THE F1RST TIMES

INTERVIEW

2022.06.03

キタニタツヤの新作『BIPOLAR』。“双極、対極”というコンセプトで仕上げた意図とトライで見えた新たな景色

キタニタツヤからニューアルバム『BIPOLAR』が届けられた。「聖者の行進」(TVアニメ『平穏世代の韋駄天達』オープニングテーマ)、「Rapport」、「タナトフォビア」(マンガ『BLEACH』の原画展『BLEACH EX.』テーマソング、イメージソング)、「冷たい渦」「プラネテス」(テレビラマ、『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』主題歌)などを収めた本作。“双極、対極”というコンセプトに貫かれた歌詞の世界、ジャンルを超越した音楽性、表現力を深めたボーカルを含めて、キタニの際立った才能がさらに開花したポップアルバムに仕上がっている。

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希

■パッケージするんだったら、コンセプチュアルなものを作りたい

──前作『DEMAGOG』(2020年)以降は、エジマハルシさん(ポルカドットスティングレイ)、バンド・ALIなどとコラボレーション楽曲を発表。アニメ、ドラマなどの主題歌を手がけるなど、外部と積極的に関わってきました。

『DEMAGOG』まではひとりだけで作り切ってたんですけど、その後はコラボレーションだったり、人のクリエイティブをお借りして制作することを意識して続けてましたね。それによって自分自身の創作もいい方向に変わっていくんじゃないだろうか、という指針もあったので。

──キタニさんにとっては新鮮なトライだった?

はい。それまでは誰かと一緒に音楽を作ることをほとんどやってなかったんですよ。ボカロはまさにひとりで音楽を作り上げる文化だし、バンドをやっていたときも、結局は自分ひとりで曲を作ることがほとんどで。他者と協力して何かやったのは、学生時代の文化祭くらいかな(笑)。

──実際にコラボを続けて、得られるものも多かった?

すごくありましたね。自分からは出てこないアイデアを取り込んでも、「これは自分の作品です」と胸を張れるものばかりだったし、発見もたくさんありました。特にアニメやドラマなどの楽曲に関しては、「このテーマは自分で選択することはないな」ということもあるし、タイアップ先からの「こういう感じでお願いします」という枠の中で、自分の美学に反しない曲を作ることで、自分の可能性を拡張するにも役立ったのかなと。

──なるほど。ちなみにキタニさん、性格的にはオープンなんですか?

そうだと思いますよ(笑)。社交性はあるほうだと思うし、人からも明るいって言われますけど、クリエイティブは別なんですよね。初対面の方と曲を作るときは若干、不安もあるし、しっかりコミュニケーションを取らないといけないなと。些細なことであっても、「ここの表現はどうなんでしょうね?」みたいなやり取りが大事だなって痛感してます。そういう部分も勉強になりましたね。

──ニューアルバム『BIPOLAR』にも、この2年間で得たものが反映されていると思います。いろいろなテイストの楽曲が入っていますが、全体的なイメージがしっかり統一されていて。

アルバムはそうあるべきだと思っているんですよ。これまでの作品も“コンセプトありき”で作ってきたし、そうじゃないとアルバムとしてまとめる意味がないような気がして。その期間に作った曲を入れるだけだったら、サブスクで公式プレイリストを作ればいいじゃないですか。そういうアルバムがあってもいいけど、せっかくパッケージするんだったら、コンセプチュアルなものを作りたくて。そういう作品が好きな人もきっといるだろうし、作り手としてのエゴも満たされますからね。今回の場合は、ドラマの主題歌2曲(「冷たい渦」「プラネテス」/テレビドラマ『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』主題歌)、マンガ『BLEACH』の原画展のために書かせてもらった2曲(「Rapport」「タナトフォビア」(マンガ「BLEACH」の原画展『BLEACH EX.』テーマソング、イメージソング)があったから、その4曲をもとにコンセプトを考えました。それに合う曲だけを厳選したので、アルバムに入っていない配信シングルもあるんですよ。

■“ひとつのものをふたつの角度から見て作った2曲”を5セット

──アルバムタイトルの『BIPOLAR』も当然、コンセプトに則している?

