横浜の街を舞台に、2025年4月に始動した都市型音楽フェス『CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL』が、2026年も4月3日より3日間にわたって開催。
Kアリーナ横浜、KT Zepp Yokohama、臨港パークといったエリア内の複数会場で、アーティストやコンセプトをがらっと変えたステージが同時並行で届けられる同イベントで、4月4日・5日に横浜赤レンガ倉庫 赤レンガパーク特設会場にて「Echoes Baa 2026」が催された。
■エッジの効きまくったブッキング
タイトルにある“Echoes”とは、ソニー・ミュージックエンタテインメントが2024年9月に設立したマネジメントレーベルを指してのもの。本イベントのブッキング、ステージセットや演出はもちろん、“街”からインスピレーションを得た、エリア内設置のクリエイティブ群、2025年に好評だったワークショップやマーケット、そしてあらたに登場したアミューズメントパークなど、会場内に存在するものはすべて、Echoesの考える“これがあったら楽しそう”といった想いから実現に至った次第である。
そうした精神性は、今回のアーティストラインナップに如実に反映されたところ。今回は各日8組の合計16組が出演。前回に引き続き、2年連続出演となるYOASOBIを筆頭に、キタニタツヤ、MAISONdes、さらにはレーベル外からもCANDY TUNEや、CUTIE STREETといったそうそうたる顔ぶれが並びつつ――フェスとは往々にして“そういうもの”だが、特に初日については“この人の次に、どうしてこの人?”という組み合わせがとりわけ目立っていたところ。
あれ以上、褒め言葉としてエッジの効きまくったブッキングは、Echoes以外では実現不可能に違いない。そうした唐突な印象、ともすれば統一感が欠けていると指摘されそうな部分を、今回は“カルチャー”という言葉の延長線上に並べ、包括するような2日間だった。
■【1日目】
◎jo0ji
初日のオープニングアクトに登場したのは、jo0ji(ジョージ)。自身の出身地=鳥取の漁師町で生んだ牧歌的なトラックのうえで、どこか宛てのない“放浪”の香りがする楽曲「条司」など、ジャズや歌謡の流れを汲んだ全7曲を披露。ジャケットの中にジャージを着用した“いなせ”な風貌など、今や令和のはずなのに、平成スターを見ているような感覚にさせられる。ともあれ、フロアの好反応を見て両手でガッツポーズをしたり、マイク片手にはしゃいだりと、決して気取らず、素直な人柄を受け取れたことがとても印象深い。
◎YOASOBI
フェス本編のトップバッターは2025年同様、YOASOBIが務めることに。開幕曲も前回と同じく、挨拶代わりに叩き込む「アイドル」。この日は終日、雨が降ったりやんだりと天候が不安定だったものの、彼らのステージではかなりの本降りに。曲中の《流れる汗も綺麗なアクア》も、また別の意味に聴こえてくるし、3コーラス目で一気にテンポが落ちる場面。ikuraの歌唱は、もはや演劇のそれに近い役への“のめり込み”ぶりだった。
このあとに披露した「祝福」「怪物」などにも表れていたのだが、ここ最近のYOASOBIは、パフォーマンスから伝わる気迫がひとしおである。たとえ、それとはまた違った方面へと進むチップチューンナンバー「PLAYERS」を歌ったとしても、ikuraが何度も両腕を空に伸ばし、フロアのシンガロングを促してくるなど、体育会系ともまた違う、心地よい一体感。YOASOBIの音楽は今、“導き”のフェーズにある。
そんな彼らだからこそ、フロアにこんな質問を投げかける。J-POPは今、世界に届いているか? ――Ayaseは2025年もこう質問し、その際は観客がざわざわとしていたとのこと。だが、この一年でのさらなる躍進もあってだろう。2026年は全員とは言わずとも、賛同の声がかなり上がっていた。彼らの導く音楽は目の前のリスナー、そして配信を通して、世界の意識を徐々に変え始めている。
