THE F1RST TIMES

INTERVIEW

2021.09.21

尾崎裕哉が新作に映す、この時代。笑顔の向こう側にある“見えてこない”感情

尾崎裕哉が新作EP「BEHIND EVERY SMILE」をリリースした。

昨年10月に発表した1stフルアルバム『Golden Hour』によって、思春期から現在までの軌跡を描いた尾崎。約1年ぶりの新作となる本作では、“笑顔の背後にあるもの”をテーマにした歌、ネオ・フォーク、オルタナR&B、ゴスペルなどを反映させたサウンドメイクなど、さらに深みを増した音楽を表現している。

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希

■どうしても目の前の曲に気持ちを持っていかれる

──2020年10月に初のフルアルバム『Golden Hour』をリリース。これまでの集大成と称すべき作品だと思いますが、尾崎さんにとってはどんなアルバムでしょうか?

もちろん自分にとっても大事な一枚ですね。“過去がゴールデンアワー”という思いは変わらないし、聴き直しても“いいな”と思えるので。リリースしたタイミングは(コロナ禍で)難しい時期だったんですが、ファンの方には喜んでもらえたみたいだし、何より“ようやくアルバムが出せた”という喜びもあったので。

──『Golden Hour』をリリースしたことで、次のビジョンも見えてきた?

いや、そうでもないです(笑)。そのときのベストを尽くした作品だし、ちょっと燃え尽きた感じもあったし。もともと“このアルバムを次のステップにして”みたいな考え方ができないんですよ。どうしても目の前の曲に気持ちを持っていかれるし、それでいいと思ってるので。

──なるほど。今回のEP「BEHIND EVERY SMILE」の制作は、アルバムのリリースにまつわる活動が落ちついてからですか?

そうです。だいぶ前に書いた曲、最近作った曲を含めて、手持ちの楽曲からセレクトしたんですけど、構想を練ったのはアルバムを出して、しばらく経ってからなので。シングルにするかアルバムにするかも決めてなかったんですけど、結局、“4曲がちょうどいいな”というところに落ち着いて。4曲あればリード曲だけが目立つこともないし、“ちょっと足りない”という感じもいいなと(笑)。

■笑顔の向こう側にある感情や言葉ってたくさんあるなと

──統一感というか、共通したムードみたいなものも作れますからね。「BEHIND EVERY SMILE」というタイトルについては?

以前からそうなんですけど、曲を作るときに“笑顔”をモチーフにすることが多いんですよ。それを踏まえて、「この時代における笑顔」について考えてみて。たとえば“がんばる”を“顔晴る”と書く人がいるんですけど、それって“笑顔を作ることから気持ちを晴らそう”ということだと思うんです。あとは“作り笑顔”だったり“苦しいときほど笑え”だったり、笑顔の向こう側にある感情や言葉ってたくさんあるなと。そういうニュアンスを込めた曲を集めてみたかったんですよね、今回は。

──まずテーマありき?

そうです。もっと言うと、ビジュアルが先だったんですよ。マギー・ロジャースというシンガーソングライターが、インタビューで「アート・ボードを作って、世界観を固めてから制作にした」という話をしていて、それは面白そうだなと思って。まずはビジュアルや言葉を集めて、自分の中で世界観を作ってからEPの制作に入ったんですけど、それに似合うのが「BEHIND EVERY SMILE」というタイトルだったんですよね。

──“ビジュアル”というのは、例えばどんなものなんですか?

これはジャケットのアイデアにも繋がっているんですけど、Teiji Hayamaさんという現代アーティストがいらっしゃって。マリリン・モンローなどの著名人の顔をデフォルメして再構築した作品を作っているんです。シュールレアリスム的なところもあるんですが、彼の作品にインスパイアされたところもありますね。

──EPのジャケットは、尾崎さんの目の部分が見えなくなってますね。

そう、目のところが破れていて。デザイナーの渡辺(来)くんが、表情を隠すようなデザインにしてくれたんですよ。

──“笑顔”がモチーフになってる作品で、目が見えないジャケットって、ちょっとシニカルですよね。ちなみに尾崎さんは普段、笑顔が多いタイプですか?

そうだと思います。笑い声がデカいし、笑いのハードルも低いので(笑)。

■この世界を飛び出すことのモチーフとして“ロケット”

──では、収録曲について聞かせてください。まずは1曲目の「ロケット」。“久しぶりに出会えた君とのランチ”という冒頭のフレーズ、すごく今っぽいですよね。コロナ禍になって、なかなか人と会えない時期が続いているので…。

ホントですよね。この歌い出し、すごく恥ずかしいんですよ。“ランチ”という言葉を歌うとは思ってなかったし、こんなかわいい言葉を歌詞にすることもあるんだなって自分で思って(笑)。もともとはマジメな曲というか、この世界を飛び出すことのモチーフとして“ロケット”を題材にしたのが最初で。それをもっとポップに表現しようと。

