Aqua TimezとReoNaが、12月2日に、KT Zepp Yokohamaにてツーマンライブ「Aqua Timez & ReoNa Special Live 2025『合流地点』」を開催した。
■きっかけは、Aqua Timezの名曲「決意の朝に」
同じ遺伝子を持った2組のアーティストを、運命が交差させた奇跡の一夜。2025年12月2日、この日、KT Zepp Yokohamaに集ったすべての人は、Aqua Timezが20年間紡いできた“軌跡”が呼んだ“奇跡”の目撃者となった。
これまでステージでは接点がなく、Aqua Timezはロックバンドとしての独自のスタンスで音楽シーンを歩み、ReoNaは“アニソン”フィールドで“絶望系アニソンシンガー”というコンセプトを掲げて活動してきた。世代も歩んで来た道のりも、ファン層すらほぼ重ならない状態だったこの2組のツーマンライブが、20周年の節目に期間限定で再結成を果たしたAqua Timezの呼びかけで実現したのには、理由がある。
そのきっかけは、Aqua Timezの名曲「決意の朝に」。2019年、生きづらさと孤独、寂しさを抱えた「決意の朝に」の歌詞に共感してデビュー前からライブで歌い続けてきたReoNaが、カバー曲として音源化。Aqua Timezのメンバーも彼らの歌と共鳴するメッセージを紡いでいるReoNaと交流し、6年の歳月を経て、「Special Live」という名にふさわしい、2つの道が交わる“合流地点”を作り上げてくれた。
■運命が交差した“合流地点”、ReoNaが照らした“命”の歌
先にその合流地点を踏みしめたのは、ReoNaだ。歓声の中、バンドマスター・荒幡亮平(Key)、山口隆志(Gu)、高慶”CO-K”卓史(Gu)、二村学(Ba)、佐治宣英(Dr)によるReoNaバンドがポジションに付くと、ひと筋のスポットライトが舞台を照らしてスタートしたのは「ANIMA」。
あなたの、そして私の、傷ついた《魂の色は 何色ですか》と、聴く人の存在そのものに問いかけるReoNaの歌声に、観客から湧き上がるクラップ。それに呼応するように力強さを増していくバンドサウンド。温度計があれば、会場の熱が目に見えて上昇していくのがわかっただろう。張り詰めた空気が流れ、荒幡のピアノがベートーヴェンの「月光」を奏でてノイジーなギターが乗り、次に届けたのも“命”を歌う「生命線」だ。ステージに広がる闇に、脈打つ血を思わせる赤いライトが走り、ReoNaが命を請うように手を伸ばす。彼女の声はまるで壊れそうなガラス細工のように繊細でありながら、同時に何よりも力強く、聴く者の心の奥底まで届いていく。
「ハロー、アンハッピー。こんばんは、ReoNaです」。囁くような挨拶に拍手が贈られ、「Aqua Timezさんとのツーマンライブ、合流地点。お歌を紡いで、言葉を紡いでたどり着いた今日。あなたにお届けする1対1。最後まで楽しんでいってね」。そして「初めましてのあなたも、いつもありがとうのあなたも、今だけはすべてを忘れて踊りましょう」と言って届けたのは「シャル・ウィ・ダンス?」。ミュージカルの舞台を思わせるゴージャスなサウンドにのって、軽やかなステップを踏みながら、華やかに、楽しげに歌う彼女の姿があった。それまでのReoNaからは想像できない明るさで、観客たちに束の間の安堵を与える。
しかし……次の瞬間、会場を包んだのは、まるで時が止まったかのような静寂だった。不穏なピアノの不協和音が、美しい和音になって響き始まった「生きてるだけでえらいよ」。この曲こそ、ReoNaの掲げる”絶望”の本質に最も近い曲なのかもしれない。今にも泣き出しそうな、それに必死に堪えているような彼女の歌声が、会場の隅々まで、どこまでも切々と響きわたる。《すごい辛くて。毎日毎日辛くて。起きるのもきつくて》と独白するReoNaの歌。観客それぞれが、自分自身の”生きづらさ”と向き合う時間がそこにあった。
