■「バンド活動をしていて、散々な目にあったりもするし、すごく幸せな気持ちになることもあるけど、その両方が大事だよなと思う」(YONCE)
7月30日にEP『doyes』をリリースしたHedigan’sが、8月4日に東京・SHIBUYA CLUB QUATTROにて、自主企画『AWAI vol.2』を開催した。
『AWAI』とは、Hedigan’sが立ち上げた対バン企画。2024年9月に開催された『AWAI vol.1』には、クレイジーケンバンドがゲストとして登場した。
そもそも「AWAI=間」とは、「合う」を語源とし、何かと何かが交わり合った空間を意味する。似ている言葉の「間=あいだ」は、AとBを隔てる空白を指すが、「あわい」はAでもありBでもあるような、ふたつが重なる場所のことを言う。
人間は、物事を捉える際に決まりきった「概念」や言葉として表現できる「枠組み」などを無意識的に設けてしまうが、そこからこぼれ落ちるものを掬い上げるのが『AWAI』でありHedigan’sの音楽である。
EP『doyes』は、河西“YONCE”洋介(Vo、Gu)や栗田将治(Gu)が持ってきた詞曲を形にしていくこれまでの制作方法から変えて、主にバンド全体でセッションしながら生まれたフレーズやグルーヴを出発点に、曲を完成させていったという。またアンビエントが取り入れられていたり、不規則的な音と規則的な音が交じり合ったり、人と人、自然と人間、音と音の境界線を溶かし、それらの「あわい」を描くような表現が詰め込まれている。
同様に『AWAI vol.2』では人、音、色などのあわいを表現しながら、身体の内側や無意識からじわじわと燃え上がって気づけば踊ってしまっているような音楽が鳴り続いた。
『AWAI vol.2』のゲストとして登場したのは、事前にHedigan’sが「意識と無意識のコミュニケーションを誘発するにいちばんふさわしい音楽を奏でてくれるバンド」と紹介した、5人組サイケデリックバンド・HAPPY。
5人がバラバラに楽器を鳴らすなかで自然と音が集約して曲が始まったり、曲と曲をシームレスにつなげたり、「曲」の枠組みすらもなくすような60分。バンド内の約束ごとをなくして音階やリズムからも解放された「不規則性」と、フレーズがループすることでダイナミックスや熱量を高めていく「規則性」、その両方によって意識と無意識にアプローチする演奏が続いた。
さらに背景に投影されたVJでは、たとえば黄、橙、赤色などの美しいグラデーションで、いくつもの色のあわいを魅せる。
HAPPYのステージが終わると、心のなかには陽だまりのような温かさが残っていた。
「ライブを観ていてHAPPYを好きな人生でよかったなと思った」(本村拓磨)、「ライブがすごすぎて、最高すぎて、まだものたりない。もっと見たかったわ」(YONCE)とまで語るHAPPYのライブを受けて、Hedigan’sは「再生」からスタート。
YONCEは片手でマイクを持ち、もう片手をポケットに突っ込んで、深く豊潤な歌を聴かせた。将治のギターソロに入る前、YONCEは「紹介しましょう、ギブソンレスポール!」とシャウト。自分たちではなく楽器・音楽こそが主役であるという、Hedigan’sらしいスタンスが初っ端から見えたシーンだった。
野生的な雄叫びから始まったのは「その後…」。ブリッジでも、栗田祐輔(Key)のボイスパーカッションや将治のハーモニー、そしてYONCEの雄叫びが交わる。そして最後はキメにあわせてシャウトを重ねる。人間の「雄叫び」や「声を鳴らしたいように鳴らす行為」と「歌」という概念が重なる部分、それらのあわいについて表現するようだった。
大内岳(Dr)の強靭なビートに本村拓磨(Ba)がトランペットを乗せて始まったのは、Hedigan’sの初ライブから披露されていた「説教くさいおっさんのルンバ」のあらたなアレンジバージョンだ。これがすさまじくパワフルに仕上がっていた。ステージを染め上げた赤色が似合う魂の叫びとも言えるアレンジに、オーディエンスは高揚感を隠せないほどの大きな歓声を上げた。