そのうえで、フェス当日が自身の誕生日だったAyase。会場全体からのお祝いを“職権濫用でいい気分になれる”とコミカルな語彙で語ったり、あるいはikuraが衣装のスカートにお手製のてるてる坊主を付けてきたり。ふたりのいつまでも変わらない部分に、愛しさを抱いて仕方がない。
◎Awich
続くは、“日本のヒップホップクイーン”こと、Awich。今回は横浜というロケーションも相まってか、用意してきたのはサックスを含めたバンドセット。ぐっと洗練された音色のステージである。「Wax On Wax Off」など、アグレッシブな楽曲を披露しつつ、「Remember」では《楽しむことへのギルト/ずっと抱えながら生きるの?》というラインを、あえてゆったりとしたフロウで届けるなど、リリック一つひとつを噛み締めさせるような時間が流れ、オーディエンスを深く引き込んでいった。
持ち時間終盤は「沖縄に来て、遊んで、恋でもしちゃいなよ」と、沖縄旅行への甘い誘いをした「Come Down」を皮切りにして、“沖縄プレゼンタイム”に。太陽が照りつける灼熱のイメージではなく、本州にはない亜熱帯で色気のある、湿度の高い夜のバイブスを提示したこの曲。そこから同郷のCHICO CARLITOをゲストに「RASEN in OKINAWA」を披露。自身のバースを締め括る《行くぜ赤とんぼ》は《行くぜ赤レンガ》にアレンジして、フロアを大きく賑わせた。
◎NOMELON NOLEMON
jo0ji → YOASOBI → Awichと来て、“なぜここで?”と度肝を抜かれてしまうのが「Echoes Baa」。3番手を担うは、NOMELON NOLEMONである。ツミキの主張を代弁したエレキギターに、よい意味でキッチュなシンセサイザー、そして浮遊感の漂う“みきまりあ”のボーカルが三位一体となるふたりの音楽。サイダーポップな「透明水曜日」や、純真な想いが伝わる「雨にうたえば」など、NOMELON NOLEMONは、どこから切り取っても瑞々しい音が鳴っている。
中盤、ツミキがAyase(YOASOBI)同様、J-POPは“カルチャー”として世界に広がり、通用する。そこに自分も参加できていて幸せだと語っていたが、彼らの音楽を浴びれば、ポップスの振り幅を感じられること間違いない。
◎Balming Tiger
「Echoes Baa」史上初。2日間を通して、唯一の海外アーティストとなったのが、韓国発のオルタナティブバンド=Balming Tiger。この日はメンバー全11名のうち、1DJ 4MCの体制で登場してくれたのだが、彼らのステージはかなり異彩を放っていたように思う。
というのも、前半で見受けられたのは“式典バイブス”。基本陣形として、MC4名がステージ中央で円形となり、腕を広げてゆったりと回る。あるいは、腕を“とまれ”のポーズにして、一列で並ぶ。かつ「Kolo Kolo」では、《Hakuna matata matatata(スペイン語で“なんとかなるさ”の意)》と呪文のような言葉を永遠に呟いていく。日本人リスナーにとっては特に、“考えるより感じる”な時間となったのではないだろうか。
特に、蛍光グリーンの髪色がひときわ目立った、ラッパーのOmega Sapien。彼については間違いなくラップがうまいはずなのに、あえてその先で“誰よりも真剣に、真剣な顔つきで、ちょける”。「Buriburi」では、首から上を固定して無表情なまま、歌詞にあるとおり“尻”を軽快に左右に振るシュールさ。と思っていたら、ラストナンバー「Trust Yourself」ではスムースにラップし、あえてラフに書くが、普通に“いい曲”を放ってくる。彼らのステージ終了後、ひとつの式典、あるいは儀式を終えたかのような謎の達成感を共有したのは、現地でないとわからない感覚だった。Balming Tiger、本当に何者なんだ。
