今井美樹の全国ツアー『今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 〜smile〜』が8月6日、東京国際フォーラム ホールAで開催され、オフィシャルレポートが到着した。
■“私たち”に、新たな“あの頃”の想い出として刻まれた、とても贅沢な夜
今井美樹の全国ツアー<今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 ~smile~>が、8月6日、東京国際フォーラム ホールAで華々しくフィナーレを飾った。
今井はシンガー・デビュー40周年となる2026年、約8年ぶり通算21枚目のオリジナル・アルバム『smile』をリリース。そして5月16日に埼玉・サンシティ越谷市民ホールからスタートしたこのツアーは、全国23カ所25公演で開催され、チケットはすべてソールドアウト。その25公演目となった最終日も、満員の5000人の観客が会場に集い、“今井美樹”というシンガーだけがもつ、大人の洗練された歌の美学に酔いしれた。
開演数分前。場内に流れていたBGMが、ジャズのスタンダード・ナンバー「A列車で行こう」に変わる。そのピアノの調べに身を委ねていると、場内の照明が落ち、バンドメンバーがステージへ。観客の期待を表すかのような拍手が起きると、BGMと入れ替わるようにドラムのスウィング・ビートからバンドセッションがスタートした。すると舞台袖から、白いドレープトップスとエレガントなエメラルドグリーンのワイドパンツを身にまとった今井美樹が姿を表す。笑顔で両手を広げ、颯爽とステージの中央に立つ彼女。ひときわ大きな拍手と歓声が沸き起こった。
バンドのセッションはそのままオープニング曲のイントロとなり、そして今井が歌い始めたのは、彼女がシンガーとして飛躍するきっかけとなった初期曲「彼女とTIP ON DUO」だ。元々が跳ねるリズムが軽快な曲だが、この日はよりジャジーなアレンジで、バンマス・河野圭(Key)のピアノと、なかむらしょーこ(Bs)のウォーキングベースがグルーヴを牽引する。そこに今井の歌声が乗ると、爽やかな風が通り過ぎていくようなモダンなポップスへと昇華していき、会場はすぐさま、彼女のカラーに染まっていった。
この曲を満面の笑みで歌い上げた今井は、観客に向かって深々と一礼すると、続いて始まったのは「微笑みのひと」。イントロでの川江美奈子(Cho&Key)の印象的なコーラスと共に、ステージは落ち着いたブルーの照明へと変わり、今井の表情もクールな雰囲気へと移ろっていく。それでも、真壁陽平(Gt)のギターソロ時には再び今井は笑顔を見せ、左右の観客、そして2階席にも手を振り、柔らかな空間を作り上げていった。続いて、これまた初期を代表するバラード曲「瞳がほほえむから」では、当時の印象はそのままに、より円熟味を増した“今”の今井の歌をたっぷり届けてくれるという極上の時間を堪能させてくれた。
ここで最初のMCへ。2023年にスタートさせ、今回で3回目の開催となったコンサートシリーズ<Our Songs!!>について「自身にとってとても大事なもの」だと言う今井は、「“My Songs”でも、“Your Songs”でもない、私たちの“Our Songs”です」と、このタイトルに込めた想いを観客に告げた。
「私たちが一生懸命に生きてきた人生の中で、人それぞれに、大切な音楽、大好きな音楽と共に、ふっと見えてくる懐かしい想い出があると思います。たぶん、今井美樹の曲の中にも、みなさんがそう感じてもらえる曲があるのではと思い、それをみんなで共有し、音楽を聴きながら、自分自身をもっと好きになる、大切に思えるきっかけになってくれればと<Our Songs!!>を始めました。今回はそこにニューアルバム『smile』の新しい曲も加わり、懐かしく、そして新しい今井美樹をお届けしたいと思っています」
こうして、約8年ぶりに制作されたアルバム『smile』から、「One more smile」「美しい場所~Final Destination~」「VOICE」の3曲を披露。「One more smile」では、あえて声を張らず、耳元で語りかけるような今井特有のボーカルスタイルが実に心地よかった。ただその歌声は、決してか細さや弱さがあるのではなく、声量を抑えてもしっかりとした芯を持っていることを感じられるのは、直に生歌を聴けるライブならでは。そして、さだまさしが初めて今井に詞曲を提供した「美しい場所~Final Destination~」では、さだがヴァイオリンでレコーディングしたフレーズを、このステージでは川江が鍵盤ハーモニカでプレイ。夕焼けを思わせるオレンジの照明と共にノスタルジックさを増したサウンドで、今井の歌もより深く会場に響き渡っていった。
一方で、「VOICE」を歌い終えた今井は、その出来に納得がいかなかった様子で、「こんなことを言うと怒られると思いますが、大好きな曲を、もう1回やらせていただいてもいですか?」と、急遽「VOICE」を再演するというサプライズも。一切の妥協をせず、高いレベルで歌を追求する姿勢は、レコーディングのみならずライブでもそのままであり、結果、よりエモーショナルさを増した2度目の「VOICE」の歌声に、観客からは一段と大きな拍手が送られた。そんな圧巻の歌唱を披露した彼女は、直後に「こんなアクシデントがあるなんてね。ふふふ。でも、2回聴けてよかったでしょ?」と柔らかな笑顔を見せた。