はい。“両極性”とか“双極性”という意味ですね。ドラマも『BLEACH』もそうなんですけど、ひとつの物語の中にいくつかのメッセージが内包されていて、その中のふたつを取り出して曲にしたんです。そういうやり方が2回続いたので、それを軸にしてアルバムを組み立てたいなと。つまり“ひとつのものをふたつの角度から見て作った2曲”を5セット入れてるんですよ。

──今のお話を“ひとつのものに対して見方が分かれる”と解釈すれば、現在の社会ともリンクするような気がします。何事にもいろんな意見がぶつかり合って、分断が進んでいるので…。

たしかに。アルバム制作のときには意識してなかったけど、世の中にそういう面があるのは、僕も前々から感じてました。人間の性質もそうですよね。他の人からの見られ方と自己評価の違いもそうだし。

──アーティストとして名前が広がると、作品やキタニさん自身に関しても、いろんな意見が飛び交うこともあるでしょうね。

自分自身は、自分のことを“ハッピーで明るくてお気楽な人間だな”と思ってるんですよ、基本的には。ただ、作品に関してはあまりそういうものを作ってないし、どちらかというと暗いものが出力されることが多くて。そういうギャップみたいなことを指摘されることはありますね。ふだんは意識してないので、無意識が作用することもあるんでしょうけど…そう言えばこの前、あるテレビ番組に出させてもらって。自分としては明るく楽しくしゃべろうと思っていて、“どんどんイジってください”というテンションだったんですけど、MCの方が僕の曲をしっかり聴いてくださって、“この音楽性だったら、カッチリした方だろうな”という感じで接してくれて。そういうズレみたいなものは、ときどきありますね。まあ、僕自身も“最悪だ”というときと“人生って、なんて素晴らしいんだ”と思うことがあるので、行ったり来たりなんでしょうけど(笑)。

■この歌詞を活かすためには、どういうサウンドがいいか?

──ひとりの人間の中にもいろいろな人格があるというか。サウンドに関してはどうですか?『DEMAGOG』はロックテイストが強めでしたが、今回のアルバムに関して、意識していたジャンルやテイストなどはあったんでしょうか?

“今回はこういうサウンド”みたいなモードは特になかったですね。今って、ジャンルの統一性はそれほど重要じゃないと思っていて。“このアーティストといえば、こういう感じだよね”みたいなイメージも必要ないし、それをポジティブに捉えて、好き放題やってます(笑)。実際には“この歌詞を活かすためには、どういうサウンドがいいか?”という考え方なんですけどね。あと、リスナーとしては最新の曲をずっと追いかけているので、特に意識しなくても、大きくずれることもないだろうなと。アルバムにはギターロックもあれば、ファンクやハウスっぽい曲もあって。“俺が歌えば、キタニタツヤの音楽になるっしょ”という感じです。

──もちろん、根底はポップミュージックですよね?

そうなんですけど、リスナーとしてはそんなにJ-POPを通ってないし、何も考えずに自由に作ると、ちょっとヒネくれた曲だったり、激しいロックになりがちなんです。僕にとってポップスは“挑戦”かもしれないですね。今回のアルバムでは、アレンジャーさんの力を借りた曲もあって。特に「プラネテス」はNaoki Itaiさん(緑黄色社会、ずっと真夜中でいいのに。、Adoなどの楽曲を手がけるクリエイター/ギタリスト)にアレンジをすべてお任せしていて。曲によって“3割くらいお願いする”“5割くらい〜”といろいろやり方があるんだけど、この曲は10割やっていただいたんです。僕はメロディと歌詞を良くすることだけに集中していたんだけど、すごくいいポップスになりましたね。

■パッと聴いて、すぐ歌えて、“いい曲だな”と思えるのも大事

──耳なじみがいいサウンドだし、口ずさみたくなるようなメロディですよね。

レーベルのスタッフから「スナックのカラオケで歌えるような曲にしてほしい」と言われていたんです(笑)。聴き込むことで良さがわかる曲もいいけど、パッと聴いて、すぐ歌えて、“いい曲だな”と思えるのも大事ですからね。

──では、アルバムの収録曲について聞かせてください。まず1曲目の「振り子の上で」は、“感情の振り子の上で僕らは暮らす”という歌詞もそうですが、『BIPOLAR』のコンセプトを提示した楽曲だなと。

“これから、こういうアルバムが始まります”と伝えたかったんですよね。こういう場合インストから始まることが多いと思うんですけど、個人的に退屈に感じちゃうんですよ(笑)。「振り子の上で」はジェットコースターみたいな起伏があって、かなり劇的で。映画のオープニングみたいな感じですね。

──続く「PINK」は、“不安と憂鬱におはよう/これでいい、おれに幸福は似合わない”というフレーズが印象的なファンクテイストの楽曲。サウンドの高揚感とシリアスな心象風景のコントラストがすごいですね。