◎CHiCO with HoneyWorks
おそらくは世界で「Echoes Baa」だけだろう…Balming Tigerのあとに、CHiCO with HoneyWorksをぶつけてくる音楽フェスは。驚かされたのは、それのみならず。登場曲「決戦スピリット」ではハツラツとした歌声を響かせつつ、次曲「くすぐったい。」では息を多く混ぜたエアリーな歌声にすぐさま切り替えるなど、“歌い分け”の妙に耳を惹かれる。さらに、代表曲のひとつ「世界は恋に落ちている」では和やかなムードに包まれつつ、等間隔に鳴るスネアが恋心の高まりを表現するようにも思えた。
終盤には、弦楽器メンバー全員が前にせり出て、最高楽曲「アイのシナリオ」を披露。《世界を敵に回したとしても》と歌うインファイトなロックチューンだけあって、CHiCOもまた、まっすぐ、ひるむことなく、歌声を放ってくる。実際はそうではないと前置きしつつも、モニターを見ればずっと目が合っているのでは? と思わされる感覚にさせられるほど、歌声の中にインファイトな姿勢と説得力が宿っていた。
◎新しい学校のリーダーズ
新しい学校のリーダーズについては、冒頭から響くトランペットの音色が印象的で、メッセージ性の高い歌詞とキャッチーで中毒性のあるメロディが特徴的な「Change」、スマッシュヒットとなった「オトナブルー」など、様々なハイライトがあるなか、注目したいのが、セーラー服に重ねる形で、背中に“青春日本代表”の文字を背負った長ランを羽織って披露した中盤以降の「Pineapple Kryptonite (Yohji Igarashi Remix)」「Fly High」。
どちらもダンス特化の楽曲なのだが、こうしたカードは特に、海外にて勝負をするうえで欠かせないもの。なぜならどんな精神状態だろうと、フロアを強制的にブチ上げてくれるから。特に「Pineapple Kryptonite (Yohji Igarashi Remix)」では、どうしてハウリングが起こらない? と思わされるほど、耳をつんざくようなSUZUKAののけぞりシャウトも繰り出され、フロアの熱が確実に一段階、上がったように思う。
さらに「One Heart」にて、SUZUKAがフロアに下り、履いていた靴下をファンに手渡し、最前列の柵の上に立ち上がり…そのまま、フロアに突撃(柵に立ったのは、2日間を通して彼女だけである)。もはやどこに居るのかわからなくなるほど、中央のほうへと人波をかき分けていった。楽曲、衣装、演出、もちろんパフォーマンスも。なるほど、海外でも通用する全方位型のエンターテイナーたちなのだと、改めて見せつけられる時間となった。
◎キタニタツヤ
初日のヘッドライナーを任されたのは、キタニタツヤ。19時を過ぎた横浜。この時間だからこそ出せる無数のレーザー、そして大雨の粒が嵐のように飛び交うなか、マイク1本の身ひとつで登場したのが、飛ぶ鳥を落とす勢いのシンガーソングライターである。
ボーカルのドライヴ感、畳みかけるようなブレイクで疾走感に運ばれる「ずうっといっしょ!」、《千鳥みたいにジグザグに踊っている》と歌いながら、本人はピンピンとした足取りで、楽しい気持ちが歌詞を超えて伝わってきた「Stoned Child」など全13曲を披露したうち、ハイライトとなったのは「火種」。こちらはステージ終了の4時間後、4月5日に配信リリースした、オリエンタルなシンセ音を特徴とする新曲である。
歌詞に込めた想いは、空気や風がないと、炎は燃えない――偶然ながらもまさに今、キタニがステージで置かれている環境に通ずるものを感じられ、終盤は何度も身体を前後に折りながら「揺れろ、横浜!」と、渾身のボーカルを届けてみせてくれた。
終盤に演奏された「まなざしは光」は、白く光るサウンドで、人を優しく包み込む楽曲。次曲「青のすみか」も同様。キタニが我々を認めてくれることで、我々もまた人と正面からぶつかり、まっすぐ向き合いたくなる――そんな気持ちにさせられる、祝福や救いの意味を持っているように思えた。
