立ちのぼるステージでhydeが歌いだすと、花道を歩きながら「スクリーム、東京!」と煽っていく。「Voi! Voi!」とオーディエンスは叫びながら手を上げ、妖しいサウンドが高揚感を高めていくと、どこか背徳的な一体感が醸しだされていく。すると意表を突いて「HONEY」が始まり、hydeはギターをかき鳴らす。hydeはyukihiroと向きあうようにドラムセットの前に立ち、tetsuyaもyukihiroのほうへ体を向けてプレイ。kenのギターはもちろん、コーラスも熱い。
驚いたのは、このあと「いばらの涙」を繋げたセットリストの構成である。hydeはサビでギターをかき鳴らすバージョンを復活させたのだ。kenは激しく髪をふり乱してプレイに没入していた。4人の演奏にロックバンドの醍醐味を感じてゾクゾクとさせられていると、そのまま「Shout at the Devil」へ突入。爆弾を思わせるファイヤーボールが横一列で乱発、その後いっせいに放たれて歌が始まると、渾身の熱唱を響かせるhyde。マグマのような赤い塊がうごめくスクリーンと、スモーク、走る稲光。フラッグを高く掲げ、叩きつけて去っていくhyde。ひとり残ったyukihiroはドラムを打ち鳴らし、最後の一打を鳴らしてスッと立ちあがり、去っていった。場内にはどよめきが広がった。
しばしの静寂のあと、信じられない光景が目に飛びこんできた。yukihiroが大きな花束を抱えて花道をひとり歩いてきたのである。センターステージに設置されたドラムセットの台に花束を置いたあと、位置に着いてスティックを回し、くり出したビート。やがてメンバーがステージ下から上がってきて合流、最後に登場したhydeが花束を持ちあげて抱え、「真実と幻想と」が始まった。いくつものトーチが灯ったステージ上は小さな神殿のようで、純白の衣装に着がえたhydeは、さながら女神のような幽玄な輝きを放ちながら歌唱した。
tetsuyaが火に手をかざして暖を取っているところが大写しになり、ユーモラスな姿に笑いが起きると、真剣に語りはじめていたhydeは「なんで笑うの!?」と驚き、ニコニコとしながら謝るtetsuyaの姿も微笑ましかった。「素敵な花束をいただきました」とhydeが挨拶すると、yukihiroが拍手をしている。「34年、長かったような短かったような…いろんなことがありました。でも当時と考え方も生き方も変わりました。“当時こういう考え方してたな”とか、今日も歌っていて浮かびます」とhydeはふり返り、「きっと皆さんもそれぞれの人生、L’Arc-en-Cielを聴いて“ああ、このときこんなこと考えてたな”とか」とファンの人生に寄り添った。
「いつ終わるか、人生わからない。でも、だからこそとても愛らしいこの世界だと思います。最後の食事を考えるのと同じで、最後がなければ気がつけないことってあるんじゃないかな? と思います。そう思いつめていたときに歌詞を書いた曲」との紹介から、届けたのは郷愁に満ちたバラード「ALONE EN LA VIDA」だった。天井には夕焼け色の空が投影され、黄昏時を思わせるオレンジの柔らかい照明が斜めにステージを照らしていた。hydeの目は赤くなっており、涙をこらえているように見えた。<貴方への愛が私の証><道先に明日がどれくらい待つだろうか?>など、書きつくせないほどの名フレーズに溢れた歌詞が胸に染みわたった。
hydeは「泣いちゃいそう」と感情を溢れさせ、「クールにやりたいとこなんですけど。ここからエンターテインメントしていきます。説明します(笑)」とクラッカーコーナーがいよいよスタート。「これからオーケストラが流れるので、皆さん『ハッピーバースデー』を歌いなさい(笑)」と“指示”。終わってからカウントが入ると告げ、用意した映像を流してまずはリハーサルを行うことに。メンバーもそれぞれ手にクラッカーを持っている。リハーサルで間違えて鳴らしてしまう音がして、「今鳴らした人いた?(笑)」とhyde。本番で約5万人がいっせいにクラッカーを鳴らすと、ステージ上には紙吹雪と銀テープも噴出し、祝福ムードが場内を満たした。「どうもありがとう!」と hyde は花束を掲げ頭上で手を振り、「すごいね。こんなことが人生であるなんて、思いもしなかったです」と感慨深そう。「この光景は忘れないようにしたいなと思います」との決意に、うなずいているtetsuya。メンバーの誰もがhydeを笑顔で見守っていた。