その後の「グレー」では、間奏でYONCEが狂気的な表情で高速クラップをしたり、サビで本村がベースを弾きながら左右に飛び跳ねたり。「踊らされるのではなく主体的に踊る」というのはHedigan’sが常に大事にしていることであり、フロアも音が漂う中で各々が自由に楽しんでいる。その景色を見ながら「最近よく『楽しいフリしてますか!』とか聞くんですけど、今日は楽しそうですね」とYONCE。
中盤は、EP『doyes』より1曲目から3曲目までを収録順どおりに披露した。船の出航を彷彿とさせるイラストがスクリーンに投影される中で「Fune」から始まり、現実と夢想のあわいを浮かび上がらせたかと思えば、シンセサイザーの音を止めないままタンバリンなども重ねて「DAO」へ。リズムのない時間から、一定のリズムとリフがループするタームに入ると、自分のなかの眠っている感覚を呼び起こしてじわじわと覚醒させてくれるよう。
足を前に動かすことを止めまいとする、たくましい生命力を感じさせる「DAO」を終えて、音を止めないまま次は「Hatch Meets June」へ。5人で合わせるところ、自由に音を鳴らすところ、一斉に大きな音の塊を作るところ、音を引くところ、それらのあわいがたまらない。これぞ「バンド」が生み出せる表現なのだとも思わせた。
そのあとは、音源化されていないがこれも初ライブからセットリストに組み込まれていたセッションナンバー「夏テリー」から「Love(XL)」。そして「負けたことがある人!」と呼びかけてから「敗北の作法」。負けた経験がない人なんていないだろう。負けることの美、いい負け方とは何かを考えさせてくれるのが「敗北の作法」だ。ロックンロールからクラウトロックへと雪崩れ込み、シンプルな音を数分間にわたってストイックに繰り返し、我々の意識と無意識をひたすら揺さぶってくる。
最後は、EP『doyes』に収録された1分21秒の曲「BtbB」。全力で楽器を鳴らすパンキッシュな「BtbB」から、「1、2、3、4!」のカウントを合図に、ロックンロール全開の「O’share」。激しさやスリリングさのなかでも美しさや安らぎを感じさせるのは、YONCEの歌が生み出す成分の影響もあるだろう。そもそもあらゆる感情はグラデーションであり、「スリリング」と「安らぎ」は重なり合うものだとも教えてくれるのが、Hedigan’sであり『AWAI vol.2』だった。
汗だくの5人がアンコールで再びステージに登場し、YONCEが「初めてライブハウスに来た方」「初めてバンドのライブを見にきた方」と呼びかけると、ちらほらと手が挙がった。Hedigan’sをインタビューする際、いつも彼らは自分たちをアピールするよりも「音楽の宣伝をしたい」「バンドっていいなと思ってほしい」などと言う。
「貴重なライブハウスでの体験を僕らに任せてくれてありがとうございます」「僕らもHAPPYも10代からバンド活動をしていて、散々な目にあったりもするし、すごく幸せな気持ちになることもあるけど、その両方が大事だよなと思う」とYONCEは語りかけた。
Hedigan’sが音楽を通して、我々の無意識から少しずつ刺激と変化を与えてくれる事柄とは、実はたくさんある。まずHedigan’sからは「こんな音楽もあっていいんじゃね?」という提案が常にある。そして人と人、自然と人間、音と音、感情と感情のあわいに目を向けさせてくれる。さらにもうひとつ挙げるとするのであれば、最後に演奏された「doyes」から感じさせるような、生命が連なっていくことの尊さを感じさせてくれる。先祖、自分、子孫など、家族として命がつながっていく「人と人のあわい」も描くような「doyes」で『AWAI vol.2』は締め括られた。
Hedigan’sは、9月から10月にかけて、名古屋・大阪・東京にてワンマンツアー『Hedigan’s TOUR』を開催する。Hedigan’sは変化し続けるバンドだ。「同じライブは2度とない」という常套句を、もっとも体現しているバンドだと言ってもいい。どの時期も見逃さないでほしい。
TEXT BY 矢島由佳子
PHOTO BY Kippei
Hedigan’s OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/artist/Hedigans/