ステージ序盤には、キタニからこんなMCがあった。自分は中学時代、大型フェスで“トリ”を飾るようなアーティストを腐す“サブカルクソ野郎”だった。だが、いざその立場になってみると、他アーティストよりも15分長い持ち時間を与えられ、おまけにYOASOBI、そして2日間を通してステージ呼び込み映像を担当した、あの大人気のパペットスンスンを差し置いての登場である。決して、テキトーなことはできない。そんなあの頃の自分を張り倒す気持ちで、全身全霊のステージを我々の瞳に焼きつけさせてくれた。もちろん中学時代のキタニ少年も、どこかでしっかりと“喰らっていた”と強く信じること他ならない。
■【2日目】
◎華乃
打って変わって晴天となった2日目は、華乃によるオープニングアクトから開幕。持ち前のメロウネスな歌声を、キーボードとドラムの小編成で味わわせてくれる。彼女自身、元 GANG PARADEのメンバーにして、2026年2月にEchoes所属を発表したばかり。この日に披露した全3曲もすべて、4月15日にリリースを控える初作品『トキメキ詐欺-EP』からひと足早くピックアップしたものだ。
なかでも表題曲「トキメキ詐欺」は、UKガラージ調のトラックで、アイドルさながら“きゅるん”と効果音が付くようなボーカルが耳に残る。曲数こそまだ少ないながらも、伸びやかなパフォーマンスが健やかな印象を与えるひと時だった。
◎Aooo
フェス本編で最初に登場したのは、石野理子、すりぃ、やまもとひかる、ツミキによる4人組ロックバンド・Aooo。ツミキは前日のNOMELON NOLEMONに続き、こちらで2日連続での登板となる。
全体を通して、都会の喧騒が似合う情報量の多い楽曲が続くなか、まさにそれを言い当てたかのような「ネオワビシイ」を3曲目にドロップ。曲中には石野がドラム横にあるミニシンセを奏でるのだが、これがまたおもちゃの音がするようにかわいらしい。
演奏面で言うと、初日からいくつものバンドを見てきたなかで、各パートが最もバランスよく音を鳴らしているのが、Aoooだったと言っておきたい。ボーカルだけを前面に押し出すわけでなく、かつその引き立て役になるでもなく、ギター、ベース、ドラムとも存在感、一貫してのダイナミクスさを保った演奏。これをとりわけ感じたのが、ボーカルのメロディラインがハイトーンを維持し、明らかに他楽曲と異なっていた9曲目「サラダボウル」だった。あくまで感覚論となるが、一聴してすべての楽器の音が判別できるパフォーマンスだったとも言い換えられる。
そんなバンドのコンビネーションが、間奏にてドラムのツミキのもとに集まり、全員でバンギングしたクラッシュナンバー「CRAZZZY」、すりぃとのユニゾン歌唱で見せ場を作った「Yankeee」などから垣間見えた彼らのステージ。ここで披露した「Yankeee」の模様は、4月11日放送のNHK『Venue101』にてオンエア予定とのこと。会場の空気感を思い出すべく、ぜひリアルタイムで視聴していただきたい。
◎CANDY TUNE
14時を前にして、ステージ前方エリアに親子連れが目立つように。フロア全体の平均年齢が一気にぐっと下がったところで、KAWAII LAB.所属による“カワラボタイム”がスタートする。登場したのは、CANDY TUNE、CUTIE STREETの2組。子どもたちから彼らの保護者、そして大きなお友だちまで、仲よく“振りコピ”を楽しむ姿に、老若男女からの幅広い支持を感じられたところだ。
まずは、“祭り”のように怒涛のステージを繰り広げたCANDY TUNE。「エトセト LOVE YOU」に始まり、俊敏なカメラマンとの連携攻撃でひとりずつ寄りカットを綺麗に押さえてくる姿は、さすがプロのアイドル。続く「キス・ミー・パティシエ」では、ステージ中央にて円形に広がってのダンスを見せていたかと思えば、別シーンでは他メンバーが急にぱっとセンターに飛び込んでくるなどと、観ているだけで目が楽しい。軽率に好きにさせられてしまう。
