THE F1RST TIMES

INTERVIEW

2021.08.17

異才にして多才。キタニタツヤが初のアニメタイアップで示す“大きな理不尽のなかで人間が求める救い”

“扇動者”をテーマに掲げたアルバム『DEMAGOG』がスマッシュヒット。さらに昨年末から今年3月にかけて、ファンとの共作による「白無垢」、エジマハルシ(Gu/ポルカドットスティングレイ)をフィーチャーした「Cinnamon」、漫画家・カネコアツシとのコラボによる「逃走劇」、ALIとタッグを組んだ「Ghost!?」を連続リリースするなど、キタニタツヤが精力的な活動を続けている。ヨルシカでベースを担当するなど多方面で才能を発揮しているキタニの新曲は、“ノイタミナ”×”MAPPA”のアニメ『平穏世代の韋駄天達』OPテーマに起用された「聖者の行進」。アニメ作品との初タイアップによって、彼の存在はさらに大きくクローズアップされることになりそうだ。

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希

■自分がいる世界、そこから見えるものを一人称で語りたい

──まずは昨年以降の活動を振り返ってみたいと思います。2020年8月にアルバム『DEMAGOG』をリリース。“扇動者”をテーマに掲げ、ダークかつエッジーな側面が顕著に表れていますが、キタニさんにとってはどんな作品ですか?

2020年は特殊な年だったと思うんですよね。いろいろ考えることもありましたけど、それが十分に詰め込めたかなと。自分の内面だけではなくて、外に目を向けて制作した作品というのかな。そういう視点で作ったことはなかったし、自分としても納得できる作品になったと思います。歌詞を今読み返しても、「なかなかいいこと言ってるやん」って(笑)。サウンドに関してもかなり納得できてるし、今振り返ってもいいアルバムだったと思いますね。

──社会の状況も反映されていた、と。今年は去年以上のカオスですが、この状況も作品づくりに影響はありそうですか?

そうですね…。インターネットを眺めていると、いろんな人が理不尽なことに見舞われて思い悩んでるし、不平不満を抱えている人もたくさんいて。自分はマシなほうというか、制作は滞りなくやれているんですけど、大変な状況であることは実感してます。その影響がまったくないとは言えないですけど、『DEMAGOG』みたいな視野の取り方で表現することに興味はなくて。あくまでも自分の主観というか、自分がいる世界、そこから見えるものを一人称で語りたいと思ってるんですよ。

──なるほど。“主観をもとにして制作した音楽は、リスナーとも繋がれるはずだ”という確信もある?

そうですね、人間には大して違いがないと思ってるので。ただ、“俺はこう思って、こういう曲を作ったけど、どう?”という姿勢はぶらさないようにしたくて。解釈は人それぞれでいいし、何かが伝わってくれたらそれでいいと思ってます。

──そして昨年7月には『THE FIRST TAKE(『THE HOME TAKE』)』に出演し、「ハイドアンドシーク」を弾き語りで披露。反響はどうでした?

いちばんビックリしたのは、「おまえ、『THE FIRST TAKE』出るの?」って高校時代の友達からDMが来たことですね。そいつは音楽好きとかではないんだけど、それくらい『THE FIRST TAKE』は認知されてるんだなと。Mステや紅白と同列にあることにビックリしたし、そのせいでめっちゃ緊張しました(笑)。ファンの人たちも喜んでくれたし、海外の方がコメントを書いてくれたのも嬉しかったですね。中には意味がわからない言葉もあったけど、“!”がいっぱい付いてるから褒めてるんだろうなって(笑)。

■人と一緒に作ることにも目を向けようと

──さらに昨年12月から今年3月にかけて、4ヵ月連続でコラボ曲をリリース。いろいろなジャンルのアーティストとコラボしようと思ったのはどうしてですか?

『DEMAGOG』もそうですけど、これまでは基本的にひとりで完結してるんですよ。だんだんひとりでやることの限界も感じてきたし、人と一緒に作ることにも目を向けようと。他のミュージシャンに弾いてもらったり、エンジニアの方にミックスをお願いすることを重ねてきて、“信頼できる人にお願いすれば、いい結果が出る”という確信も得られて。自分の名義の作品でも、いろんなアーティストとやってみたいなと思ったんですよね。

──以前は人と一緒に制作することに抵抗があったんですか?

