■スリリングで想像力を刺激する3ピースバンド
「LOUDNESSが海外に行ったように、ハードロック/ヘヴィメタルのブームを作りたい」(HAL-CA)
これは筆者が以前に行ったインタビューで彼女(=HAL-CA)が語った発言である。LOUDNESSは1983年に初のアメリカツアーを行い、大きな成功を収める。海外進出に関しては82年にイギリスで開催された『レディング・フェスティバル』に出演したBOW WOWが先駆者ではあったものの、ジャパメタブームの火付け役はLOUDNESSと言っても過言ではないだろう。その意志を継承しつつ、次世代ヘヴィメタルの看板を担うトリオがASTERISM(アステリズム)である。LOUDNESS同様、ASTERISMも日本にとどまらず、活躍の場を世界に広げ、SNS動画においても計5,500万再生超えと大バズリ中。ここで改めてバンドの魅力について解説したい。
ASTERISMはHAL-CA(Gu/Vo)、MIYU(Ba)、MIO(Dr)の3ピースバンドとして九州で結成される。バンド名は直訳すれば“星群”という意があり、それぞれ光を放つ星が集まり、さらに輝く集合体(バンド)になりたいという願いが込められている。メンバー個々のテクニカルな演奏力はもちろん、楽曲においても研ぎ澄まされた感性を活かし、五感を刺激するスリリングかつイマジネーション豊かなサウンドを提示している。
■2023年の転機:インストから全編ボーカルへ
ASTERISMの転機は早々に訪れる。2016年にパーラメントやファンカデリックでの活動でも知られる大御所ミュージシャン、ブッツィー・コリンズが自身のFacebookでASTERISMの動画をシェアし、バンド名は一気に広まる形となった。そのブッツィー本人がプロデュース&プレイでも携わった1stアルバム『IGNITION』(2018年発表)においてはメタルインストの可能性を徹底追求。激しくもエモーショナルな曲調により、バンドは飛躍的な成長を見せつける。
▼ASTERISM – Fiction
そこで慢心せず、ASTERISMは新しいチャレンジを試み、バンドのポテンシャルをさらに引き出すことに奏功。第二の転機が訪れたのは2023年に発表したEP『ASIDE』である。これまでゲストボーカルを招いた楽曲はあったが、本EPではHAL-CA自らボーカルを担当し、マスメタル(大衆に届き、響き、愛されるメタル)をテーマに掲げた意欲作をリリース。インストバンドとして活動してきたにも関わらず、突如全編ボーカル入りの楽曲を発表したのだ。しかしながら、今までなぜ歌を封印していたんだろうと不思議に思えるほど彼女の歌声は曲にマッチ。切れ味鋭い演奏力はそのままに、ハイトーンからエモーショナルな歌唱力まで自在に歌いこなす彼女の才能に驚いた人も多かったのではないだろうか。
■メタルレジェンドのカバー動画をガンガン投稿。“リアルとSNS”の世界戦略
バンドの活動範囲もアメリカやアジアだけではなく、フランス、サウジアラビア、タイなど様々な場所でライブを実施し、生のパフォーマンスで現地のファンを魅了する。国内では猟奇趣味的音楽集団の異名を取るスリップノット主催の『KNOTFEST JAPAN 2023』のオープニングアクト、BABYMETAL主催の『FOX_FEST 2024』などのメタルフェスにも出演。両現場でASTERISMのライブも観たが、一家言を持つ洋楽ファンを黙らせる堂々たるステージを見せつける。特に後者ではBABYMETALのさらに次の世代を担うMETALVERSEのバック演奏を務め、スペシャルな演出でメタルヘッズを狂喜乱舞させた。LOUDNESSを含む80’sメタルの素養を若き感性で鳴らすASTERISMの演奏は、METALVERSEが放つ歌謡性と溶け合い、ありそうでなかった極上のケミストリーを生み出していた。