先程、彼女たちのステージを“祭り”と称したが、その理由は4曲目以降、MCなしでなんと5曲連続でのパフォーマンスを披露したから。特に4曲目「HAPPY BOUNCE BIRTH」は、懐かしのアイドルソングな雰囲気を漂わせつつ、タイトルどおりに我々の誕生日を、朗らかなユニゾン歌唱でお祝いしてくれる。
曲中には、片手でマイクを握りつつ、もう片手で半分だけのハートを作り、さらには片足は大きく上げてキックを…と、身体の中で動かせるパーツがもうないのでは? と思えるほど、全身を使ってハピネスを生成する場面も。こちら側はステージを拝見しているだけで、何も成し遂げていないのに。勝手に自己肯定感を上げてくれる、本当にありがたいCANDY TUNEの面々たちよ。もちろん、最後を締め括るのは代表曲「倍倍FIGHT!」。説明不要。メンバーMCにあったとおりで、“倍の倍”に楽しませてもらった。
◎CUTIE STREET
そこからバトンを受け取ったCUTIE STREET。先程に比べると正統派アイドルな雰囲気を感じたか…というのが勘違い。2曲目「キューにストップできません!」は、パラパラの振り付けやユーロビートの要素を盛り込んだ、飛び道具的な90’sパーティーチューン。歌詞の中で《エンジン7速MTキュースト/生まれつきNO/スピード狂!》など、グループの勢いに当て書きしたような歌詞を、煌めくアイドルボイスであっけらかんと歌いこなすのが、よい意味で末恐ろしい。
おそらくは初見だったであろうフロアの観客が特に頷いていたのが、川谷絵音が作詞・作曲を手掛けた「ナイスだね」。人肌の温もりを感じるアーバンなサウンドで、特に川本笑瑠のほわんと溶けていく歌声と相性抜群。ステージ上でサムズアップをしながら一列に並び、《ナイナイナイナイナイスだね/何か今日ナイナイナイスだね》と、浮遊感あるサビの歌詞を唱える光景に、恋心以外の何物でもない感情をもれなく抱かされてしまう。
なお、こちらも締め括りには、“必殺技”こと「かわいいだけじゃだめですか?」をドロップ。「横浜の皆さん、もっともっと盛り上がっちゃだめですかー?」という曲フリの時点でこれ以上の盛り上がりはないと想像させられたにもかかわらず、途中の“ぱるたん”こと桜庭遥花コールは、さすがに横浜中とは言わずとも、『CENTRAL』本会場のKアリーナ横浜くらいには届いていた気がする。こうして8人の妖精たちにより、《愛を取り合う戦い》に強制参戦することとなった。
◎asmi
“初見”繋がりで言うと、フェスということで“リアルでありのままの姿”を見せ、“切っても切れない縁”をあらたに結びに来たというのが、asmi。その言葉に違うことなく、ヒットチューン「PAKU」で、ステージ下にあったカメラをかがんで覗き込み、顔が収まらないくらいに近づくなど、あどけないステージングでとかく癒される。
全9曲を歌唱したうち、中盤は“新生活メドレー”として、4月8日に配信リリース予定の新曲「あわ」に続けて、「そんなもんね」「東京の夜」の2曲を披露。このうち「東京の夜」は、自身が2024年に上京したときの想いを綴ったミドルナンバー。大切な人から贈られた《大丈夫よって言葉》など、アーティストとしてのasmiでなく、その人本人の優しい輪郭が我々の脳裏にもふわりと描かれる。
その後の「anpan」では《君の顔をanpanにして食べたい》と歌ったあと、《絶対そんなことしいひんよ》と、子守唄のようにゆったりと、柔らかな語り口で楽曲を締める。ここでもまた、彼女のボーカル、その先にあるソングライティング力の底力が垣間見られた。《絶対そんなことしいひんよ》なんて冗談を言い合い、それでお互いに心の安らぎをはんぶんこできる関係性。短い時間ながら、多くの観客が彼女とともに、“リアルでありのままの姿”を見せ合うことができたのではないだろうか。
