■“Suchmosのカムバックに立ち会える”という喜びと興奮を滲ませた12000人のオーディエンス
Suchmosが2025年6月21日(土)、22日(日)、横浜アリーナでワンマンライブ『Suchmos The Blow Your Mind 2025』を開催。「バンドとして修行の期間を迎えるため」として活動を休止してから約4年、ついに本格的なカムバックを果たした。本稿では2デイズの初日、21日の公演をレポートする。
2025年6月21日(土)夏至、横浜の最高気温は30℃。昼間は真夏を思わせる暑さだったが、夕方になると爽やかな風が吹き始め、まさに“THE BLOW YOUR MIND”にうってつけの日。横浜アリーナには“Suchmosのカムバックに立ち会える”という喜びと興奮を滲ませた12000人のオーディエンスが詰めかけた。開演前のBGMのなかにThe Birthdayの「カレンダーガール」があったのも心に残っている。
2020年に予定されていたアジアツアーは初日(1月19日)の台湾公演を行ったあと、新型コロナウイルスの影響で中止。2月から予定されていた対バンツアーも開催できず、2020年7月にすべて新曲による生配信ライブを行ったあと、翌年2月から活動休止に入った。Suchmosの国内でのワンマンライブは、2019年の横浜スタジアム公演以来、じつに5年10ヵ月ぶりだ。
■これまでの軌跡とこれからのビジョンを同時に感じさせるステージ
この日演奏されたのは、アンコール2曲を含む全19曲。既発曲が13曲、2020年の配信ライブで披露された曲が2曲、7月2日リリースの新作EP『Sunburst』から3曲、そして、まったくの新曲が1曲。YONCE(Vo)がMCで「帰ってきたという言うべきか、また新しく始まったというべきか」と話していた通り、これまでの軌跡とこれからのビジョンを同時に感じさせるステージが繰り広げられた。
客席の照明が落とされ、オーガニックな雰囲気のSEとともにYONCE(Vo)、TAIKING(Gu)、TAIHEI(Key)、Kaiki Ohara(Dj)、OK(Dr)、サポートベーシストの山本連(Ba)が登場した瞬間、凄まじい歓声と拍手が沸き起こる。深みのあるハモンドオルガンの音色、タイトなベース&ドラム、渋みをきかせたギターフレーズが絡み合い、1曲目の「Pacific」へ。しなやかなグルーヴをたたえた“波に乗るSuchmo day by day”というラインが広がり、観客がゆったりと身体を揺らす。さらに新作EPの収録曲「Eye to Eye」ではステージ全体にライトが当たり、スクリーンにメンバーの姿が映し出される。「横浜、Come’On!」というYONCEのシャウト、自然発生的なハンドクラップも気持ちいい。
■冒頭からキャリアを代表するアンセムを次々と放ち、横浜アリーナ全体を最高のヴァイブスで包み込む
歪んだベースラインに導かれたアッパーチューン「DUMBO」、Suchmosの存在を広く世に知らしめた「STAY TUNE」、そして“STAY TUNE”“ROLL in Groove”“808”という文字が映し出され「808」へ。曲中でYONCEが山本連を紹介し、“Clap your hands”と呼びかけ、演奏のテンションもさらに上がっていく。冒頭からキャリアを代表するアンセムを次々と放ち、横浜アリーナ全体を最高のヴァイブスで包み込んだ。自由に音楽を楽しみまくるオーディエンス、笑顔でアイコンタクトを交わすメンバーの姿も印象的だった。
YONCEの第一声は「久しぶり。Suchmosです、どうも」。「帰ってきたというべきか、また新しく始まったというべきかわかりませんが、今日、この場所に集まってくれてどうもありがとう。楽しめたら、ご自由にどうぞ」という挨拶に導かれたのは、極上のグルーヴィー・チューン「PINKVIBES」。続けて歪(いびつ)で美しいロックサウンドと鋭利なDJスクラッチが絡み合う「Burn」、YONCEと観客の“all right”のコール&レスポンスが自然発生し、ジャズとソウルとファンクがぶつかり合うようなアンサンブルとともに“戦争は儲かるか? 平和はゴミか?”というフレーズを放つ「Alright」を演奏し、このバンドのスタイル、姿勢、価値観をダイレクトに見せつける。どの曲にもアレンジが加えられ、現在進行形のSuchmosが体感できたのも大きな収穫。すでにバンドの軸と言っても過言ではない山本連のベースプレイも圧巻だ。
