THE F1RST TIMES

INTERVIEW

2021.11.09

くじら×小説家・カツセマサヒコが音楽世界を何層にも広げる。「悪者」を語るスペシャル対談

クリエイター・くじらと、小説家・カツセマサヒコの対談が実現した。

くじらのデビューシングル「悪者」では、カツセマサヒコが楽曲をベースにオリジナル小説を書き下ろし。CDと全80Pの小説をパッケージにして発売している。

このコラボレーションはどのように生まれたのか? くじら「悪者」の世界に迫る連載企画の第3弾では、ふたりに、制作の背景からそれぞれの作品への想い、音楽と小説というカテゴリを超えて響き合う感性について、語り合ってもらった。

【特集第1回】
注目の新世代クリエイター、くじらに迫る。「悪者」発表の今に至る、彼の音楽原体験について
【特集第2回】
くじらと歌い手・相沢による「悪者」スペシャル対談。ふたりの関係性が見えてくる、制作裏話

INTERVIEW & TEXT BY 柴那典

■「悪者」の小説が生まれるまで

──くじらさんとカツセさんは今回の「悪者」のコラボが初対面ですか?

カツセマサヒコ(以下、カツセ):お仕事はそうですね。もちろんリスナーとしては知っていました。たしかSNSでご連絡をいただいたんですよね?

くじら:僕はもともとカツセさんが本を出す前からウェブライターとして書かれた文章を読んでいたんです。書籍化されたモノも、もちろん読んでいました。なので「悪者」が出来たときに“これはぜひお願いしたい”と思ってご連絡させていただきました。

──くじらさんはカツセさんの文章のどういうところに魅力を感じたんでしょうか?

くじら:カツセさんの書く文章は、読んでいて“手に取れる質量”があるような感じがするんです。触り心地としてはちょっと湿っているような、でも、それはイヤな湿り方ではなくて、つるんとしている感じの言葉を紡ぐ印象があって。そこから見える映像のようなものもすごく好きです。『明け方の若者たち』という小説が出たときも、ジャケットの写真も含めて、“すべてが好きなものが世に出た!”と思いました。

カツセ:ありがとうございます。

──カツセさんは、くじらさんの音楽をどんなふうに聴いていましたか?

カツセ:僕が今35歳で、下の世代の音楽を聴くことが多くて。yamaさんとコラボレーションをした頃から知って“すごい人が出てきた”という印象がありました。書く歌詞にも、それこそ湿度を感じるし、身近なものを表現するときのリアリティにすごくシンパシーを感じていて。だから、オファーをいただいて「悪者」の歌詞を読んだときにも“なんて書きやすそうなんだろう”というのと同時に、そのぶん大変な仕事になるだろうなと思いました。それ自体で完成されている世界なので、どう拡張していこうか、腕を組んでいた時間が長かったです。

──カツセさんはリスナーとして日本のロックバンドを聴いてきて、そうしたアーティストとの交流も深い印象がありますが、ボーカロイドやネットカルチャーにはどういう関心がありました?

カツセ:世代としてはクラスで聴いている人が誰もいなかったので、文化自体を後発で知るという感じでした。突出した人の名前が上がってくる中にくじらさんもいらっしゃって。聴いたときは、未来の音楽というか、肉体的ではない音楽の魅力を初めて知った感じでしたね。それで多少は聴くようになったんですけど、やっぱりバンドの肉体的な音楽が好きだったりするので、その世界にずっといました。なので、今回のお話をいただいたときにも、新しく音楽を受け入れている世代にどう向き合っていこうかということも考えました。圧倒的にリスナーが若いので、カルチャーギャップみたいなものも感じたりはしますけど、それも僕の中で財産にもなりますし。読みやすさとか、届きやすい言葉を多少は意識をしていた気がします。

──小説はくじらさんが原案ということですが、どうやって作っていったんでしょうか?

くじら:お願いした時点で曲も歌詞も全部あって。最初に曲が出来たときに“こういう話にできるな”とか“こういう面白い仕組みができるな”と思ったんですけど、僕が考えられるのはそこまでなんです。その先の緻密な作業、広げていく作業は僕にはできないので。誰にお願いしたらこの種が一番成長してくれるかと考えたときに、最初にカツセさんが思い浮かびました。僕がずっとカツセさんのファンでいつかご一緒したかったということもあるし、題材としてもカツセさんにお願いしやすい。それで、自分が思いついたことをお話ししました。

──それを受けて、カツセさんの印象は?