──日常の風景とロケットという言葉の対比が面白いですよね。

あ、そうかも。なんでロケットにこだわったかというと…たとえば映画を観るときも、宇宙モノが好きだったりするんですよ、「インターステラー」とか。最近は堀江貴文さんやジェフ・ベゾスさんがロケット産業に投資したり、好きな人とロケットに乗って宇宙に飛び出せる時代になりつつある気がして。

──なるほど。今は海外旅行も自由に行けないですけどね…。

僕も年に1回は海外に行って、日本以外の空気を感じていたので。「ロケット」には“どっか行きたい”という気持ちも入ってるかも(笑)。

──(笑)「ロケット」のネオ・フォーク的なサウンドも素晴らしくて。アレンジはトオミヨウさん。トオミさんは今作でも「ロケット」「Anthem」「With You」の編曲を担当していますが、彼との付き合いはかなり長いですよね?

そうですね。初めて会ったのは僕が日本に帰ってきたときだから、14歳かな。不思議な関係ですよね。トオミさんは、自分の父親(尾崎豊)のプロデューサー(須藤晃)の息子なので。世襲なの? って(笑)。

──アレンジの作業はどうやって進めているんですか?

曲によっても違うんですけど、「ロケット」は一緒に1から作った曲なんです。トオミさんのスタジオに行って、「こういうメロディとこういうコード進行なんですよね」と伝えて、そこからふたりで形にしていって。それがたしか、今年の2月だったかな。同時進行でいくつか曲をアレンジしてたんですが、作品をリリースすることになって、「『ロケット』を入れるんだったら、もうちょっとしっかり作ろう」ということになり。僕のほうで新たにギターのフレーズを入れたり、コード進行を少し変えたものを送って、さらにトオミさんのほうで再構築して。

──何度かやり取りしながら共作したと。

はい。骨格は同じだけど、デザインが違うというか。そういう作り方は初めてだったし、面白かったですね。

■傷ついた経験やトラウマはそんなに簡単に解消できない

──「Anthem」は、“誰も声を上げることもなく/踏みにじられた希望と誇りを/笑うのは 何故だ”など、強い言葉が真っ直ぐに伝わってくる楽曲。メッセージ性も濃いし、尾崎さん自身の感情が込められているのかなと。

たしかに“気持ち先行”ではありますね。この曲の根源にあるのは自分自身だったり、自分の家族の話なんです。父親が亡くなったとき、母親がメディアにバッシングされて、傷付けられた経緯があって。そのことを歌いたいと思ったんですよね。

──そうだったんですね。亡くなられたのはかなり前ですが、その時期のことを今歌おうと思ったのはどうでしてすか?

形になったのはこのタイミングですけど、曲を作って歌い始めたのは3年くらい前なんです。傷ついた経験やトラウマはそんなに簡単に解消できないし、言葉にするだけでも何年もかかることがあって。母親だけではなくて、僕のまわりには傷付けられた経験を持っている人がいるし、“その気持ちはどうしたらいいんだろう?”という歌は意外とないよなと思ったし、“笑顔の後ろにあるもの”というEPのテーマにも合っていて。特にこの曲は正面から歌った感じがありますね。

■孤独を分け合うことはいろんな人が求めていることなんだと思う

──“孤独を分け合える人はいるかい”というフレーズも印象的でした。孤独や傷を抱え込まず、信頼できる人とシェアするのはとても大事なことだなと。

アルバムに入っている「LONELY」もそうなんですけど、孤独をテーマにすることも結構あって。僕自身も一人でいる時間が多いし、孤独を分け合うことはいろんな人が求めていることなんだと思います。

■僕なりのゴスペル・テイストを形に

──続く「Lighter」は尾崎さんの歌の力がしっかりと感じられる楽曲。ゴスペルの雰囲気もありますね。

お、すごい。嬉しいです。まさにゴスペルのように、聴いていて元気をもらえるような表現をしたかったので。カーク・フランクリンというゴスペルのソングライター/プロデューサーがいるんですけど、身振り手振りもすごくて、彼のゴスペルバンドの演奏を観るとみんな元気になっちゃうんですよ。そういうヴァイブスが大好きなので、自らもやってみたいなって。カークみたいにはやれないけど(笑)、僕なりのゴスペル・テイストを形にしてみた感じですね。

──歌詞の内容よりも、アレンジや音像が先だった?

そうです。僕は基本的に曲先で、音のイメージやメロディから作ることがほとんどなので。「Lighter」を作った時期は、実際にゴスペルをよく聴いていたんです。たとえばカニエ・ウェストもそうですけど、ゴスペルを現代的に解釈しているアーティストの曲を聴いて、“この感じをもう少しライトなポップスにして、J−POPとして聴けるものにしてみよう”と。

──カニエ・ウェスト、ここ数年はゴスペルにどっぷり傾倒してますよね。

『イーザス』というアルバムからはじまって、「サンデー・サービス」というゴスペルの集会もやってますからね。「サンデー・サービス」は世界各地でやっていて、その映像からも刺激をもらいました。