◎MAISONdes
六畳半の部屋がひしめく、どこかのアパート。そこに住まう“入居者”たちが入れ替わり立ち替わりで登場したのが、MAISONdesによるステージだ。今回、管理人より送られてきたのは、asmi、すりぃ、日曜日のメゾンデ、『ユイカ』、KAFUNE(※「E」は、アキュートアクセント付きが正式表記)、華乃、みきまりあ、ツミキの総勢8名。MCなしで、なんと10曲をも披露してくれた。
まずは、直前に自身のステージを終えたばかりのasmi×すりぃ。「アイワナムチュー」にて、先程に比べて声のエッジをほわっとさせた歌い方を通して、恋の虜になっている様子を表現する。タイトルコールの時点で、フロアがざわついたのが、『ユイカ』による「けーたいみしてよ」。途中までは特に悪気なく、さらりとこれを尋ねてくるあたりにも恐怖を覚えていたのだが、最後はもう“観念しなよ?”といったニュアンスで、その表情から笑顔が消えた。こちらは2日目の中で特に歌い分けの妙を感じたシーン。
終盤はasmiが再び姿を現し、ツミキとともに「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」をスペシャルカバー(ちなみに、ツミキはこれで両日通算3ステージ目に)。切れ味鋭いグルーヴに対して、asmiの言葉をにゅっと伸ばす歌唱法が相性よく重なっていく。まるで持ち曲のように音を操り、最後のワンフレーズを歌い終えると、“これはカマしただろ”と言わんばかりに、得意げなドヤ顔を隠しきれていなかったasmi。そのまま「ヨワネハキ」でこの時間を締め括り、最後は「みんな、新生活も元気に行ってこい!」と、我々の背中を力強く押してくれたのが頼もしい限りだった。
◎羊文学
羊文学は、ホンモノである――彼女たちのステージを観て、そんな感想が真っ先に思い浮かんだ。これは決して、他のアーティストをフェイクだと扱っての記述ではない。純粋に、身体が脱力して“ぼーっ”とステージを眺め続けてしまうほど、引き込まれる音楽が鳴り続ける35分間だったのだ。
無理もないだろう。時刻にして、18時半。朱色と水色を半分ずつにしたマジックタイムのなか、そよ風を浴びながらの羊文学である。《腐ったって生活は続いてく》と、退廃的な想いを綴った「春の嵐」の歌詞が、本来とは反対の役割をもって、なぜか心の疲れを浄化していくような。
エモーショナルな気分に浸りながら、音作り、ビートともシンプルでミニマルな「いとおしい日々」では、「いい感じに周りに合わせて」と、コール&レスポンスの面でやや無茶振りを求められた「GO!!!」を楽しませてもらいつつ、次第に空から赤みが消えていく。すると、狙い澄ましたかのように、ブルーなムードの「cure」で、改めてこの空に似合う感傷的な気持ちに“ぼそっ”とではないが、声を絞り出すようなニュアンスを交えながら、我々はその声にゆったりと、水の上をたゆたう感覚にさせられた。
終盤に披露したのは、代表曲のひとつ「more than words」に、4月2日に配信リリースしたばかりの新曲「Dogs」。順に「more than words」を浴びて感じたのが、羊文学の音楽は他アーティストと比較して、明らかに“リアル寄り”の存在であるはずなのに、聴き手の気持ちをここではないどこかへと連れ去ってくれるということ。
かと思えば「Dogs」で掻き鳴らすは、ディストーションをバキバキに施したギター。真っ赤に染まった照明のなかで、先程までと違う衝動をそのままぶつけるような激しいボーカルで――我々は再び、現実にぐいっと引き戻される感覚を覚えた。どちらにせよ、その場にいながら幽玄なオーラを纏っていた彼女たち。ステージ後に心に残された気持ちをもう、言葉では説明できない。
◎星街すいせい
2日目のヘッドライナーを務めるは、星街すいせい。押しも押されぬ人気バーチャルアイドルとして、約2年半ぶりに立ったという野外フェスのステージ。見事、夜の横浜を煌めくダンスフロアに変えてみせてくれた。