音ひとつたてない観客に向かって、静かに語る。彼女が“絶望”を歌うのは、失恋の痛みに寄り添ってくれる失恋ソングはあるのに、絶望に寄り添ってくれるお歌がなかったから。そんなReoNaが幼い頃に出会った「決意の朝に」の《辛い時 辛いと言えたらいいのになぁ》の言葉は、絶望系アニソンシンガーとして歩んでいる彼女の原点の想いだ。「言葉にできない心の内側も、代わりに言葉にできるようなお歌であれたら」「名もなき絶望に、名もなきお歌で寄り添えますように」。Aqua Timezの楽曲が、まさにこの今に繋がっていることを想いを込めて伝える。
続く「unknown」では、本当の自分を怖くてさらけ出せない人に切ないメロディと優しい歌声で寄り添い、それでも「ゴミくずみたいな命燃やして、くすぶったままでも生きて生きていこう」とアコースティックギターを掻き鳴らしながら力強く訴える「Debris」へ。生きることの痛みと醜さ、そして美しさ。ReoNaの歌は、そのすべてを包み込んでいく。
そして、再結成という限られた時間の中で、この”合流地点”というツーマンライブの場を設けてくれたAqua Timezへの深い感謝を改めて伝えて「大人になった今、再会できて本当に良かった。いちリスナーとして、いち後輩として、本当に素敵なバンドです」と言葉を重ねる。「最後にもう1曲」と言ってもう一度アコギを弾き語って届けたのは……「HUMAN」。人間は、時に誰かの言葉に傷つき、救われ、人と出会い、人と別れ、それでもひとりきりでどうしようもなく生きていく。そう歌うReoNaの温かなボーカルと、ステージを包むオレンジ色の光。絶望の闇にあっても、朝は来る。その光景は、まるで夜明け前の空のようだった。
■【画像】ReoNaのパフォーマンスシーン
■太志「ReoNaさんの世界観に合わせるってこともやろうと思ってたんだけど……もともと世界観合ってた」
ReoNaから“生きること”のバトンを受け取り、ポップなBGMと客席からのクラップを浴び、OKP-STAR(Ba)、大介(Gu)、mayuko(Key)、TASSHI(Dr)が、歓声に手を挙げて応えながらステージに登場する。BGMがフェードアウト。最後に太志(Vo)が右手を振り上げて姿を現し、街の喧騒のSEとケルティックな「アスナロウ」のイントロが流れると、待ってましたとばかりにKT Zepp Yokohamaに爆発が起こる。ミクスチャーロックにのせた太志のフロウは、自分に向き合いながら、力強く“挑戦”を鼓舞する。
ミクスチャーロックのパワフルさとAqua Timezならではのポップネスが融合。TASSHIが叩き出す、キレとグルーヴに満ちたドラムビート。OKP-STARの躍動感溢れるベースライン。mayukoの軽やかでありながら情感豊かなピアノ。そして大介の鋭く切り込むギターと、太志を支えるコーラス――5人の音が絡み合い、オーディエンスもひとつになる。
そして、イントロの切なげなギターのアルペジオにのせながら、直前の「アスナロウ」で、ダメな大人にNOを突きつけた太志が、静かにこのツーマンライブへの想いを言葉にする。
「若い頃、俺は尊敬される人になりたいって思ってました。でも今は逆です。人のことを尊敬できる人になりたい。いいものはいいって言える、そういう大人になりたい。だから俺、ReoNaさんの曲、世界観、すごく大好きです。だからReoNaさんのふあんくらぶ、Aqua TimezのteamAQUA、ここに来てる全員に敬意を込めて、尊敬を込めて歌いたいと思います。今日は最後までよろしく」
真摯な眼差しでそう告げ、歌われたのは「生きて」。《生きてゆくっていう事は 涙がこぼれるほど》切なく、そして素晴らしい。軽やかなリズムとキャッチーなメロディ。同じステージでReoNaが歌ったメッセージに呼応するように、Aqua Timezもまた“生きるということ”と“自分自身”に真っ直ぐ向き合い、人の弱さや後悔に寄り添って、苦しみながら答えを見つけてきたバンドであることが、改めて思い起こされる。