「次の曲、心を込めて歌いたいと思います」(hyde)との言葉から、ストリングスのイントロが流れ、天井にサンドロボッティチェリの宗教画のような空が浮かびあがり、アカペラで「叙情詩」を歌いはじめると場内はしんと聴き入っていた。全員の音が揃って演奏がスタート、hydeは花束を抱えたまま歌い続ける。曲が終わり「どうもありがとうございます」とくり返し感謝を述べるhyde。メインステージへ戻っていく先頭はken、そのうしろをyukihiro、続いてtetsuya、最後尾をhydeが花束を抱えたままゆっくりと歩いていく。天井には青空と雲、その上に虹が大きく弧を描いていた。
「ここからはパーティらしく、パーっと行きますよ。誕生日プレゼントって何あげたらいいか、考えるの大変じゃない?」とhydeは問うと、kenにいちばんうれしかったプレゼントを質問。ファンの方々からパジャマをもらう、という答えを受けて、hydeは「普段からパジャマ着てそうだから?」と笑った。
「tetsuyaさんは?」とhydeが尋ねると、「あげたものもあるし、もらったものでもあるけど、ここでは言われへん。この世にないもの」と気になる返答。「ユッキーは? もし動物飼うなら毒グモか、うさちゃんだったらどっち?」と二択を迫られるとyukihiroは、「いや、うさちゃんでしょ。違うの?」とキョトンとした表情。寡黙なyukihiro の言葉と笑顔を引きだしてファンを喜ばせたhydeは、「皆さん満足しました? ここからパーっと行こう! 今日はお祝いですから」との言葉から1月15日にCDを発売したばかりの新曲「YOU GOTTA RUN」をライヴ初披露。広大な空間が似合う煌びやかなアッパーナンバーで、接近するカメラへのアピールもふんだんに盛りこみながら伸びやかにパフォーマンスをすると、スタンド席上段からアリーナへ向けて色とりどりの巨大バルーンが弾みながら転がっていく。
「Caress of Venus」ではhydeとtetsuyaが下手花道で接近。hydeはひとり柵に腰かけて誘うように歌い、投げキッスを放つ。「Link」ではジャンプ、ターン、ハンドクラップなど、おのおの体を動かしてL’Arc-en-Cielの音楽を楽しんでいた。
「hyde!」という声が飛びかい、「その声援が励みになりますね。続けてこなかったらこの景色は見られなかったんだろうなと思うと、続けてきてよかったです」とhydeは客席を見つめた。「たくさんの人が集まってくれました。普段はバラバラで、世界中でそれぞれの生活がある。L’Arc-en-Cielを聴いてくれて、今日を楽しみに駆けつけてくれたんだと思います。うれしいね。そんなに好きなんですか?(笑)」と尋ねると、勢いよく「好き!」というファンの声が飛んだ。「皆さんにお祝いしていただいて、メンバーの皆さんにもお祝いしていただいて、スタッフにも…でも、僕からすると、皆さん一人ひとりが生まれてきてくれて“ありがとう”という気持ちです」と手を差しのべ、メンバーも同意するように拍手を送った。
「皆さんが生まれてきてくれて、ここまで足を運んでくれて、それがいちばんのプレゼントです」と胸に手を置くと、「聴いてください、『あなた』」と曲紹介。シンプルな白いスポットライトを浴びながら、hydeは穏やかに歌い、一音一音を味わうように音を鳴らし、互いに会話を交わすように心のこもった演奏を聴かせるメンバーたち。白いL’ライトが揺れうごくことで、ファン一人ひとりの体の存在をたしかに感じることができた。両手を広げたhydeは、センターステージでひざまずき、目を閉じてファンの合唱に耳を澄ました。
外していたイヤーモニターを再び装着して演奏が再開すると、立ちあがって大サビを熱唱。うしろずさりしながら花道を歩きメインへと戻りながら、hydeはファンの姿を見ながら歌い続けていた。kenは「Happy Birthday」のフレーズをギターで奏で、yukihiroとtetsuyaも音を重ね、「Happy Birthday to You」とhyde自ら歌い、メンバーは笑顔を弾けさせた。