──今となっては、大勢の人が集まって歌うこと自体が尊いですからね…。

ホントですよね。あと、定期的にやっているbillboard classicsのコンサートも意識していて。フルオーケストラ、アカペラのみなさんと一緒に歌うこともあって、そのときに映える曲を作りたくて。

──ぜひ、オーケストラ&アカペラで聴いてみたいです。この楽曲のアレンジはYaffleさん。彼との関りもかなり長いですよね。

Capeson(2014年〜スタートした尾崎裕哉のソロプロジェクト)のときから一緒にやってますからね。今でこそビートメイカーとして活躍してますけど、出会ったときはレディオヘッドが大好きなロック小僧で、すごくウマがあったんですよ。

■曲を書いたのかなり前で、そのときの思い出や経験が直接出ている

──そして4曲目の「With You」は、ストレートなラブソング。

僕が書くラブソングは大体ストレートなんですけど(笑)、この曲を書いたのかなり前で、そのときの思い出や経験が直接出ていて。歌詞もまったく変えてないんですけど、そこは自分のエゴというか、どうしても変えたくなかったんですよね。まだ曲を書くことに馴れてない時期だったし、拙さもかなりあるんだけど、そのぶん、当時の感情が強く感じられるというか。その頃の状況だったり、この曲で歌っている人のこともはっきり覚えてますからね。

──尾崎さん自身のリアルな経験と結びついているんですね。 

はい。自分にとっても大切な曲だし、“この感情をそのままにしておきたい”という思いもあって。この曲を好きだって言ってくれるファンも多いし、すごく受け入れてもらってる感じもありますね。

──ファンの皆さんにとっては、待望の音源化なんですね。

そうみたいです。「やっと聴ける」「早くCDで聴きたい」という声も届いているので。(ファンとの)距離感は大事にしたいし、すべてファンのためにやっているわけではないんですけどーー自分のためにやってるところも大きいのでーー「聴きたい」と言ってもらえたら、なるべく早く作品にしたいなと思いますね。

──音楽的にもすごく充実してますよね。アルバムの時期はポスト・マローン以降のオルタナR&B、ネオ・フォーク、インディー・ポップなどを聴いていたそうですが、最近はどうですか?

今言ってもらったジャンルはずっと聴いてますよ。いいアーティストがどんどん出てきてるし、“こういう感じもいいな”という曲も多いので。日本で言えば、J-HIPHOPがいいですね。カッコいいトラックが増えていると思います。

■自分の音楽を自然に受け入れてもらえるのは嬉しい

──尾崎さん自身の好みの音を反映させても、そのままJ-POPとして受け入れられる状況ができつつあるのでは?

そうかもしれないですね。僕のファンは30代、40代の方が多くて、50代のリスナーもいるんですけど、みなさん、いろんな音楽を聴いているみたいで。自分の音楽を自然に受け入れてもらえるのは嬉しいですね。

──EPのリリース後は全国ツアーを開催。その後の活動はどうなりそうですか?

曲を作りたいですね。できれば年内にもう一作出したいくらいです(笑)。僕はリリースが決まってから形にするので、今の段階では“アイデアの断片”という感じなんですが、やりたいことはいろいろあるし、制作は続けようと思ってます。


プロフィール

尾崎裕哉
オザキヒロヤ/1989年、東京生まれ。2016年にDigital 1st Single「始まりの街」をリリース。2020年10月に1stフルアルバム『Golden Hour』をSMEレコーズより発表。2021年9月22日には約1年ぶりとなる3rd EP「BEHIND EVERY SMILE」リリース。フルオーケストラとの競演によるビルボードクラッシックスコンサート、弾き語りワンマンツアー「ONE MAN STAND」、バンドツアー「INTO THE NIGHT」と多様なスタイルでのライブ活動を行っている。


リリース情報

2021.09.22 ON SALE
EP「BEHIND EVERY SMILE」

初回生産限定盤

通常盤


ライブ情報

ONE MAN STAND 2021
09/25(土)京都 磔磔
09/26(日)神戸 クラブ月世界
10/02(土)奈良 EVANS CASTLE HALL
10/03(日)梅田 CLUB QUATTRO
10/09(土)仙台 Rensa
10/10(日)水戸 LIGHT HOUSE
10/15(金)札幌 ふきのとうホール
10/23(土)福岡 Gate’s7
10/24(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
10/30(土)金沢 GOLD CREEK
10/31(日)新潟 ジョイアミーア
11/03(祝)名古屋 SPADE BOX
11/06(土)静岡 LIVE ROXY SHIZUOKA
11/13(土)埼玉 HEAVEN’S ROCK VJ-1
11/14(日)埼玉 柏PALOOZA
11/20(土)東京 大手町三井ホール


尾崎裕哉 OFFICIAL SITE
https://www.hiroyaozaki.com

尾崎裕哉 Twitter
https://twitter.com/ozakihiroyainfo

尾崎裕哉 Instagram
https://www.instagram.com/hiroya.ozaki/

尾崎裕哉 YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UChyKyQbjo7NwVvttvSciHzA