「こんばんは、Aqua Timezです。今日はReoNaさんとのツーマンライブということで、俺たちもすごい楽しみにしてました。そこでReoNaさんの世界観に合わせるってことも、セットリストでやろうと思ってたんだけど……もともと世界観合ってた」。太志が薄く笑みを浮かべて誇らしげに告げると、客席がドッと沸く。彼の言葉に我が意を得たり! と言わんばかりのファンの歓声こそが、Aqua TimezとReoNaの魂、そして2組の音楽を愛するファンの心が、大きな円を描きながら共鳴していることの証明だ。
■呼応する魂。Aqua Timezが音楽を続けてきた意味を共有
笑顔の客席に、次のナンバーが放たれる。雄大なバラード「手紙返信」だ。《ひとりでもひとりじゃない》から、《もしも意地悪な世界が僕らを 笑い者にしようとしても》、あなたと一緒に《最後に笑ってられたらいいさ》と歌われるこの曲。ひと言、ひと言を胸に刻みつけるように、深い太志の歌声と大介の泣けるギターが、会場を温かく満たしていく。そしてもう1曲、心に刺さるバラード「MASK」が続く。不安なら、孤独が悲しいなら泣いていい。嘘を吐かず、《心に何にも 被せないで》自分らしく素直にいたいと、今を大切に生きることへのメッセージを贈る。そのメッセージは、続くエモーショナルな初期ナンバー「STAY GOLD」で、より確かなものになる。イントロで起こったオーディエンスの歓声。Aqua Timezファンが、この曲を心待ちにしていたことがよくわかる。浮遊感のあるサウンドに、朗々と響く太志の歌声。この日の「STAY GOLD」は、20年間紡いできたファンとの絆と彼らの音楽の力を、まさにステージで体現していた。
ここで太志とmayukoから、ReoNaとの秘話が語られた。「決意の朝に」をReoNaがカバーしたあと、解散していたメンバーたちは、2020年にReoNaのワンマンコンサートに行く予定だったが、コロナ禍でツアー自体が中止になり、叶わなかったそうだ。mayukoがいつものおっとりした口調で「そんななか、お互いよく頑張って生きてきたよね」と感激すると、太志は「それで2025年に対バンできるっていうのは、本当に運命のようなものを感じます」と感慨深げに語った。
終盤戦を迎えたここからは、アッパーな楽曲が続く。痛快なギターロックサウンドが《全てを受け止めなくてもいいよ》《こらえることだけが勇気じゃない》と普遍的なAqua Timez哲学を届けた「ALONES」では、太志が大きくクラップを煽り、「シンガロング」では演奏中に、オーディエンスの1人ひとりに言い聞かせるようにこう語った。
「人として生まれて、人として愛されてみたかっただけなのに、傷つきやすい心でここまで生きてきて、今日みんなで同じ時間過ごしてる。家庭の事情もあるあなたと、心の事情もあるあなたと、人間関係に疲れたあなたと、何のために生きてるかわかんなくなったあなたと、同じ音楽の中にいる。例えば、死にたいと思った夜が、消えたいと思った夜が、生きてて良かったって日に変わるように、俺たち音楽やってる。お前の代わりなんてどこにもいねーんだよ。ここまで生きてきたの誰だ。ほかの誰かが生きてきてくれたのか。会いに来てくれたのお前らだろ!」
そんなみんなのために、ここ横浜に来たんだと大きな声で叫ぶ。愛と愛で互いを守り、弱く小さな人と人でいられたなら、《君と一緒に歌を歌うだけで強くなれる気がしたから》と歌う彼らの音楽は、聴く者をも強くする。そして「Aqua Timez最後の曲です!」と告げてスタートしたのは、まさにこの日にふさわしい、出会いの奇跡と運命を信じる心、この瞬間を分かち合いたいという願いを綴った「オーロラの降る夜」。さらにReoNaとの共鳴を証明するかのように、彼らが曲のラストで放ったのは……ReoNaのオープニングを飾った「ANIMA」の一節! どよめきと同時に重なるクラップ。太志の《魂の色は 何色ですか》の歌声。「かかって来い、全部!!」「歌えー!」と煽る太志に、シンガロングで応えるオーディエンス。バンドがうねりをあげたアウトロ、「魂の形が、見えたような気がしました! ありがとう! みんな最高です!」と告げた太志に、オーディエンスは歓喜の声と拍手を降らせた。
■【画像】Aqua Timezの渾身のステージ
■出会いの曲「決意の朝に」で最初で最後のコラボレーション