「今年、今井美樹はデビュー40周年を迎えました。40年という長い時間を歩いてこられたのも、本当にみなさんのおかげです。嬉しい時も、迷って一歩も動けなくなってしまった時も、いつも音楽がそばにいてくれて、その音楽をみなさんが受け取ってくださったからこそ、私は歌い続けることができました。だから、もう言いたいことは「ありがとう」しかないんです。どんなに言葉を尽くしても言い足りない想いを、私は音楽に乗せて伝えたいと思っています。そんな感謝の気持ちを込めてお送りいたします」
こうした言葉から、40年前のデビューした年、2枚目のシングルとしてリリースされた「野性の風」が歌われると、演奏が途切れることなく、次の曲のイントロへとつながっていく。そしてステージが満天の星空のように彩られる中、“今井美樹”という一人のアーティストの音楽ヒストリーの枠を超え、J-POP史に燦然とその名を刻む名曲「PRIDE」が始まった。すると自然と客席から、大きな拍手と共に感嘆の声が上がった。
今井の歌声を評価する際、「透明感」や「ナチュラルさ」といった表現が用いられることが多い。もちろんどちらも正解なのだが、それは繊細すぎて壊れやすいガラス細工のような危うい透明さとも、プラスチックのような味気のない無色透明さとも違う。彼女の歌声には、人としての感情や誠実さが自然と伝わってくる温もりがあり、そして光の当たり方によって幾通りにもきらめく彩りがある。
その透明感とナチュラルさを喩えるならば、「空」のようなものではないだろうか。一点の曇りもない青空もあれば、曇天模様や、雨風が吹き荒れる空模様もある。また、朝日が昇る直前の深い青色に染まる時もあれば、燃えるような真っ赤な夕焼けや、月明かりに照らされた幻想的な夜空もある。このように、空そのものは本来、色を持たない透明なものでありながら、いや透明だからこそ、空が描き出す表情は実に多彩だ。同じように今井の歌声も、透明感があるからこそ、人の感情の機微が歌に宿り、聴き手へ純粋なものとして沁み入っていく。しかも複雑な心の動きというものを、何か意図的に、あるいは大袈裟に歌い上げるのではなく、実に自然な振る舞いで移ろわせていく。そのグラデーションが、まるで青空と雨空、昼空と夜空に境界線がないのと同じように、とてもナチュラルなのだ。そうした今井の特色は、デビュー当時から変ることがない。そのうえで、40年という人生の歩みが、さらに深い包容力を生み出していく。この日、一度目のクライマックスとなった「PRIDE」は、まさに彼女の歌の本質が伝わる、ケール感の大きな愛情と凛々しい美しさに満ちたパフォーマンスであった。
ここで約20分間の休憩を挟み、第2部へ濃紺のパンツのスタイリッシュな衣装へチェンジすると、ステージのセットも、第1部の幻想的な世界観から、照明のカラフルさを活かしたポップなモードへ。鶴谷智生(Dr)が刻むミドルテンポの重厚なビートで大人のラブソング「The Days I Spent with You」、そして切なくも穏やかなメロディで深い愛情を綴った「Miss You」という、90年代の懐かしい2曲が続けて披露された。そのどちらも、抑え気味の声色で歌う今井のボーカルと、感情を揺さぶる歪んだギターソロが、美しいコントラストを作り上げていた。
「懐かしい歌を歌う時、私自身、その頃の自分にスッと戻るような気持ちになります。“あの頃”に見ていた景色、街の空気感、たくさんの時間を過ごした仲間が、音楽と一緒によみがえってきます。きっとみなさんにも、それぞれの“あの頃”があるのではないでしょうか。音楽って、ふっと“あの頃”の自分への旅に連れていってくれる、不思議なものだと思います」
こう語った今井は、「いろんな旅に連れて行ってくれる最高の仲間」としてバンドメンバーを一人ずつ紹介すると、「ここからは、みんなで、みなさんの“あの頃”へ旅に行きますよ。もう座っている場合じゃありません。一緒に歌って、一緒に踊って、思い切り楽しもうね!」と観客に呼びかける。すると、大歓声と共に多くの観客が立ち上がり、最新アルバム『smile』から、アップテンポの「Because of you」へ。曲タイトルに“you”が入った楽曲3連発。ただ、しっとりと歌われた「The Days I Spent with You」「Miss You」とは打って変わり、「Because of you」ではイントロから総立ちの観客が手拍子を鳴らし、今井も歌いながらステージを下手から上手まで歩みを進めた。まさしく、ステージと客席の“私たち”が一体となり、全員がこのコンサートを心から楽しんでいた。