カツセ:まずコンセプトが面白いと思いましたね。男性と女性、それぞれのボーカルを立てることによって、ひとつの歌詞でも、主人公が変わり、視点が変わる。事実としてはひとつしかなくても、見る目が変わることによって「悪者」というテーマがいろんなふうに取れる。そういうところまでをコンセプトとして提案いただいていたので、“そこまで考える人なんだ”と思ったインパクトも覚えています。これまで「アルバムが完成したので、あとはお願いします」みたいな感じでお願いされることが多かったので。indigo la Endさんとの『夜行秘密』はまさにそのパターンでした。曲をいただいて、それを読み取るのはすべてこちらにお任せで、「二次創作を楽しみにしています」というスタンスだったので。そういう場合と違って、今回はコンセプトがパキッと決まった状態で渡されたので、そのテーマに沿いつつ、どこに自分の遊びを入れていくかを考えていく。そういうところが面白かったです。あと、単純に曲も歌詞も両方好きだったから良かったです。これはものすごく大事なことで、引き受けたものの気に食わなかったらどうしようと思うので。「悪者」はどっちのバージョンもすごく好きだったので安心して挑めましたし、“よし、小説を書こう”という気になりました。

くじら:良かったです。

■音楽を小説にするということ

──カツセさんが曲をもとに小説を書くようになったきっかけは?

カツセ:3年前くらいですね。alcottというバンドが4曲のラブソングを出すのに合わせて、それぞれの曲の歌詞をもとにした小説を書くということをやらせていただいたことがあるんですよ。それが発端で、音楽の仕事が始まりました。

──例えば、映像作家がドラマ仕立てのミュージックビデオを作るというような例は当たり前にありますが、小説家が曲をもとに小説を書くというのは、意外に前例が少ないと思います。カツセさんとしてはどういう想いで挑んでいますか?

カツセ:毎回プレッシャーは半端なく大きいですね。何を書いたとしても賛否は必ずあるし、アーティストのことや、その先にいるファンが何を求めているのかも考えなければいけないので、毎回大変さはあります。音楽を小説にするという行為自体については、住野よるさんとか、コラボレーションされている方もいらっしゃるんですけど、僕もあまり見たことがないんですよね。自分としては、小説を書くことでその曲に違う光の当て方ができるんじゃないかということは考えています。どのアーティストさんも、まずは耳から入る聴覚の情報を大事にしている。そして、ミュージックビデオが発達してきて視覚情報も補っていくことができる。そうなったときにも、例えば心情とか匂いとか、文章だから表現できるものがある。そういうことを考えて、小説にしかできないことをやろうと思っています。自分だけじゃなく、もっと増えてもいいと思いますね。そうすることで一曲の重みを大きくすることができる。それは今の時代においてはメリットなんじゃないかと考えています。

──くじらさんはどう思われますか?

くじら:今回、パッケージとしては音楽が主体なんですけど、個人的にはどちらかというと、「悪者」というお話が軸で、音楽があって、小説があって、MVがあってと、全部が“「悪者」というストーリーの種が咲いた先”という印象なんですね。 “この曲とお話を使ってこんなことができるぞ”と思いついたことをやろうと思ったので。

──実際、やってみての手応えはどうでした?

くじら: “くじら”というものは、特にクリエイティブチームを組んでやっているわけではないので、自分だけで完結しなくていいんですね。例えば、歌い手さんを呼んだりすることもそうだし、僕の発想や思いついたことを枝分かれさせることができる、フットワークの軽いプロジェクト。だから、僕が好きな人、ずっと憧れていた人とご一緒したいという念願が叶ったという感じです。

──カツセさんはどうですか? 小説を書き、それをもとにミュージックビデオが完成して、どんな手応えがありましたか?

カツセ:YPさんとお仕事はしたことがないのですが、仲が良く、飲みに行ったりしていたので、こういう形で初めてお仕事をご一緒することになるのは面白いなと思いました。彼の作品も知っていたので、映像化するならこういう感じだろうなとある程度予想がつくところもあって。そういう理解があったから出来た作品でもあるかなと思います。何より、くじらさんのアーティスト性の特殊さにびっくりしますよね。ずっと邦楽ロックの人たちが出るような雑誌ばかり読んでいたから、“くじらというアーティスト自体がそこまで前に出なくても、もっとうまい人に歌ってもらえばいい”というポジションで名を馳せていくというのが、ちょっと考えられなくて。そういう人って、昔は前には出てこなかったじゃないですか。そうやってコンポーザーとして名を馳せていきながら、ようやく自分で歌ったというスタンスも含めて、特殊なアーティストの上り調子のときに関わらせてもらっているんだなというのを、書き終えて、発売されてから、改めて実感してますね。有名な方ともコラボしてみんな知ってるけれど、実態はどういう人なのかわからない。そういうミステリアスさもすごく新鮮だし、それを「悪者」にも投影させたいと思いながら書いていたところはあります。

■くじらがグッときた小説のシーン

──歌詞でも小説でも“コンビニ”という言葉がひとつのフックになっていますよね。カツセさんの作品の中では、固有名詞とか記名性の強い描写もあったりすると思うんですが、今回はあまりそのあたりは見えないようにしているような気がしたんですが。

カツセ:そうですね。今回は固有名詞をあまり出したくないということは最初から思っていました。それはまさに、くじらさんの存在や作品自体に感じるミステリアスさを投影したいということもあって。匿名性を高めていくということはもとから考えていたことではあります。一方で“エヴァンゲリオン”という固有名詞が出てくるところはあって。これは時代性を表しているというか、今の時代に出たものだということを証明するために必要な言葉として、あえて残しておこうと決めたりしていましたね。

──くじらさんは小説を読んでみて、どうでした? 自分の想像を超えていたところはありました?