この日の衣装は、腕部分がバルーン形状になった白のシャツ。パンツは、縦に垂らしたチェーンや、アンクル部分の格子状の装飾をブロンズカラーで統一したゴージャスなものに。セットリストは全10曲で、ブラスファンク調の「プリマドンナ」、連続ブレイクでフロアを“踊らせモード”に突入させる「もうどうなってもいいや」、コーラスを聴かせつつ、体温を下げた歌声でのアコースティックナンバー「ムーンライト」と、人気曲を惜しみなく披露していく。
なかでも注目は、この2日間で間違いなく誰よりも稼働していた、ツミキのプロデュース曲「ビビデバ」。もちろん本人をギターで迎え入れ、星街も普段とはややテイストの違う、“癖キャッチー”なボカロックを乗りこなしていく(ツミキはこれで、両日を通して4ステージをこなす特大稼働となった)。
また途中、彼が星街の顔を覗き込み、“どう? 楽しい?”と尋ねるように、にこりと眼差しを向ける瞬間が本当に愛らしく映った。そして、2日間の最後を飾ったのは「ソワレ」。ヘッドライナーとして届けた、約45分間の星空旅行。会場の誰よりも楽しく、ステージを跳ね回っていた彼女の姿を、しばらくは忘れることができないことだろう。
■Echoesの遊び心が創造するカルチャーの交差点
ここからは、本稿冒頭に記したワークショップなどについて触れていこう。設置位置としては、会場後方エリア。ステージ以外の部分――フェス入場後、どこを見わたしてもカルチャーの“るつぼ”、あるいはや“カルチャーの溜まり場”や“交差点”となっていた「Echoes Baa」。2026年は音楽以外のコンテンツが2025年からパワーアップを遂げ、ファッション、ワークショップ、ゲーム、スケートボードなど、音楽と隣接するカルチャーにますます手を広げていたように思う。
まずは、前回も開催されていたワークショップ「シルクスクリーン体験」から。こちらは、本フェスのオリジナルTシャツ、巾着、3種類のトートバックに、Awich、MAISONdesら11組のアーティストコラボロゴを好きな位置、好みのカラーでプリントできるというもの。それぞれのロゴが設定された版(スクリーン)にヘラを滑らせ、のせられたインクを押し出す…という作業自体はシンプルなものだが、そもそも日常で触れる機会のない体験なだけに、なんとも新鮮な感覚にさせられる。
また、色選びやロゴの置き位置などは、十人十色な個性が出るもの。世間一般に“白は200色ある”と謳われるなか、それを証明するかのように、白色のTシャツに、また違った白色のインクを当てて、ブランドロゴのように見せる猛者もいたと聞いている(実際、綺麗に仕上がっていたそうだ)。会場での着替えはもちろん、土産として記憶と記念に残るものとして、好評を博していた。
音を身に纏うワークショップとしては、タトゥーシールとジェルネイルシールも用意。前者ではキタニタツヤとCANDY TUNE、後者ではYOASOBIと羊文学とそれぞれコラボ。特に2日目は春先の快晴で、Tシャツでの来場者も見受けられただけに、顔や手だけでなく、腕の見える位置に貼られるケースも少なくなかったのだとか。購入後、好きなシールを選んで霧吹きで装着するだけ。デザイン自体も線の細かい繊細なもので、手軽にかわいく、おしゃれになれる人気アイテムとして扱われていた(ちなみに、YOASOBIのikura本人もマイクを握る右手にユニットロゴを貼ってくれていた)。
一方、ジェルネイルシールと聞くと、女性のアイテムだと思われてしまいそうだが、ブース内はいつ見ても男女半々といった具合に。想像してもらいたいのだが、音楽フェスで欠かせないのがスマートフォン。タイムテーブルの参照に、写真撮影にと、あらゆる出番があるなかで、そのたびに目にする手元が彩られていると、テンションが上がる。これは、男女問わず同様に違いない。タトゥーシールと同じく、ネイルシールも購入後、ものの数分で装着が可能である。“フェスでもおしゃれ”は、こうした部分から実現できるのだ。