ここでYONCEが改めて、5年数ヵ月ぶりのライブであることを告げ、メンバーに「君たち、いくつになったの?」と聞く(メンバー全員、30代半ば)。「今日は夏至ですよね。日がいちばん長い日ですよ。いない奴もいるんじゃない?わかんないけど、そんな気がする」と話し、「MINT」へ。アリーナの真ん中に設定された花道で“帰ってきたよ、今夜横浜へ”というラインを差し込むYONCEのボーカルを会場全体でシェアする場面は、この日のライブの最初のハイライトだったと思う。
■Suchmosの新たな旅の始まりを鮮やかに告げた「Whole of Flower」
ここからは新曲を中心としたシークエンス。まずは「Whole of Flower」。ピアノのイントロが始まった瞬間に「Whoo!」という歓声が起こり、抜けのいいバンドサウンドが出現。霧が消えて視界が広がり、時が再び動き出す──そんな気分が吹き抜けるこの曲はSuchmosの新たな旅の始まりを鮮やかに告げている。さらにYONCEがアコギを弾きながら歌った「Marry」。どこまでもピュアなプロポーズソングをこんなにも率直に歌うことができる今のYONCEの在り方に、強く心を揺さぶられた。
“人と人だけが頼りだ”と祈るように歌う「OVERSTAND」のあと、2度目のMC。
「ライブが始まる直前までステージ袖でずっとふざけてたんですけど、1曲目、TAIHEIのイントロが始まった瞬間に“すごい”と普通に思ってしまって。音楽やらせてくれて、本当にありがとうございます」
「いろんな都合をつけてここに集まってくれたと思うんですけど、なんだか変わってますよね、皆さん。こういうのが好きなんですか?俺らもこういうのが大好きなんですよ。今日は名前だけでも覚えて帰ってください。対バン募集してます!」
ライブ後半の始まりは、2020年の配信ライブのセットリストにあった「To You」。前のめりのビートのなかでエッジの効いたフレーズが響き合い“おまえらしくいてほしい”“言えよホントのこと”というメッセージをぶつけるロックチューンによって、会場の高揚感をさらに引き上げる。続く「Latin」と題された新曲は、タイトル通り、ラテン音楽の要素を取り入れたナンバー。「思いつくままに踊り続けろ」と煽るYONCEの声とともに強靭にしてプリミティブなサウンドが広がり、観客が自由に踊りまくる…と思ったら、いきなり「昨日10時に寝て、朝6時に起きて、入りの1時間以上早く横アリに来て、さすがにこの場所に飽きてます」と話し始めるYONCE。そのまま全員が思いつくままに喋り始める(なぜかステージは暗いまま)。
「じゃあ俺も、今日ここに来れなかった奴にひと言言わせてくれ。バカ野郎!ありがとな!」(OK)
「皆さん楽しんで!最後までいけるかな!」(TAIKING)
「今日からベース弾かせてもらってます山本連と申します。超気持ちいい!」(山本)
「皆さんお久しぶりです!僕は今日、小学生の遠足みたいに朝4時半に起きて、ワクワクが止まらなくて。皆さんの前で楽しくやらせてもらってます」(TAIHEI)
「会いたかった!今日はすげえ仲良くなれる人たちばっかだと思うから、どうか楽しんで帰ってください。ありがとう!」(Kaiki Ohara)
と思いのたけを叫んだあと、演奏に戻る6人。YONCE、TAIKINGはステージの端から端まで移動し、至近距離で観客とコミュニケーションを取る。さらに「GAGA」「VOLT-AGE」とロックバンドとしての凄みと快楽を漲らせる楽曲を続け、横アリの熱気は最高潮へ達した。ラストは「カモン、DJ!」(YONCE)という声から始まった「YMM」。快楽的なグルーヴが渦巻くなか本編は終了した。
アンコールを求める強烈な声援が飛び交うなか、メンバーが再びステージへ。
