THE F1RST TIMES

COLUMN

2022.01.10

吉岡聖恵として“まっさら”に咲かせる新しい歌花。1stシングルに見る彼女の心意気

TEXT BY 松浦靖恵

■ひとりのボーカリストとして、ひとりの人間として、“まっさら”に歌と向き合っていきたいと思っている今の吉岡聖恵がいる

いきものがかりの吉岡聖恵が、ソロとして初めてのオリジナル楽曲となる1stシングル「まっさら」を昨年12月22日にリリースし、ソロ活動を本格的に始動した。

これまでも“吉岡聖恵”名義の音楽活動の中で、「夢で逢えたら」(大瀧詠一のコンピレーションアルバム(『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」(1976~2018)』収録)や「糸」(中島みゆき)をカバーし、いきものがかりが“放牧中”の2018年に様々なアーティストの楽曲をカバーした初のカバーアルバム『うたいろ』を発表しており、本作「まっさら」のカップリングに収録されている「夏色のおもいで」(松本隆 作詞活動50年トリビュートアルバム『風待ちに連れてって!』収録)も2021年夏に配信リリースしているが、今作の表題曲「まっさら」は、かねてから親交のある秦 基博との共同制作から生まれた初の完全オリジナル楽曲だ。

いきものがかりは2021年夏に水野良樹と吉岡聖恵の2人体勢になって以降、音楽番組などにも出演、新たな覚悟を胸に抱えた“新生いきものがかり”を多くの人たちに届けている。私はデビュー時から事あるごとにいきものがかりにインタビューをしているが、2人体勢になったばかりのいきものがかりが初登場した『THE FIRST TAKE』の収録直後に取材を行い、“放牧&集牧”、“新事務所の立ち上げ”、“コロナ禍での活動自粛”、“山下穂尊の卒業”などここ数年で大きな変化を経験した2人が、グループとして、個人として、何を考え、どんな覚悟や決意を持ってこれから進もうとしているのかを聞くことができた。

そのインタビューで吉岡はこんなことを言っていた──「もともと変化することに対してはあまり得意なほうではなかったけど、“人生一度だし。やりたいことをやってみよう!”と思うようになりました」「自分にはどんなことができるのかを、いろんな曲でトライしていきたい」と。自分の中に生まれた”変化“を清々しい笑顔でそう話す彼女に触れて、吉岡聖恵がやりたいことってなんだろう、どんなことにチャレンジしてくれるんだろうと、期待が大きく膨らんだ。あのインタビューから数ヵ月後に届いた「まっさら」は、その期待を想像以上に大きく上回っていた。

「まっさら」は、秦 基博への吉岡からの熱烈なオファーが発端となり、彼女の想いを受け取った秦との共同制作は、2021年の春からスタート。秦といきものがかりは共に2006年デビューの同期で、神奈川県出身という共通項もあり、音楽番組やイベントなどで何度も共演している音楽仲間だ。吉岡の初めてのオリジナル作品を作るにあたって、2人は何度もディスカッションを重ね、楽曲を完成させたのだという。

シングルのDVDに収録されている吉岡と秦の対談映像には、秦から届いた曲を聴いてすぐに吉岡の中で歌詞のイメージが浮かんだことや、“まっさら”というワードが自然と出てきたエピソードなど、「まっさら」が完成するまでの過程や制作秘話などが盛り込まれ、和気藹々とした雰囲気で話している姿があった。吉岡聖恵として何をしたいのか。今、何を感じ、どんなことを思っているのか。これからどうなっていきたいのか──。制作の始まりから2人がいちばん大事にしてきたことが、この対談映像からもまっすぐに伝わってきた。

軽快な16ビートに乗ったポップでメロディアスな「まっさら」の歌詞の中には、“望まれた私を演じてた/本当はただ 怖かった”というフレーズが刻まれている。これまで吉岡にとって“歌う”ということは当たり前のようにあるもので、水野良樹と山下穂尊が作った楽曲を“いきものがかりのボーカル”としての立ち位置で歌い続けてきた。歌うことが大好きな彼女にとって歌えることが喜びであることは間違いのない事実ではあったけれど、私たちと同じように後悔や不安や挫折を経験し、心から“まっさら”になれない時があったということを吐露していた。だからこそ、いきものがかりを飛び出し、ソロとして新しい扉を開けたひとりのボーカリストとして、ひとりの人間として、ただただ“まっさら”に歌と向き合っていきたいと思っている今の吉岡聖恵が、この歌の中にいるんだと思った。