大興奮のなか、激しくアンコールの声が飛び、ステージに現れたのは太志、大介、mayukoの3人。「お前ら最高だわ。ReoNaさんはいつもアンコールはないって聞いてるけど、今日はね……」と太志が言って、ReoNaを呼び込む。いったい何を歌うのか?と期待の拍手を贈る観客に、「曲の説明は曲がいちばんしてくれるから、余計なことは言わない。ただ、俺がめっちゃ好きだと思ったこの曲を一緒にやりたいと思います」。そう告げて、ピアノとギターだけの伴奏で歌われたのは、ReoNaの「まっさら」。1番を太志、2番からをReoNaが分かち合い、理不尽があろうと、後悔ばかりがあろうと《私は 貴方は 私たちは今日も生きて行く》でハーモニーを紡ぐ。シンと静まりかえった客席。太志が小さく囁いた「ありがと」に、大歓声が重なった。
OKP-STARとTASSHIを呼び込み、太志が言う。「最後は……今日集まったみんなに、本当に最初で最後のこの曲を、この子(ReoNa)に託したいと思ったし、演るんで。みんな、覚えとけよ」。深いリズムと歪んだピアノをフィーチャーしたブレイクビーツにのせて、太志が言葉を紡いだポエムをReoNaと掛け合う。そのラスト。太志の「それぞれの悲しみが息できる場所」のフロウに続けて、ReoNaがKT Zepp Yokohamaが「あなたの孤独との合流地点」だと語ると、太志はAqua Timezヒストリーへの万感の想いを込めて「間に合った」とそっと添え、ふたりで声を合わせてAqua Timez×ReoNaの出会いを作り、ReoNaに想いを託された「決意の朝に」の曲名をコール。ReoNaにとっては初めての、Aqua Timezとの貴重な共演。Aqua Timezにとっても初めてのReoNaとのコラボレーション。太志とReoNa、ふたりの優しく、強く、美しいデュエットは、曲の最後に太志が告げた「俺も絶対忘れません。タイトルに偽りなし。ここに集まった孤独の“合流地点”です」の言葉とともに、この日、KT Zepp Yokohamaに集った全員の心の宝箱に、そっとそっとしまわれた。
ラストにはもう一つのサプライズが待っていた。終演後に渡すつもりだったReoNaからAqua Timezへの感謝のプライベートレター(ReoNaスタッフにも内緒で書いてきていたそうだ!)を、ステージで読み上げることに。子どもの頃、ReoNaが出会ったAqua Timezの音楽は、彼女の心の傷が自分ひとりのものではないのだと、絆創膏まで差し出してくれたこと。Aqua Timezの音楽と、それを愛する人の体と心に流れる遺伝子のひとつは、ReoNaの音楽にも流れていること。「今日の思い出を持って、これからも長く長く、遺伝子のひとつを抱きしめながら、お歌を紡いでいきます。いつまでもいつまでも尊敬する先輩たちへ」と結ばれた彼女の手紙を受け取り、2006年に出した「決意の朝に」に「こんな素敵な未来が待ってるとは思っていませんでした。2025年12月で俺たちは最後だけど、そこに間に合って、ほんとに意味深い1日になった。幸せは12月2日、KT Zepp Yokohamaにありましたね」「俺らが今年を走り抜く、最後の背中を押してもらったような気持ちです」と、感慨を込めて語った太志。
12月26日・27日、東京・国立代々木競技場第一体育館でのラストライブ『Aqua Timez 20th Live -OLDROSE-』まで、残された時間はあと少し。最後のライブハウス公演となった一期一会の奇跡のツーマンライブ、世代を超えて受け継がれていく音楽の力と、温かな想いを心に残す一夜の思い出を胸に、Aqua Timezの勇姿を目に焼き付けてほしい。
TEXT BY 阿部美香
■関連リンク
Aqua Timez OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/artist/AquaTimez/
ReoNa OFFICIAL SITE
https://www.reona-reona.com/





