ひとり残ったhydeは「ありがとう」をくり返し、「はあ~…やっとお正月が迎えられるような気分(笑)。みんな遠くから来てくれたりしてるんだよね? ありがとう」と語りかけながら花道へ行き、ファンに手を振って挨拶。するとtetsuyaが花束を持ってステージに戻ってきて、hydeが愛好するレッサーパンダのリアルなぬいぐるみをあわせて渡した。tetsuyaは「いちばんリアルなの探したの。おめでとう!」とhydeに改めて祝福の言葉を捧げた。「あと一日頑張ります。すごい幸せ者ですね、僕は、こんなお祝いしてもらって」とhydeは語りながら最後にセンターでお辞儀。「この気持ちが最高のプレゼントです。ありがとうございました!」とファンに最後の挨拶をしてステージを降りた。
Day2は前日より1時間早い17時開演で、「CHASE」の間奏部分も無事に成功。「楽しませてもらいます!」と宣言したhydeはこの日、Day1以上に伸びやかに自由にパフォーマンスしているように見え、同時に、より深く曲の世界に入りこんでもいるように見えた。
「浸食 -lose control-」のドラマチックな展開は迫真の演奏で、この退廃美はL’Arc-en-Cielの真骨頂だと痛感する。「forbidden lover」の歌唱、演奏はより強い情感を湛えた表現に深化しており、スクリーン内で燃えさかる炎は、黒い背景ではなくメンバーの姿とオーバーラップする映像演出に変わったことで、より強い苦悩、痛みと悲しみを伝えた。前半パートは曲の入れ替えはないものの、あらゆる面で微調整が施され、Day1との違いがそこかしこに見受けられた。
挨拶では、「L’Arc-en-Cielです、誕生祭へようこそいらっしゃいました。ライブビューイングの皆さんも楽しんでますか?」(hyde)と、この日のみ実施されたライブビューイングの観客へも心を寄せ、温かく呼びかけた。
地鳴りのようなyukihiroのドラムに沸きたったあと、静寂のなか再開を待っていると、「ウェーブが見たいなあ」という文字がスクリーンに映しだされた。Day1にはなかった演出である。あちこちでウェーブが同時発生し、緩やかな一体感が場内に生まれた。するとDay1同様yukihiroが赤いバラの花束を手に登場、前日に比べると花がより露わになった包み方に変っている。ドラムセットの前に花束を置き、「真実と幻想と」をプレイし始めたのだが、ギターにトラブルが発生したようでkenの音が序盤で聴こえてこない。すぐに問題は解消し、演奏を止めずにポーカーフェイスでリカバリーすると、アンサンブルは美しい調和を取りもどしたのだが、hydeの表情は微かにかげり、目には涙が浮かんでいく。
曲が終わると、前日同様、「L’Arc-en-Cielは34周年になります。いろんなことがありまして、僕の人生もいろんなことがありまして…」と切りだし、「いつ終わるかわからないですね、皆さんの人生も、僕の人生も。だから愛おしいと思います」と語ると、目が益々潤んでいき言葉を詰まらせてしまう。見守るtetsuyaの心配がにじむ表情がスクリーンに映しだされた。「さっきもギターが鳴ってなくて、正直、(演奏を)止めようと思いました。でも、それを…なんとか形にしてきたな、と思って、続けました。だからね、こういう景色の、一つひとつが愛おしいと思います。最後がなければダラダラと目標もなく、締切もなく曲も出来ないし、終わりがあるから一生懸命輝いて生きるんだと思います。そんなことを想いながら歌詞を書いた曲です。皆さんもやりたいことがあったらすぐに始めて、会いたい人にはすぐに会いにいってください」と切々と、バンド活動のこれまでを重ねあわせて語ると、「ALONE EN LA VIDA」を声を震わせながら歌いとどけた。
<足跡一つ 残せなくても この命はまだ 旅の途中>というフレーズが象徴的だが、この曲に表れているhydeの、大スターであるにも関わらず諦念のにじむ人生観、その上で日々を愛おしむ死生観に胸を締めつけられる。曲が世に出たのは18年前のことだが、現在のhyde、34年という時を紡いできたL’Arc-en-Cielというバンドが今奏でることで、あらたな物語を読みとることができるのも、不思議なことである。
「みんな来てくれてありがとう。幸せ者です」と感謝を述べたあと、「しかしなんやったんあれ? ギターのあれ」と原因を問うと、ピックがネックに挟まっていたのが原因だったそうで、kenからマイクを通さず地声で直々に説明を受けたhydeは崩れおちるようにして爆笑。kenは全方位に手を合わせて謝り、tetsuyaもyukihiroも笑顔を見せた。「オチがついたところで(笑)、クラッカーの説明に行きます」と続いて5万人によるいっせいクラッカータイムへ。メンバーもクラッカーを持ち、オーケストラ伴奏の「Happy Birthday to You」に合わせてリズムを取ったり指揮するように動かしたりと、楽しんでいるムードが伝わってきた。