歌詞の中の“私を待っていてね”も印象に残る言葉だ。とてもシンプルだけど、これからなりたい自分がいて、そこに向かっている自分がいるからこそ言える言葉だろう。ところで、そのあとに続く“ああ まっさらな 今日へ”の“今日へ”のフレーズが“聖恵”に聴こえた人も多いのでは? 私も空耳しちゃったひとりだけれど、「まっさら」が“誰か”じゃない“吉岡聖恵の物語”だからこそ、”まっさらな 聖恵”と聴こえた空耳もあながち間違いじゃないのではと、ニヤリとする。

DVDには、対談「吉岡聖恵 × 秦 基博 Talk about “まっさら”」のほかに「まっさら」のMVやMVメイキング映像、ソロとして初めて開催したライブ「吉岡聖恵 × THE PREMIUM MALT’S プレミアムナイト 〜プレミアムな泡(Hour)ー!!!〜」などが収録されている。この映像たちには、ドキドキワクワクしながらソロの現場を思いっきり楽しんでいる彼女の姿があり、ライブで歌えることの喜びを隠しきれない彼女の歌があった。

また、楽曲とコラボレーションした短編アニメーション作品『まっさら』には、いきものがかりがデビュー前に路上ライブをやっていた厚木駅前や小田急線などが描かれているので、いきものがかりの軌跡と重ね合わせた人も多いだろう。吉岡は主人公・なずなの声を担当しているが、見ているうちに“なずな”の姿が水野や山下と重なり、新たな一歩を踏み出していくもうひとりの主人公・ゆな(花澤香菜が声を担当)に当時の吉岡を見るような感覚にもなった。そして気づけば、吉岡が誰かの背中を押せるような“なずな”へと成長していることを実感する物語だった。

「まっさら」は、いきものがかりとはまた違う彼女の歌に新鮮さがあると同時に、彼女が“ボーカリスト”としてブレない芯を持っているということを、改めて感じることができる楽曲だった。自分の物語を素直に刻んだ楽曲であっても、歌をまっすぐに届けるという点において、聴いてくれる人たちとの距離が決して離れすぎない。彼女の歌は新しい一歩を踏み出そうとしている人たちに“私も一緒だよ”と至近距離から言ってくれるから、聴き手の中にスッと歌が入ってくるのだ。楽曲を歌い手として届けるという彼女の中にある“使命”のようなものや歌に対する真摯な姿勢は、これからどんな楽曲を歌っても、どんな挑戦をしても、決してなくなることはないのだろう。

先述したインタビューでは、吉岡はこんなことも言っていた。「これからどんなことが起こっても、どんな変化があっても、私はずっと歌っていきたいし、いきものがかりを続けたい。ずっと音楽をしていたいので、強い核を持って、いきものがかりを育て続けていきたい」と。その言葉を今になってよりリアルに感じることができたのは、「まっさら」の中に“もっと まっさらな 歌を”という決意が刻まれていたからだ。ソロとして本格的に一歩を踏み出した吉岡は、より新鮮な気持ちでもっと歌が好きになって、より素直に歌と向き合っている。

今回の制作で得たものや新たな出会い、ソロの現場で感じたことが、今後の吉岡聖恵のソロ活動だけではなく、いきものがかりの新しい曲やライブにどう還元され、どう成長させていくのか。私は今からそれが楽しみでしょうがない。これまで見慣れていた世界が形を変え、自分の目の前に広がっている世界に心躍らせている彼女は、新しい花をいくつも咲かせてくれるに違いない。


リリース情報

2021.12.22 ON SALE
SINGLE「まっさら」



吉岡聖恵 OFFICIAL SITE
https://www.yoshiokakiyoe.com/