めっちゃありました(笑)。僕みたいにひとりで作るところから始めたアーティストはみんなそうだと思いますけど、制作のなかで「こうじゃないんだけどな」ということが起きがちなんですよ。人とやることに馴れてない頃は、「もっとこんな感じで」というすり合わせに時間がかかってしまって、それが結構大変で。制作における意志共有に関しては、今も学んでる最中ですね。

──キタニさんの世代は、DAWネイティブというか、ひとりで音楽を作り上げるのが当たり前ですからね。

そうですね。ひとりで作ってもいいし、バンドメンバーを探してもいいし。トラックメイカーにトラックを提供してもらって、メロディや歌詞を乗せる作り方もあるし、選択肢があるのはすごくありがたいです。

■プロデューサー的な目線は自分の作品の領域でも続けたい

──コラボ曲第一弾はファンと一緒に制作した「白無垢」。ライブができない状況のなか、曲作りを通してファンのみなさんとコミュニケーションを取れたのは素晴らしいことだなと。

去年、週1で生配信をやってたんですよ。何回目かの放送で“今日は曲でも作ってみようか”という感じではじめて。事前に準備したわけではなくて、いきなりやりはじめたんだけど、意外とうまくいったんですよ(笑)。評判もよかったし、喜んでもらえたのかなと。

──1月リリースの「Cinnamon」には、ポルカドットスティングレイのエジマハルシさん(Gu.)が参加。エジマさんとは以前から交流があったんですよね?

はい。ポルカドットスティングレイはロックバンドなので、サウンドの方向性がある程度決まっていて。ハルシはネオソウル系のギターも得意なので、それを活かせるような曲を作ろうと。実際「Cinnamon」でも、こちらの想像以上のギターを弾き倒してくれて、めっちゃ良かったですね。

──“このギタリストにこういう曲を弾いてほしい”というのは、プロデューサー的な発想なのかも。

そうですね。“このアーティストのこの部分と、あのアーティストのこういうところを掛け合わせると面白いんじゃないか”みたいな想像はしょっちゅうしていて。確かにプロデューサー的な目線だし、それ自分の作品の領域でも続けていきたいですね。

■アニメの主題歌を作るようなつもりで制作しました

──「逃走劇」では、漫画家のカネコアツシさんの新作『EVOL(イーヴォー)』とのコラボが実現。どういう経緯で実現したコラボレーションなんですか?

レーベルの担当者に好きな漫画家の話をしてて、その中にカネコアツシ先生の名前もあって。あるとき「キタニくん、もしかしたらコラボできるかも」って言われたんですよ。ちょうど新連載が始まったタイミングだったので、話を詰めてもらって、曲を作れることになって。棚から牡丹餅みたいな話ですけど、すごく嬉しかったし、アニメの主題歌を作るようなつもりで制作しました。

──『EVOL(イーヴォー)』のダークファンタジー的な世界観ともすごく合ってますよね。カネコ先生の作品はいつぐらいから読んでたんですか?

最初は中学生のときかな。とにかくカッコいいなと思ったし、好きなコマをタトゥの絵柄にするくらい好きです。マンガは今もかなり読んでて、1年に500〜600冊くらい買ってるんじゃないかな。電子書籍だと、いくらでも買っちゃうんで(笑)。

──すごい(笑)。話題の『ルックバック』(藤本タツキ)読みました?

ああー。藤本タツキ先生、すごすぎて読めないんですよ。年齢も近くて、確か3つ上なのかな?『ファイアパンチ』だけは読んだんですけど、”これはヤバイ。自分がもうちょっとビッグになってから読もう”と思って。

──(笑)。それくらいすごい才能だと。

そうですね。音楽でいうと自分より年下のジェイコブ・コリア—がすごすぎて、怖くて聴けないみたいな……いや、めっちゃ聴いてますけどね(笑)。マンガって、知識と技量の幅がめちゃくちゃ広くないと成立しない芸術形態だと思っていて。藤本タツキ先生は映画の造詣がすごいし、『BEASTARS』の板垣巴留さん、『映像研には手を出すな!』の大童澄瞳さんも知識と技術がすごい。畏敬の念を抱いてます。

──連続コラボシリーズの最後はALIとの共演による「Ghost!?」。

レーベルの担当者から「ALIのボーカルのLEOが(キタニの)『ハイドアンドシーク』めっちゃ好きって言ってたよ」という話は聞いてて。コラボシリーズのなかでバンドと一緒にやりたいと思って、ALIの名前が挙がったときに、“こういう曲をやりたい”というアイデアがパッと浮かんだんですよ。「Ghost!?」の軸になってるのはビッグバンドジャズなんですが、以前からやってみたかったんですよね。ロックバンドの枠のなかで(ジャズの)スウィング感がある曲はやったことがあるんだけど、ホーン(管楽器)のことがわからなくて。ALIだったらやれるなと思って、アレンジとサウンドプロデュースをお任せしました。

──サウンドのイメージをやり取りしながら?

