THE F1RST TIMES

COLUMN

2022.04.29

秋山黄色の緻密な音楽センスで形成される「見て呉れ」。『With ensemble』からの“ひとつの答案”

TEXT BY 原 典子

ソリッドなギターリフにエッジーなリズム。秋山黄色の音楽は紛れもなくロックでありながら、私たちが抱いていたロックという概念そのものに疑問を投げかけてくる。

■“中途半端な落ちこぼれ”のメッセージ

1996年生まれ、栃木県出身。音楽を始めた時から、秋山はひとりですべてを作ってきた(ジャケットのアートワークや映像制作まで自身で手がけるマルチな才能の持ち主でもある)。地元の仲間とバンドを組んで東京に進出し、チャンスを掴んでメジャーデビュー…という“ロックバンド“のサクセスストーリーは彼には当てはまらない。

子どもの頃からエレキギターに憧れていたが、中学生時代の彼に影響を与えたのはロックバンドではなく、TVアニメ『けいおん!』やニコニコ動画の“弾いてみた”、そしてボーカロイドの曲たちだった。高校生になると、宅録の面白さに目覚め、楽曲制作に没頭するようになる。こうしてインターネット育ちのロックミュージシャンは、YouTubeやSoundCloudなどで楽曲を発表をするところからキャリアをスタートさせていく。

2018年、「やさぐれカイドー」「猿上がりシティーポップ」がSpotifyバイラルチャート上位にランクイン、大型フェスへの出演などで一気に注目を集め、2020年に1stフルアルバム『From DROPOUT』でメジャーへ進出。タイトルのドロップアウト”とは、夢を追ってキラキラ輝いているわけではなく、かといってグレて悪行に走るわけでもない、“中途半端な落ちこぼれ”としての自分を表しているのだという。これといった特徴のない地方都市に育ち、これといった夢も抱けない自分に生きづらさや鬱屈、苛立ちを抱えながら、真夜中にだけ自分を解放する…そんなクズたちが自分以外にもたくさんいるはずだ。秋山の目論見どおり、彼のメッセージは多くの若者の心に刺さった。


楽曲制作においても、いわゆるロックらしい手法はとらない。頭の中でかなり具体的に楽曲を構想してから、DAW(音楽制作のためのソフトウエア)に落とし込むという。ギターをかき鳴らしているうちにできたリフをもとに曲を完成させるといったロックミュージシャンも多いが、秋山の楽曲は緻密な設計図にもとづいて構築されている。そういう意味では、すべてを五線譜に書き込むクラシックの作曲家に近いと言えるかもしれない。

■『With ensemble』と出会った「見て呉れ」

さて、そんな秋山が『With ensemble』と出会った。曲は「見て呉れ」。今年3月にリリースされたばかりの3rdアルバム『ONE MORE SHABON』の冒頭を飾る曲で、ドラマ『封刃師』(早乙女太一主演)の主題歌として書き下ろされた。 骨太のギターロックサウンドだけでなくエレクトロニクスも駆使し、たった3分半とは思えないほど多くの楽想を盛り込んだ重層的な構造をもつ楽曲である。

これまでの『With ensemble』シリーズをご覧いただいた方ならおわかりのように、クラシック楽器のプレイヤーでありながら、ロックやポップスの語法や奏法にも通じている腕利きたちによるアンサンブルは、原曲のエッジやグルーヴを失うことなく再現してきたが、ひときわアグレッシヴな「見て呉れ」においても同様。打ち込みの電子音、ソリッドなギター、うねるようなベース、すべての音が見事にストリングスとピアノに置き換えられている。

アレンジを担当した兼松 衆は「フレーズとアイデアに溢れた、秋山さんの編曲がありますので、アレンジャーとして新しく書いた音符はさほどありません。もしも最初からこの編成のために書かれた曲だとしたら?  の、ひとつの答案であります。」とコメントしているが、秋山の緻密な作曲があったからこそのアレンジだろう。

それでも、やはり原曲とは違う魅力がおのずと浮き彫りになるのが『With ensemble』の面白さである。「見て呉れ」では、なんといっても秋山のフラジャイルな声にはっとさせられる。ヴァイオリンのピッツィカートと絡む冒頭のファルセット、ピアノとストリングスがロマンティックに織りなすサビ前のBメロで聴かせる歌、間奏のあとにピアノに乗せて感情を吐露するフロウなど、原曲では見えなかった繊細な表情が見え隠れする。それは普段は見せない“弱さ”なのかもしれない。けれど、“見て呉れ=外面”の奥に隠された秋山の本質に触れる部分であることは間違いない。

最初のサビの終わりの部分が、ベース(コントラバス)に乗ってジャジィなグルーヴへと有機的に変容していくあたりは、ジャズ・ピアニストでもある兼松らしい。2度目のサビでは、ボーカルとアンサンブルがすっかり一体となり、兼松の言葉どおり“最初からこの編成のために書かれた曲”のように躍動する。

あらたな角度からロックに切り込んだ秋山の実験性は、たとえ楽器がクラシックになってもパワーを失わない。ロックとは何か? を改めて問われている気がした。


秋山黄色 OFFICIAL SITE
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『With ensemble』
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