「感謝の気持ちを込めて次の曲は歌いたいと思います」とhydeが告げ、ステンドグラスが天井に投影されると、天へ向かって伸びるような白い光の柱が多数出現。パイプオルガンの調べが鳴りはじめ、Day1の「叙情詩」に代わって披露したのは「雪の足跡」だった。<一つ一つが大切な記憶>という歌詞が、このセットリストと MCの流れのあとでは、より深く心に染みわたった。
泣いたり笑ったり、Day2は感情を激しく揺さぶられるライヴだったが、リラックスした表情に変化してきたhydeは「さっき、ウェーブがカオスだったよね」と笑った。花束から話題を広げて「好きな花は?」「もし飾るなら?」など hyde からメンバーに質問。詳細は割愛させていただくが、三者三様の回答に強烈な個性が出た。hydeがお風呂のエピソードを唐突に語りはじめ、「湯が足らんな~」が「YOU GOTTA RUN」の語呂合わせでダジャレだと判明するとメンバーもファンも笑った。「Link」に代わってDay2は「READY STEADY GO」を盛りこんで終盤を盛りあげると、いよいよ最後の曲を迎えた。「昨日今日と集結してくれるなんて、本当に光栄です」と改めて感謝を述べるhydeに合わせて、メンバーも随所で拍手し、うなずいていた。
「今日は映画館でもやってるからね。つくづく幸せ者だと思います。何回かグッときましたが、なんとか乗りこえて…あと1曲で終わろうとしています。本当にありがとう。誕生祭だけど、あなたこそ、生まれてくれてありがとうございます。生まれてくれて、集まってくれて、それだけで最高のプレゼントになりました」と挨拶、最後の曲「あなた」を届けた。センターステージでイヤーモニターをはずし、ファンの合唱に耳を澄ますとき、hydeは聴くというより全身で声を浴び、吸いこもうとするかのように大きく両手を広げていた。曲が終わり、いったんステージを去ったかに見えたkenが花束を持って再登場、hydeに手わたす場面にファンが嬌声を上げた。Day1はtetsuyaで今日はken…かと思いきや、tetsuyaも再度姿を現して花束とレッサーパンダのリュックをプレゼント。これで3人全員からhydeは花束をもらったことになる。『昨日のはリアルだったけど、これは普段使いできるからいいかな? と思って』と、さっそくhydeにレッサーパンダリュックを背負わせるtetsuya。hydeはその愛らしい姿で花道を歩きまわり、ファンに挨拶。センターに立ち何度もお辞儀をして、「最後の『あなた』は、皆さんに歌っていただいて。いつもは皆さんに“向かって”歌うんですけど、5万人の人に歌ってもらって、贅沢。今日は来てくれてありがとうございました」と、大拍手のなかステージを去った。
この『L’Arc-en-Ciel LIVE 2025 hyde BIRTHDAY CELEBRATION -hyde 誕生祭-』の模様は、4月にWOWOWで独占放送&配信されることが決定。スクリーンに特報が映し出されると場内には大歓声が響いた。詳細はWOWOW公式サイトをご確認いただきたい。続いて、「See you in 35th L’Anniversary Year」という文字が虹色のロゴと共に映しだされ、悲鳴のような歓喜の声と大拍手に包まれて、約3時間の公演は終了した。
通常のライヴではリーダーのtetsuyaが「まったね~!」と再会の約束をファンと交わすのが恒例だが、今回はこの誕生を取り仕切ったhydeだけがステージに残る形となっていた。「まったね~!」の挨拶は、オフィシャルキャラクターのルシエルちゃんが終演後にアナウンスで代弁した。2日間の流れのなかで浮かびあがった物語に強く心を打たれた、“誕生祭”という試みは成功に終わった。35thに向けたL’Arc-en-Cielの動きを見守っていきたい。
TEXT BY 大前多恵
PHOTO BY Kazutoshi Oguruma、Yuki Kawamoto、Hiroaki Ishikawa、Tetsuya Matsuda
リリース情報
2025.01.15 ON SALE
SINGLE「YOU GOTTA RUN」
L’Arc-en-Ciel OFFICIAL SITE
www.LArc-en-Ciel.com