そうですね。この曲の歌詞は『ラスベガスをやっつけろ』という映画がモチーフになってるんですけど、LEOさんもその映画が好きだったみたいで。すごくスムーズでした。

■スケール感のあるスタジアムロック的な曲に辿り着いた

──ここからはシングル「聖者の行進」について聞かせてください。表題曲「聖者の行進」は、“ノイタミナ”アニメ『平穏世代の韋駄天達』OPテーマ。

『平穏世代の韋駄天達』は、原作がふたつあって。天原さん(原作・原案)がネットに発表していたものと、クール教信者さんが作画したコミカライズ版があるんですけど、どちらも読んでから制作しました。昔ながらオタク文化の雰囲気があって、いい意味で今っぽくないんですよ。ストーリーはかなり過激で、裏切りの連続だし、“え、こんな死に方?”みたいなシーンもあって。めちゃくちゃ面白かったですね。“これは自分の曲に合うだろうな”と思ったし、「聖者の行進」が出来たときは“これで決まりでしょう!”と自信満々でした(笑)。とはいえ、この曲に至るまでにはかなり迷ったんですけどね。もっと邦楽ロックみたいな曲も作ったし、渋めの曲も作って。4曲くらい作ったあと、スケール感のあるスタジアムロック的な曲に辿り着いた感じですね。アニメサイドからは「そこまでアニメを意識しなくてもいいですよ」と言ってもらったんですけど、無理して寄せたわけではなくて、自分と作品の共通点がここだったという感じなんです。タイアップは、それを探す作業が大事なんだろうなと思ってるので。

■原作を読んだときも“俺みたいだな”と思いましたから(笑)

──歌詞に関しては?

『平穏世代の韋駄天達』には、魔族、神様、人間が存在していて。自分が思いを寄せられるのは、やっぱり人間かなと。大きな理不尽のなかで、何もできず、ただ救いを求めるーーそういう人間の在り方に共感したし、考えてみると、自分もそういうことばっかり歌ってきたんですよね。原作を読んだときも“俺みたいだな”と思いましたから(笑)。

──シングルの2曲目は「Ghost!? 」(Bad Mood Junkie ver.)。

ALIとコラボした「Ghost!?」を完全にリアレンジしました。レコーディングのメンバーはライブをサポートしてくれてる“いつメン”ですね(笑)。原曲のアレンジでは、ALIがいないとライブで演奏できないんですよ。ありがたいことに「ぜひライブでやってほしい」という声も多いんですけど、パーカッションやホーンの音を同期させて流すのも味気ないなと。だったらバンドメンバーと一緒に演奏できるバージョンを作ったほうがいいよね、という流れですね。“小編成でスウィング・ジャズをやる”という質感ですけど、BPMも上がってるし、コードも少し違っていて。いちばん最初に作ったデモを進化させた感じかな。僕も頑張ってジャズっぽいギターを弾きました。ジャズの素養はないので、“っぽい”ですけど、すげえ大変でしたね(笑)。

──「人間みたいね」(Acoustic ver.)。

「人間みたいね」は『DEMAGOG』に入ってる曲なんですよ。ギターと鍵盤でアレンジしたセルフカバーをTikTokにあげたら思いのほか評判がよくて、だったらフルサイズを作ろうと。鍵盤はバンドメンバーの平畑徹也さんに弾いてもらいました。

──なるほど。TikTok、今や音楽シーンに欠かせないプラットフォームですよね。

僕は最近サボり気味ですけど(笑)、反応が速くて面白いですね。たとえば午後3時くらいに“やろうかな”と思い立って、曲を作って、動画を撮って、ちょっと編集すれば8時くらいにアップできたりするんですよ。反響もすぐにわかるし、あのスピード感は楽しいです。

──ちなみに配信ライブについてはどう捉えてますか?

例えばライブハウスのステージで演奏して、それを配信するだけのライブはやりたくないですね。去年の6月に渋谷CLUB QUATTROから配信したときは、フロアをメインステージにして、バンドメンバーと向き合って演奏したんです。会場の入り口や階段、サブステージなども作って、配信ならではの映像になったのかなと。その後の配信ライブは倉庫にセットを組んで、アルバム『DEMAGOG』を再現するというコンセプトだったんです。映像作家の方に監修していただいて、作品を作るような感じであれば(配信ライブの)意味があるのかなと。

──そして10月31日から待望の全国ツアーがスタート。大阪はBIGCAT、東京はSTUDIO COASTと会場の規模も上がってきましたね。

そうですね。STUDIO COASTは観に行く立場としても好きなハコだし、あそこで自分のライブをやれるのは嬉しいです。ステージが広いほうがやれることも増えますからね。

──演出的に?