くじら:もちろん、全体的にそういう印象ではあります。例えばNetflixで映画を観るくだりとか、あと、コンビニを出てビニール袋の持ち手を片方ずつ持つくだりとか、“くーっ!”って思って。

カツセ:あはは。

くじら:それに、3話でのバイトの描写もすごく細かくて。自分が生み出した話のはずなのに、全然知らない話になっていて。“すごいな”と思いながら読ませてもらいました。

カツセ:実は、くじらさんが挙げてくれたコンビニの袋を半分ずつ持つくだりは、話としては全然いらないと思っていたんですよ。でも、その映像が導入として浮かんでしまったんですよね。あとは部屋の中でスナック菓子を咥えて、それを割ったところからエロい気分になるという描写があるんですけど、これを残しておいたら、きっとYPはすごく上手に映像にしてくれるだろうなと思っていて。そうやって数秒のシーンがフックになるようなものを、文章でも作りたいといつも思っていますね。今回は6話構成なんですけど、それぞれのシーンで、音楽でいうところのサビがちゃんと存在するように書きたいという。どの小説にもクライマックスが存在するんですけど、自分の場合は、山場というよりは、針のようにピンと立つ瞬間をいくつか忍ばせておくことで、音楽的な読まれ方がされないかなと考えているので。

──すごく音楽的だし、サムネ的な気がします。

カツセ:そうですね。サムネ的、見出し的な気がします。そういうものは意識してますね。特にこういうコラボレーションだと、普段小説を読まれない方が手に取るケースが多くなるので、掴みが大事と考えていて。誰もがやったことがあって、憧れそうなものってなんだろうと考えて膨らませていく感じでした。

■カツセからくじらへの質問

──カツセさんとしては、この機会にくじらさんに聞いてみたいことはありますか。

カツセ:ずっと自分で歌ってこなかった方が初めて歌ったわけですよね。僕はいいタイミングで関われたなと思っていたんですけど、プレッシャーもあるなかで、それはどういう決心だったんですか?

くじら:もともと自分は働くことに向いていないと思っていて。音楽でゴハンを食べていこうと考えたときに、歌は好きだけど、自分より歌が上手な人はたくさんいるな、と。ただ、“楽曲を作ること”だったら勝負ができると思ったんです。そうやって曲を作っていって、“僕が歌う”ということ自体に価値が生まれるまでは、歌わないでおこうと思いました。

カツセ:すごいな。その自我の抑え方って半端ないと思うんですよ。表現で食っていきたいと思った人って、どこかで自分を出したいというところがあると思うので。

くじら:それまでも、「歌ってみた」をやったり、実況をやってみたりとか、ボカロ曲を作って投稿してみたり、自分で写真を撮ってMVを作ったり、ベースで路上ライブをしたりとか、ありとあらゆることをしてきたんですよ。でも、自分には何もないと思って。できることをやっていかないと死ぬと思って。

カツセ:その賢さ、戦略性と自我の抑え方のバランスが、マジ、令和の人って思った(笑)。“なんで俺の音楽が気に食わないんだ、もっとお前らが俺の音楽を好きになれよ”っていうスタンスの人を死ぬほど見てきたから。

くじら:たぶんその理由としては、自母が「普通の人はこうだよ」と考えるタイプだったので。母はそういう価値観に合わせると喜ぶし、父は自由にしてることを喜ぶので。自分の発想と“みんなはこう思う”ということのすり合わせがうまくいってるんだろうなと思います。

カツセ:なるほど。それが今になって活きているということなんですね。すごいと思います。


プロフィール

くじら
2019年4月1日に活動を開始。作詞・作曲・編曲すべてを務め、ボーカロイド作品や、yamaやAdoなどのボーカルフィーチャリング作品をはじめ、楽曲提供など精力的に創作活動を行う。2019年7月にボーカロイドアルバム『ねむるまち』、2020年10月にフィーチャリング&ボーカロイドアルバム『寝れない夜にカーテンをあけて』を発表。今夏、「悪者」にてメジャーデビュー。新世代クリエイターとして高い注目を集めている。

カツセマサヒコ
小説家、ウェブライター。1986年、東京都生まれ。大学を卒業後、一般企業での勤務を経て、2014年よりウェブライターとして活動を開始。2020年にデビュー小説『明け方の若者たち』、2021年にindigo la Endとのコラボ小説『夜行秘密』を発表。ラジオパーソナリティやエッセイ連載など、活躍の幅を広げている。


リリース情報

2021.10.06 ON SALE
CD +カツセマサヒコ書下ろし小説「悪者」

完全生産限定盤

通常盤


くじら OFFICIAL SITE
https://www.whaledontsleep.tokyo/

カツセマサヒコ Twitter
https://twitter.com/katsuse_m

小説『夜行秘密』(双葉社)
https://www.futabasha.co.jp/introduction/2021/yakouhimitsu/index.html