その後も、『smile』から軽やかな今井の歌声が心地よい「青空とオスカー・ピーターソン」、村田昭(Key)が奏でるシンセ・フレーズが印象的な爽やかなポップス「雨にキッスの花束を」とノリの良い曲を立て続けに披露すると、そのまま曲間を開けずに、40年前にリリースされた記念すべき1stアルバム『femme』収録の「オレンジの河」へ。「みんな一緒に歌うよ!」と今井が観客に呼びかけ、2コーラス目にはマイクを客席に向け、観客の合唱を誘うシーンも。間奏で村田昭(Key)が奏でるソロを挟んで、さらに畳みかけるように「みんな、一緒に歌う曲だよ! おいで!」と今井が観客に呼びかけると、ステージの照明もカラフルに輝き、大盛り上がりの中で観客と共に「幸せになりたい」が歌われた。
「みなさんと、最高な、同じ時間をこんなにハッピーにすごすことができて、本当に幸せです。どうもありがとう!」
大歓声と大きな拍手にこう応えた今井は、「改めて、人生って長い旅みたいだなって思います」と、デビュー40周年を迎えた今の想いを、誠実に、自分自身の言葉で、静かに観客へ伝えた。
「旅は予定通りに行かないことが多くて、人生も同じだなってつくづく思います。みんなもそれぞれに一歩ずつ歩いてきたから、今日、ここに集えて、私もこのステージに立つことができました。寄り道もたし、突然の雨でびしょ濡れにもなったけど、それでも自分の足で歩いてきたから、こんなに素敵な景色に出会えた。そして振り返ってみたら、ちゃんと自分の道ができているし、土砂降りが止んだら、歩いてきた道がまた見える。きっと私たちは、そんなふうに今まで歩いてきたんだと思いますし、いろんな旅の途中で、きっとこの曲は、みなさんの傍にいさせてもらったのではないかと思っています。そんな“私たち”の大切な曲です」
こう紹介された第2部を締め括る曲は、今井が歩んできた40年間のアーティスト人生の中でも欠かすことのできない大ヒット曲「PIECE OF MY WISH」。ただただ穏やかに、「苦しくても、希望を失わずに生きていこう」と寄り添ってくれるこの歌は、時に聴き手にとって、応援されたり、背中を押されたりする以上の力になってくれる。そうした歌が歌えるのは、ベテランシンガーの中でも“今井美樹”だけが持つ、彼女の人生があるからこそ。アーティストとして、一人の人間として歩んできた40年間という歳月が裏付ける、歌の輝き。人生そのものを語るのではなく、日々の歩みの中で深めていった輝きのコントラストは、実に鮮やかに彼女の歌を彩っていた。
鳴りやまないアンコールの拍手に応えて、黒のドレスにパンツを重ねたモード系のスタイリングで再びステージに姿を表した今井は、長くファンに愛され続けている初期曲「空に近い週末」をアコースティックなサウンドで歌い、そして最新アルバム『smile』の中で、人生の“これまで”の旅路を肯定しながら、“これから”を歌う壮大なバラード曲「Life is a journey」という、新旧2曲を続けて披露した。
「今日、この時間が、みなさんにとって、また明日へ向かう小さな力になってくれたら嬉しいなと思っています。そして今、困難の中にいる方たちの中でも、それぞれの心に寄り添う音楽が、きっと力になってくれることを心から願っています。明日のあなたも、どうか輝いていますように。そして、また元気で会えますように!」
こう言葉を結ぶと、最後に歌われたのは、自分らしく前向きな気持ちで一歩を踏み出そうとする大人のポップス「Goodbye Yesterday」だった。そのラスト。左手を高くかかげて歌い終えた今井は、その手の平をギュッと力強く握った。真っすぐに前を見つめるその眼差しは、自分はこれからも自分らしく生きていくんだという気高さを感じさせる、実に凛とした、力強い美しさが宿っていた。そして、ゆっくりと下ろした左手の拳からふっと力が抜けた時、穏やかな笑顔に変わった今井。大きな拍手に包まれながら、バンドと共に一列に並んで満員の観客に挨拶をすると、最後にメンバーのー人一人とハグを交わす。そして、何度も「ありがとうございます」と言葉を発し、観客に手を振り、彼女はステージを後にした。
アンコールを含めた全18曲中、80年代のデビュー初期作品が5曲、トップアーティストへ昇り詰めた90年代の歌が5曲、そして新譜『smile』を含めた2000年代の曲が8曲という、まさしく新旧を織り交ぜた現時点での“オールタイム・ベスト”と言うべきセットリスト。それは、まるで映画のストーリーのようにドラマチックであり、そして何より、80年代、90年代のヒット曲が、決して懐メロとしてではなく、2026年の今井の音楽として歌われたことが何より素晴らしかった。これは、彼女の歌が時代によらない普遍性があることを物語っているのと同時に、彼女がこれからも歌い続けていくという意志の表れであるかのようにも感じられた。
改めて“今井美樹”という稀有なシンガーの存在の大きさと、その魅力を堪能することができた40周年記念コンサート。その歌が、多くの“私たち”に、新たな“あの頃”の想い出として刻まれた、とても贅沢な夜であった。
TEXT BY 布施雄一郎
■リリース情報
2026.02.11 ON SALE
ALBUM『smile』
https://imaimiki.lnk.to/smilePR
■関連リンク
今井美樹 OFFICIAL SITE
https://www.imai-miki.net/