演出というより、広いほうがラクというか。歩き回りながら歌うのも好きなので(笑)。これまで経験したいちばん大きい会場は仙台PITなんですけど、すごく快適だったんですよ。バンドメンバーは3人だったんですけど、そのぶん、ステージを広々と使えて。“100%の力を出せる!”みたいな感じでした(笑)。

──お客さんの“声出し禁止”についてはどうですか?

だいぶ慣れましたね。ファンの皆さんもスマフォの音声アプリを使って、「がんばって!」とか「いけいけ!」みたいな声を送ってくれて。シンガロングする曲に関しては、あらかじめボイスメモでみなさんの歌を送ってもらって、それをライブのなかで流してるんですよ。僕も観る側も“やり方はいろいろあるな”という感じになってるし、しばらくは頑張れるかなと。

■人よりもいろんな場所で音楽をやれていることで、気づくことも

──素晴らしい。9月以降も様々なプロジェクトやリリースが控えているそうですが、制作も継続しているんですか?

ヨルシカのツアーが始まったから、今はあまりやれてないですね。

──ベーシストとしての活動もありますからね、キタニさん。

そうなんですよ。最近、“楽器がうまくなりたい欲”が今さら出てきて。ずっとひとりで宅録してきて、修正することはうまくなってるんですけど、だんだん“楽器がうまいって大正義だな”と思うようになって。ベースもそうだし、アコギの指弾きを練習して、ボサノバの曲を弾いたり。サックスも始めたし、楽器の練習している時間は結構ありますね。

──歌はどうですか?

歌も頑張りたいですね(笑)。最近、神はサイコロを振らないの柳田周作くんと仲良くなったんですけど、彼はめちゃくちゃ歌がうまいんですよ。ヨルシカのsuisさんも本当にすごくて。ピッチとリズムがきれいに合ってるのが歌のうまさだろうと思ってたんだけど、それだけじゃなくてアーティキュレーション(音と音のつながりに強弱や表情をつけること)が大事なんですよね。しゃくり方の調節だったり、ビブラートだったり、ニュアンスの付け方が重要で。それはサックスをやってて気づいたことでもあるんですよ。サックスもうまさにはピッチとアーティキュレーションの両方が必要なんですけど、歌もそうだなと。練習っていっても、歌って、録音して、聴いてを繰り返してるだけなんですけどね(笑)。

──楽器や歌の技術が上がれば、表現にダイレクトに反映されるだろうし。

そうですね。人よりもいろんな場所で音楽をやれていることで、気づくこともたくさんあって。得してるなって思います。


プロフィール

キタニタツヤ
1996年生まれ。2014年頃からネット上に楽曲を公開し始める。
2017年、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。
2018年にはバンド『sajouno hana』を結成。同年9月にはソロ作品「I DO(NOT)LOVE YOU.」を発表。同作はギター、ベース、プログラミングなど、マスタリング以外のすべての作業を一人で完結させた作品で、高い評価を得る。
2019年渋谷WWWでのワンマンライブを満員御礼の下に開催。同じく2019年9月にリリースされた1st mini AL「Seven Girls‘ H(e)avens」はタワレコメンにも選定されているほか、SPACE SHOWERが選ぶ注目新人”RETSUDEN NEW FORCE”にも選出。
2020年リリースの最新作『DEMAGOG』は全国各地のラジオ局パワープレイに数多く指定されたほか、タワーレコード『NE(X)T BREAKERS』にはるまきごはんと共に選定。
『ヨルシカ』のサポートメンバーとしても参加や、『sajouno hana』は、“とある科学の一方通行”などの有名アニメーションのタイアップ曲などをリリース、作家としても数々のアーティストに楽曲を提供も行うなど、シーンを選ばずその才能を発揮し続けている。


リリース情報

2021.08.18 ON SALE
SINGLE「聖者の行進」


ライブ情報

キタニタツヤ One Man Tour “聖者の行進”
10/31(日)北海道 札幌SPiCE
11/3(水・祝)大阪 BIGCAT
11/6(土)愛知 名古屋BOTTOM LINE
11/14(日)広島 SECOND CRUTCH
11/16(火)福岡 BEAT STATION
11/20(土)宮城 仙台LIVE HOUSE enn 2nd
11/22(月)東京 新木場USEN STUDIO COAST



キタニタツヤ OFFICIAL SITE
https://tatsuyakitani.com

キタニタツヤ YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCgP3GbgbuVzAhlctGU5yuPA

キタニタツヤ OFFICIAL Twitter
https://twitter.com/TatsuyaKitani?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor

YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
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