「先ほども言ったんだけど、ステージに立つ瞬間までヘラヘラしてて。ステージ立った瞬間に、自分の愚かさに気づきました。こんなに大切な人たちを待たせたり、見る機会がないままに何年も経っていたという事実を、1曲目のド頭から痛感して、あっという間に終わっちゃいました」(YONCE)
さらにYONCEは、2021年に逝去したオリジナルメンバーのHSU(Ba)について触れ、「人が生まれたり、死んでというのを言葉にするのはとても難しいんだけど、俺たちにとってとても近くにいる奴がいなくなりました。皆さんの中にも、近しい人を失った人もいれば、新しい命を育んでる真っ最中だという人もいらっしゃると思います。実際、今の世の中では人が死んだり殺されたりということも起きていて。アーティストがこういうことに口を挟むと“冷める”という人もいるかもしれないけど、やっぱり命は大事」「失ったものは帰ってこない、絶対に。だからずっと覚えていたいし、ずっと思っていたいなと思います。ちょっと一瞬、深呼吸しません?」
■叫ぶように歌うYonce、彼の歌を支えながら濃密なエモーションを響かせるメンバー
いろいろな思いが刻まれた言葉を届けたあと、「クソバカな友達に贈ります」と「Stand By Mirror」を演奏。叫ぶように歌うYONCE、彼の歌を支えながら濃密なエモーションを響かせるメンバーの姿もまた、この日のライブの大きなハイライトだったと思う。
改めてメンバー一人ひとりを紹介し、ラストの「Life Easy」。美しいピアノ演奏から始まり、“信じることが真実さ/誰のためでもなく/自分のために生きよう”というフレーズがゆったりと広がっていく。最後にメンバー全員が肩を組み、丁寧に挨拶した6人。本当にSuchmosが戻ってきた──そのことを強く実感することができる、素晴らしいステージだった。
■10月から『Asia Tour Sunburst 2025』の開催も決定
新作EP『Sunburst』のリリース、そして、10月から12月にかけて『Asia Tour Sunburst 2025』の開催も決定。YONCEいわく「人生の砂漠を彷徨う」時期を経て、再び歩み始めたSuchmos。これから始まる旅のなかで彼らはどんな景色を見て、どんな音を奏でるのか?それを心ある音楽ファンとともに共有していきたいと思う。
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY Desital Natives
Suchmos『The Blow Your Mind 2025』
2025年6月21日 横浜アリーナ
セットリスト
1. Pacific
2. Eye to Eye
3. DUMBO
4. STAY TUNE
5. 808
6. PINKVIBES
7. Burn
8. Alright
9. MINT
10. Whole of Flower
11. Marry
12. OVERSTAND
13. To You
14. Latin
15. GAGA
16. VOLT-AGE
17. YMM
<アンコール>
En1. Stand By Mirror
En2. Life Easy
ライブ情報
『Suchmos Asia Tour Sunburst 2025』
10月29日(水)KT Zepp Yokohama(神奈川)
11月2日(日)Zepp Fukuoka(福岡)
11月3日(月)Zepp Namba(大阪)
11月8日(土)BLUELIVE HIROSHIMA(広島)
11月14日(金)Zepp Sapporo(北海道)
11月16日(日)Sendai PIT(宮城)
11月21日(金)Zepp Nagoya(愛知)
11月23日(日)YES24 LIVE HALL(Seoul)
11月26日(水)VAS est(Shanghai)
11月28日(金)Zepp New Taipei(Taipei)
11月30日(日)Voice Space(Bangkok)
12月6日(土)クロスランドおやべ(富山)
12月12日(金)Zepp Haneda(東京)
12月13日(土)Zepp Haneda(東京)
Suchmos OFFICIAL SITE
https://www.suchmos.com/