リアルな現場で観客の心を奪う一方、各種SNSでも自身の音楽ルーツを開陳する。LED ZEPPELIN、CREAMのクラシックロックから始まり、BLACK SABBATH、JUDAS PRIEST、IRON MAIDENのメタルレジェンド、さらにWHITESNAKE、DEF LEPPARD、LOUDNESS、DREAM THEATER、KORN、DEFTONES、SLIPKNOT、SYSTEM OF A DOWN、BRING ME THE HORIZONまで幅広い選曲でカバー動画をガンガン投稿。メタル黄金時代の名曲群を筆頭にニューメタルやエレクトロニコアまで網羅し、完璧に弾きこなすバンドの表現力とスキルに驚愕せずにはいられなかった。
■60秒で強烈なインパクト『FLASH THE FIRST TAKE』
そうしたSNS動画でアピールする中、ASTERISMの名を幅広いファン層にアピールしたきっかけは、アーティストによる一発撮りを届けるYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』の新プロジェクト『FLASH THE FIRST TAKE』である。60秒という短尺パフォーマンスにHAL-CAがソロで出演し、「METAL」、「Planet of Metal」の2曲を実演。正確無比な演奏と流麗な指捌きで圧巻のプレイを披露する。前者においては激しいサウンドとは対極を描くキュートなハイトーンボイスを解き放ち、強烈なインパクトを与えてくれた。
■マーティ・フリードマンと共演「GYUTTO!!」
そして、今年はYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』にて、ASTERISMと元MEGADETHの肩書を持ち、メタルファンから絶大な人気を誇るマーティ・フリードマンとのコラボ曲「GYUTTO!!」を同チャンネルで披露。HAL-CAの鮮やかなタッピングをイントロに、マーティは歌心溢れる叙情的なギターを乗せ、そこに7弦ベースを操るMIYUとタイトなドラムを叩くMIOが重なり、骨太なアンサンブルを叩きつける。この曲におけるHAL-CAの発語感に優れたボーカルは気持ち良く、突き抜けるようなサビの歌メロも大きな聴き所と言っていい。また、HAL-CAとマーティがお互いに向き合い、火花散るギターソロ合戦を繰り広げるパートも必聴!ライブで観客が大騒ぎする光景が脳裏に浮かんでくるようだ。さらに後半に入ると、MIYUの低音ボイスによる男臭いコーラスも楽曲の熱量を底上げしている。
■Apple WatchのCMに新曲「Blink of Ray」とともに起用
最後にもうひとつ大きなトピックに触れておきたい。ASTERISMがなんとApple WatchのCM「心臓からのメッセージ」に起用。「ヘビメタが生き甲斐です」というナレーションから始まり、「実際にあったApple Watchのストーリー」というテロップとともに鈴木政博さん(51歳)が登場し、イギリスの老舗メタル雑誌『METAL HAMMER』日本版の黒Tシャツを着込む。そのメタル好きの男性がある日、不規則な心拍の通知を受けて病院に駆け込むことになり、早期発見により再び大好きなメタルのライブに通うことができたというストーリー。そこでASTERISMの新曲「Blink of Ray」が一部流れ、灼熱のライブハウスの様子が画面に映される。まさにマスメタル=大衆に届くメタル、というバンドのテーマを具現化したCM内容になっているのだ。ASTERISMの音楽がますます多くのリスナーに発見されるいい機会になったのではないだろうか。
LOUDNESSの高崎晃のギターを浴び、雷に打たれてギターを弾き始めたHAL-CA。その原体験を忘れることなく、お茶の間にメタルを届けるために邁進し続けるASTERISMの野望に限界はない。現在進行形で夢を叶え続けるパッションに溢れた楽曲を一度聴いてほしい。必ずやポジティブなパワーが体の奥底から湧き上がってくるに違いない。今後のASTERISMの活躍にも要注目だ。
TEXT BY 荒金良介
ASTERISM OFFICIAL SITE
https://asterism.asia/