「PINK」は、今の自分のやりたいことを脊髄反射みたいに出力してるんですよ。何も考えずに、ただただカッコいいと感じることを詰め込んだというか。歌詞に関しても情景描写が中心で、特にメッセージもなくて。おどろおどろしい皮肉だったり、難しい言葉で嫌味を言うのが好きなので(笑)、それをストレートにやりました(笑)。タイアップ曲の歌詞はわかりやすい言葉を使うことを心がけていたので、そこから離れたかったのかもしれないですね。

──「夜警」も素晴らしいですね。キタニさんのダークサイドが強く出ていて。

この曲もかなり自己満足かもしれないですね(笑)。アルバムの最後に作ったというのもあって、広く聴いてもらうというよりも、「PINK」と同じように、とにかく自分がやりたいことをやろうと。「ぜんぜんよくないよ」と言われていいという、当たって砕けろ精神ですね(笑)。

──そして「ちはる」(アサヒスーパードライ×『THE FIRST TAKE』コラボ企画書下ろし楽曲)は、春の切ない情景を描いたミディアムバラード。

思い切りメジャーなコード進行だし、作ってるときは“こんなに明るくて大丈夫だろうか?”と思ってたんですけど、歌入れをしてみたらいい感じにまとまって。春がテーマだったんですけど、底抜けに爽やかな曲というよりも、歌詞はちょっとほの暗いかもしれないですね。春って“新生活のはじまり”というイメージもあるけど、実際は風が強かったり、天気が不安定だったり、自分にとっては薄暗の印象のほうが強くて。「ちはる」の歌詞には、そちらのほうが強く出てると思います。そのぶんサウンドは頑張って明るくしようと思ったんですけど、結果、切なくなっちゃいましたね。

──それもキタニさんらしさなんでしょうね。「ちはる」はYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でも披露されました。

曲が出来て2〜3日後だったんですよ。レコーディングを皆さんに見てもらっている感じというか、かなり緊張しました。

■歌の表現を高めれば、自分の武器がひとつ増える

──しかもボーカルが大事な曲ですからね。

そうなんですよ。歌詞だけじゃなくて、“どう歌うか”も伝え方のひとつですからね。神サイ(神はサイコロを振らない)の柳田周作、ヨルシカのsuisさんもそうですけど、ボーカリストの能力が高い友人が周りにいて。ふたりの歌を間近で聴いていると、“歌い方によって伝わり方が違う”というのがはっきりわかるんですよね。僕はずっと“歌も楽器のひとつ”くらいに思ってたんだけど、そうじゃないんだなと。なので『DEMAGOG』以降は、歌をもっと意識するようになりました。技術の向上もそうですけど、“ここは強く歌って、ここは抑える”みたいなことすらやってなかったので。歌の表現を高めれば、自分の武器がひとつ増えるし、やれることも広がる。それは現在にまで至るテーマですね。

──まだまだ進化の過程である、と。以前のインタビューで「フロントマンとして華のある存在になりたい」と言ってましたが、そのテーマも継続しているんですか?

そうですね。ライブもやるようになったし、人前に立つ人間として、もっと頑張らないと。ただ、こればっかりは何をどう努力していいか、よくわからないんですよ。この春に『VIVA LA ROCK 2022』に出させてもらったときも、いろんなバンドを結構見て。自分なりに勉強してます(笑)。



リリース情報

2022.5.25 ON SALE
ALBUM『BIPOLAR』

通常盤


ライブ情報

One Man Tour“BIPOLAR”
5/8(日) 神奈川 Yokohama Bay Hall
5/15(日) 香川 高松festhalle
5/19(木) 新潟 LOTS
5/28(土)、29日(日) 北海道 札幌cube garden
6/3(金)福岡 DRUM LOGOS
6/4(土)広島 CLUB QUATTRO
6/10(金)宮城 仙台Rensa
6/18(土)大阪 なんばHatch
6/25(土) 愛知 名古屋DIAMOND HALL
7/2(土) 東京 Zepp Haneda


プロフィール

キタニタツヤ
1996年生まれ。2014年頃からネット上に楽曲を公開し始める。2017年、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。2018年にはバンド『sajou no hana』を結成。同年9月にはソロ作品「I DO(NOT)LOVE YOU.」を発表。同作はギター、ベース、プログラミングなど、マスタリング以外のすべての作業をひとりで完結させた作品で、高い評価を得る。2019年2月Village VanguardとコラボしてグッズとワンコインCD「Sad Girl」を発売。同年9月1st MiniAlbum『Seven Girls’ H(e)avens』を発売。2020年8月、アルバム『DEMAGOG』を発売。


キタニタツヤ OFFICIAL SITE
https://tatsuyakitani.com