台湾の大人気バンド、Accusefive/告五人(ガオウーレン)のワールドツアー『Accusefive 告五人 [Run, Run, Run! 黑夜狂奔] 2025 Live Tour the World』の東京公演が11月8日、Zepp Hanedaで行なわれた。
■「また帰ってこられた、ありがとう」(ユン・アン)
このツアーは、2年をかけて制作した彼らの4枚目のオリジナルフルアルバム『我們就像那些要命的傻瓜』が7月にリリースされた直後、8月の台湾4都市からスタートしている。
東京近辺では2024年のZepp Yokohamaに続いてのライブとなったが、前回とは違う印象のクールなステージで、衣装もカジュアル、より音楽を聴かせたいという彼らの思いを感じさせるような幕開けだった。ほぼ満員の会場で彼らが最初に演奏したのは、新作アルバムの1曲目と2曲目に収録されている「城市之丘」と「有太多不能講」。そして、3曲目が彼らの代表曲でヒット曲の「愛人錯過」で、早くも会場大盛り上がり。
そうやって始まったライブだが、やはりショウアップというより、バンドとしてのライブをちゃんと見せようとする姿だったと思う。そして、確かに3人のメンバー、女性ボーカルの犬青(チュアン・チン)、ギター&男性ボーカルの雲安(ユン・アン)、ドラマーの哲謙(リチャード)も音楽家として進化した姿を見せてくれたし、サポートミュージシャンも、ギター、ベース、キーボードだけでまさにバンドサウンド、スクリーンに映し出される映像もとてもクールだった。
最初の3曲が終わったところで、ユン・アンが「また帰ってこられた、ありがとう」と挨拶。と、ユン・アン、フェンダー・ジャパンから提供されたギターをキュンキュン言わせて弾きロック少年のように喜んでいる。
また、完璧な日本語で歌ってくれた「好不容易」は、日本のファンにプレゼント。終わった後、思わずほっとしたようにため息をついたユン・アン、プレッシャーだったのかも。
そして続いての新作からの曲「快樂的事記不起」からよりポップなパートに。スクリーンに映る映像も大人かわいいカラフルな感じで、振付を観客と一緒にしたり、コミュニケーションも盛んにとり、彼らのエンタテインメント性を楽しむことができた。
今回象徴的だったのが、映像だ。真ん中にあるスクリーンだけでなく、上手ぎりぎりから下手ぎりぎりまで大小のスクリーンがあり、かつサポートミュージシャンが乗っている台の側面にも投射され、大型とはいえライブハウスにもかかわらずすごい迫力なのに感心させられた。音質もとても良く、こういう所にこのバンドの制作のレベルの高さを感じる。「你要不要吃哈密瓜」(2017年)では真っ赤な幾何学模様がステージいっぱいに写し出され、チュアン・チンも「トウキョ~~ッ!」と雄たけび、音もヘヴィでかっこよく、これぞロック中のロックというシーンだった。
と思うと、今度はアコースティック・パート。重量感あるドラムを叩くリチャードもこの時はステージ前に出てきて、パーカッションやカホンを叩き、ユン・アンもアコースティック・ギター。どこか寂し気で話しかけてくれているようなチュアン・チンのボーカルの魅力がいっそう伝わる。
そうやってアコースティックバージョンの4曲が終わると、今度はまたバンドサウンドで彼ら独自のロックを聞かせてくれた。彼らの代表曲のひとつ、Netflixのヒットドラマ『女優: ボーン・トゥ・シャイン』(原題:影后)で使われた曲「從未見過的海」が聞こえてくると、会場の盛り上がりも最高潮に。
が、この後も「夏天的海冬天的雪」(2025年)と「唯一」(2020年のアルバム『運氣來得若有似無』に収録)と静の印象の曲が並ぶ。多くのライブは最後になるとアップテンポでダンサブルで盛り上がって…といった感じをよく見るが、彼らは違う。「唯一」などは心にしみこむ名曲だ。「唯一無二という言葉はわかっているよね。僕が君の唯一無二だと証明して」を歌う究極のラブソング。続いてのツアータイトルにもついている曲「黑夜狂奔」は、しみじみと歌われる前半と後半の感動的なロックで、歌詞が大きくスクリーンに映し出された。最後には、「你是你自己的禮物 你自己的光(あなたはあなた自身の贈り物、あなた自身の光)」。このフレーズを、会場に向けて何度も説得するように歌う彼ら。
告五人は、たくさんの愛をはじめとするメッセージを伝えるバンドだ。それは決して楽しいことだけじゃない、苦しみも悲しみもあって、だから彼らのただ明るいだけじゃない声と音が沁みこんでくるし、トークではときにステージのいちばん前に出てしゃがんで交流をしようとする優しさも感じる。そうやって皆の心を受け止め名曲を作り共感を生みながら伝えてくれるのがこのバンドなんだと思う。
スクリーンには、アンコール(中国語で「安可」)と告五人の文字がアメリカングラフィティのようなイラストに乗って点滅、会場も大声でこの言葉を叫ぶ。すると、メンバーが上半身をツアーTシャツに着替えて登場。どことなくリラックスしたようなホッとしたような笑顔が見られた。彼ら一人ひとりからメッセージが語られたあと、最後は、宇宙がスクリーンに映し出されたなか、2019年のアルバム『我肯定在幾百年前就説過愛你』の最後に収録されている曲「披星戴月的想你」。ギター、そしてドラムスが印象的に刻まれ、「星空と月の下で君を想う。迷わず突き進んで行くよ」と歌って2時間40分にわたる音楽のライブが終わった。
告五人は2017年結成、この年彼らが行なった台北でのライブは、小さな小さなライブハウスでだった。そして2023年のツアーでは1万人の台北アリーナ2デイズと高雄アリーナ2デイズを成功させ中国でも多くのライブを行なうまでになった。途中、ユン・アンが「(結成してから)8年かあ」としみじみと言ったのも印象に残った。ま、その後に「来年は9年目ね、とジョークを飛ばしたが(笑)」。
彼らの音楽は、ロックのバンドサウンドにこだわり、そして良質なメロディに乗せて歌詞を伝えることにこだわり、そうやって多くの人の心をとらえてきた。2024年の横浜でのライブよりまたいっそう成熟した素晴らしいパフォーマンスを見ると、常に努力を重ねている姿も想像できる。心に温かいものをもらって帰るとき、改めてこのバンドの素晴らしさをかみしめた。
TEXT BY 関谷元子(音楽評論家)