物販としては、2025年同様に「Echoes Maaket」が。その後方には、藍にいな、空山基によるアートウォール。両作品の間には、ステージを終えた出演アーティストがサインを書き残していくパネルもあり、来場者同士で記念撮影をし合う光景が見られたことも記しておこう。
そして、2026年の目玉となったのが「Echoes Amusement Park Supported by 三菱商事都市開発」。こちらは鑑賞・体験型アトラクションとして、クレーンゲーム、スケート・ラジコンパーク、ゲームエリアの3方向で楽しめるものに。上から順に、子どもたちが多く群がっていたのが、ぬいぐるみやキーホルダーなど、パペットスンスンのプライズが詰め込まれたクレーンゲーム。両日とも夕方を待たず完売となっており、さすがはキタニタツヤ並みの人気だと、しみじみと思わされてしまう。またスケート・ラジコンパークでは、大きなドラム缶を飛び越えるスケートボードのパークセッションや、実際にボードやラジコンに触れる時間が設けられたりも。
そして、規模感として建物自体がかなりの大きさとなっていたのが、最後に紹介するゲームコーナー。こちらは友だちの部屋のような秘密基地を模した空間で『Apex Legends』など、Electronic Arts社提供の5タイトルをプレイできるというもの。ラインナップとしてはスケートゲーム『skate.』、世界中のリーグ、大会、クラブ、選手が登場する『EA SPORTS FC(TM) 26』などが用意されていたなか、特に後者はモニター前に大きなソファーが鎮座していた。もちろんフェスのため長居は難しいものの、それでもホスピタリティの塊である。リラックスした空気感は飾らずくつろげるし、音楽以外の分野に目を向け、頭の息抜きができた点でも非常に救われるブースとなった。
とりわけ若い世代に当てはまることだが、現代社会の全体傾向として、音楽を軸にゲーム、ファッション。さらには今回こそスコープ外ではあったものの、映画などのカルチャーすべてに横断的に触れている人材も少なくなっている。ともすれば、知識を広く吸収すると“にわか”と冷笑されがちな世の中。「Echoes Baa」は、そうした世代が持つ幅広い興味関心への受け皿となり、エンタメに対する多種多様な“面白そう”に応える空間だったと言える。
特にワークショップの面では、横浜という周辺に魅力的な観光施設が多数存在し、そちらにも来場者が程よく分散しつつ、ネイルシールなどにはエリアオープン時から変わらず30分程度の待機列が絶えなかった点で、しっかりと“ウケていた”と評価できるのではないだろうか。もし2027年も開催があるとして、この“カルチャーのるつぼ”は、どのような進化や変貌を遂げるのだろう。次の桜が咲く頃、横浜赤レンガ倉庫に再び集合する他ない。
なお、YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』では、本フェス当日の模様を1週間の期間限定でアーカイブ配信することが決定。初日公演は4月18日、2日目公演は4月19日のそれぞれ19時より公開となる。もし見逃したパフォーマンス、あるいは他会場で気になっていたものがあるとしたら、この機会にぜひチェックいただきたい。
■【画像】『CENTRAL 2026』「Echoes Baa」会場写真

TEXT BY 一条皓太
PHOTO BY Kazumi Watanabe、Kakeru Takeuchi、Shun Pruneda
■関連リンク
『CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2026』OFFICIAL SITE
https://central-fest.com/


























































